ヴァンパイア騎士パロディ


「ヴァンパイア遊戯王」(ネーミングセンスは問うてはいけません)






・・・殺される

・・・ボク、殺される。

・・・人のかたちをした猛獣に。

「大丈夫か?」
 真っ白い雪が降る夜。その男はその情景に対を成すように闇のように深い黒で覆われていた。その目の前には血だらけになって倒れた「人のかたちをした猛獣」と、幼い少年がへたり込んでいた。
「・・・大丈夫だ。もう大丈夫だ」
 じっと見つめる少年に男はそういいながら手を差し出した。揺れる瞳は男の目を真っ直ぐに見つめると、そっとその手をとった。
 その男もまた「人のかたちをした猛獣」だというのに。

「ふぁ〜・・・」
 晴天晴れ渡る空、眩しいくらいの朝日が大きな窓ガラスに反射して、彼は眩しさに目が覚めた。朝は寝起きのいいほうではないというのに、今日は不思議と目覚めがいい。
「んーしょ!」
 大きく伸びをした身体はどちらかというと小柄で、幼さの残る顔立ちだ。せっせと制服に着替えると足早に学校へ向かった。
「おはよう!海馬君」
 元気よく叫んだ挨拶は一人の男に向かってかけられた。名は海馬瀬人。
「遊戯・・・か」
 一方海馬のほうはそれだけ言うと、パソコンの画面を見つめなおした。遊戯はそれを気にすることなく満足そうに自分の席に着くとホームルームが始まるのを待った。
 ここ、ドミノ学院では、全寮制の学園である。昼間部と夜間部に分かれていて、寮も二つに分かれている。互いに寮内に入ることは許されておらず、きっちりと二つに分かれていた。
「おはよう、遊戯」
「おはよう、城之内君」
 遊戯の親友の一人である城之内はホームルームぎりぎりで教室に入ってきた。そして同じくらいに先生がホームルームを開始する。
「はぁー・・・遊戯今日は早いな!」
「あ、うん。なんかね」
 理由もないので適当に笑顔を返していると、城之内はハッと何かを思い出したように鞄から箱を取り出した。
「今日、お前の誕生日だろ?ほらやる」
「え!!」
 唐突のプレゼントに遊戯は戸惑ったが、素直に受け取った。
「ありがとう!自分でも忘れてた」
「遊戯・・・自分の誕生日くらい覚えとけよ。まぁたいしたものじゃないんだけど」
 遊戯はさっそく箱を開けると「あっ」と声を漏らした。
「これは?」
「何でも言うこと聞いてやるぜ・・・券」
「・・・」
「・・・」
「ありがとう!!!」
「なにやってる!」
 思わず大声で叫んでしまった遊戯は担任に怒鳴られた。気づいたときには全員の視線を浴びてしまい遊戯は身を縮めた。
「・・・城之内、あとで職員室だ」
「なんで俺!?」
「お前しか原因はないからな」
「うげ〜」
 なんだかんだで担任に怒られるのは城之内で、遊戯はいつも損な役回りをしている城之内君に「ごめんね」と謝った。城之内はそれを気にすることでもなく、もう慣れたようすで笑顔で返した。
 授業最後の鐘が鳴り、城之内は職員室へ行ってしまった。遊戯は眠たそうにあくびをしていると、こつんと頭に何かが当たった。
「ふん・・・仕事の時間だぞ」
 そう言ったのは海馬だった。
「あ、そうだね!」
 遊戯はその言葉に少し元気になると、前を歩く海馬について教室を出て行った。その間にポケットに入れてある腕章を取り出し、せかせかと腕につける。
「今日も風紀委員の仕事がんばらないとね」
「ふん」
 海馬もそれを腕につける。腕章、それは風紀委員とは違う意味も込めた腕章でもあった。


「って、ことでデイクラスの皆さんはお帰りくださ・・・!!」
「ノア様がでてくるのよ!」
「マリク様もいらっしゃるわ!」
 遊戯の大きな叫びはより大きな悲鳴によってかき消された。
 夜間部の寮の前、昼間部の放課後であるこの時間帯に昼間部の女子は毎回毎回集団で集まっていた。目的は違えど目指す方向は同じ。
 つまりは夜間部の憧れの男性にひと目合うためである。
「こら!デイクラスの皆さんはもう帰宅時間ですよ!!」
 遊戯が押し戻すように力を込めると、女子の罵声を浴びせられる。
「なによ、ちょっとくらいみせてくれたって!」
「あ、門が開くわ!」
「あ、ちょ、今日も間に合わないー!!」
 ギィイイ・・・と寮の重い扉が開かれると、そこには7名の男女が颯爽と現われた。遊戯は慌てて女子を止めに入ろうとしたが、そこにはきちんと整列された彼女たちの姿があった。
「う・・・ボクが一番邪魔になってる」
「やぁ、ご苦労様女の子たち」
 ニッコリと爽やかな笑みを向けているのは海馬乃亜だ。すらっとした細身の身体に幼さの残る顔をしている。
「お前・・・」
「いいじゃないか、獏良も愛想笑いくらいしたら?」
「結構だ」
 その後ろから出てきたのは獏良了。白い癖毛が特徴的で乃亜とは反対にどこか強面の印象を受ける。
「もー!デイクラスの人たちは門限時間ですよ!!」
「きゃー!ノア先輩ー!!!」
「うわっと・・・」
 女子の迫力に押し出されてしまった遊戯は足を引っ掛けた。
「皆さんは元気すぎる・・・」
 大きくため息をついて立ち上がろうとすると、目の前に手が差し出された。
「大丈夫か?遊戯・・・」
 そっと手を差し出したのは、金色の前髪に赤みがかった髪型が特徴的な闇(クラガリ)遊戯だった。
「闇先輩・・・」
(わぁ・・・カッコイイな・・・)
 そっとその手を取って立ち上がろうとすると、後ろから邪気な視線が飛んでいることに気がついた。
「ボクは大丈夫です!先輩!ありがとうございます!」
 さっと手を引くと深くお辞儀をした。
「なんだか、他人行儀だな・・・」
「闇先輩はボクの命の恩人ですからっ」
 すると遊戯は頬に何かが当たるのを感じた。闇の手だ。
「そういうのは、寂しいな・・・」
「せん‥ぱい…」

 パシッ!!

「闇先輩」
 突然遊戯のすぐ後ろから声が響いた。
「か、海馬君!」
 海馬は闇の手を掴むと隠そうともしない敵意の目で睨んでいた。
「授業が始まりますよ」
 そう言って離した手を闇はそっと戻した。海馬の視線にびくともせず、少しばかり苦笑しただけだった。
「風紀委員は、怖いな」
 そういうとその場を後にした。遊戯は今の出来事にぼーっとしていたが、やがてハッと視点を戻した。
「か、海馬君、さっきまでどこにいたの?」
「ふぅん、仕事だ」
「そ、そう・・・」
 遊戯は海馬が別の仕事をしていることを黙認していた。
「でも僕たちは風紀委員なんだからね!」
「わかっている」

 誰もいなくなった夜間部の寮前を後にして二人は理事長の部屋へと戻っていった。
「納得できないな」
 部屋に入って開口一番に海馬はそう言った。理事長室に入った二人はくるりと回って向かい合った理事長を見た。
「何がじゃ?」
 学園の理事長である武藤双六は楽しそうにそう尋ねると目の前で手を組む。
「オレたちは監視役であって、有名人の護衛役でもなんでもないということだ!」
「まぁまぁ、彼らを監視し、デイクラスの子たちに彼らの正体をばらさないようにする役目はキミたちにしかできないのじゃよ!」
「そもそもあいつら"ヴァンパイア"をこの学園に置いていること自体が間違っている。非ィ科学的だ」
 そう、彼ら風紀委員のもう一つの意味は守護(ガーディアン)。
 夜間部である生徒は皆、ヴァンパイアなのである。その彼らを昼間部である生徒たちに正体をばらさないように監視するのが、風紀委員の役目なのである。
「遊戯は女に負けて役に立たないしな」
「え!?ボク?!」
 遊戯は突然ふられた言葉にショックを受けた。
「あいつらの人数分ぐらいこちらもいるなら別だがな」
「そんなこといったってのぅ。わしの義息子(むすこ)たちにやらせるのが気が重くなくていいんじゃ。わしら人間とヴァンパイアとの共存を理解し、協力してくれるのはお前たちしかいない!!」
 熱く語る理事長をみて海馬はため息をついた。
「お前、ほんとの息子だろう?なんかいえ」
「え?!ボクはヴァンパイアと僕たちが仲良くなってていいなーっと」
「さすが、わしの息子じゃ!遊戯!わしは嬉しいぞ!」
 ガシッと遊戯の手を掴み感動している理事長を置いて、海馬は何も言わず出て行った。遊戯は離してくれない理事長に愛想笑いを浮かべながら、去って行った海馬のことを考えていた。

『遊戯、今日から一緒に住むことになった。両親を悪いヴァンパイアに殺されたんじゃ・・・』
(海馬君はヴァンパイアとの共存なんて望んでない。あの頃からずっと瞳の中には憎しみの色が見えるんだ・・・。あの夜の日から・・・)

「さて、今日も夜の見回りに行くぞー!」
 時は12時を回った頃、遊戯はベッドからむっくり起きだすと、風紀委員の仕事である見回りに出かける。隣の部屋の海馬を迎えに行こうとして部屋を覗いてみたがそこに人の気配はなかった。
(もう、いっちゃったのかな?)
 たまに先にいなくなっているときがあるので、遊戯はあまり気にしなかった。それよりも、と今日の仕事のことを考える。両寮の境目となる見張り場に行って、それから校内を見回りに行く。
「・・・海馬君来てないのかな」
 サボりかな?なんて考えていると少し離れた夜間部の窓から人影が見えた。
(闇先輩・・・)
 遊戯は彼のことを思うと胸が痛み、締め付けられるような感覚に陥る。これがどんなに異常なことかも遊戯にはわかっていた。
(ボクは・・・好きになってはいけない人を好きになってる。あのヒトとは住む世界も別なのに・・・)
 遊戯は胸に手を当ててぎゅっとあのときのことを思い出す。彼の記憶は10年前、あの雪の日の夜から始まった…。

・・・殺される

・・・ボク、殺される。

・・・人のかたちをした猛獣に。

(あの時助けてくれなかったら今のボクは存在しない)


「闇様!闇様!」
「なんだ?」
 幼い遊戯は無邪気に闇の名を呼んだ。彼は近づいてきた遊戯を優しく見つめると、そっと頬に手をやった。
「ボク、ずっといい子にしてるからね、ボクが大きくなったら闇様のお嫁さんにしてくれる?」
 何も知らない少年は無邪気にそう言った。闇はその言葉に苦笑したあと、口の端を少しばかり吊り上げた。
「いいだろう、オレとの誓いに偽りはないな?」
「うん!絶対だよ!絶対だからね!」
 このときの誓いは闇の心に深く刻み込まれた。無垢な少年の些細な戯れは彼の心の奥深くにあるとも知らずに。



「あの時はボクも幼かったー!!」
 はぁ・・・とため息をついて現実を振り返る。今の現状は近くもなく、遠くもない。言うなれば以前のほうが仲が良かったような気もする。
(闇様にとっては些細なことなんだ…ボクを助けたことも、たまに会いに来てくれたことも…)
遊戯はまた夜間部の寮を見つめると、見回りに行こうとした。
「ってそこー!」
 ピピッー!と笛の音が鳴る。
 夜間部の寮の前に潜んでいる昼間部の女子二人を見つけたからだ。彼女達は手にカメラを持っているらしく、どうやら隠し撮りをしようとしたらしい。
遊戯は軽々と見張り台から彼女達のいるところまで飛び降りると、もう一度笛の音を響かせた。
「ほら、規則違反です!帰りましょう」
「いいじゃない!少しくらい写真とったって!武藤君はこの気持ちがわからないだろうけど!」
(う…ボクだってわかるけどさ)
遊戯はとりあえず気持ちを押さえて彼女達を押し返そうとしたが、強く出れないことを知っている彼女達は反対に遊戯を押し倒した。
「もう…言うこと聞いてくださいよ…」
 そう言って立ち上がろうとしたときだった。
(…イタッ)
掌をみてみるとどうやら傷が出来たらしい。
(やばい…血が…)
そう思い彼女達を無理矢理にでも帰そうとしたときだった。
「遊戯くんっ!」
その声に遊戯は緊張が走った。
「ホントに乃亜先輩だわ!」
「きゃー!」
咄嗟に遊戯は対ヴァンパイア用の武器を乃亜に突き出した。風紀委員は互いに対ヴァンパイア用の武器を持たされている。遊戯にはカードを、海馬には銃なのだが、二つともが強力な武器なためあまり実際に使われることはない。
「そんな物騒なもの突き出すのはやめようよ、遊戯君」
 すると乃亜は遊戯の後ろにいた彼女達に近づくような仕草をした。
「彼女達には…!」
 一瞬視線を後ろに移してしまった隙を突かれ、遊戯の手は乃亜に掴まれた。
「あっ」
「彼女達じゃないよ、君の血の香りがしたから…」
掴まれた手は引き寄せられ遊戯はカードを落としてしまった。強く掴まれた掌を見せるように乃亜は自分の目の前に突き出すとその傷の部分を舐めた。
「ちょっと!」
「貰ってもいいよね。君の血…」
(彼女達がいるのに!)
「あ、あれ?牙…?」
「うそ、先輩って吸血鬼…?」
驚きの目で見る彼女達など無視するかのように、乃亜の行動は止むことはない。遊戯の掌に牙で小さく傷をつけると血が少しづつ丸くなって溢れてくる。
「美味しいそう、もらっていいよね?」
「だめです!校則違反で…うっ!」
遊戯の話を聞きもしない乃亜が遊戯の血を舐めた。
「校則も守れないのか、貴様らは」
 
 ダァンッ…!

 変わった銃声が大きく響いた後、女の子二人は意識を失った。海馬が撃った玉は閃光となってクロス型の紋章に変わり乃亜の後ろ木の枝に残像を残していた。
「うわぁ!」
 乃亜は目をつむり硬直している。遊戯も放心していたがぐぃっと後ろに引き寄せられた。
「ぼーっとしてるな」
「うひゃー・・・僕、殺されるところだったもしかして」
 冗談めいたその言葉に海馬はもう一度銃を突きつけると乃亜はバツが悪そうに口を閉じた。
「しまってくれないか?その血薔薇の銃(ブラッディローズ)を」
 乃亜の後ろから響いてきた声は闇だ。
「オレが乃亜と・・・獏良の処分を理事長に報告しよう。引き止めなかった獏良も同罪だ」
 すると舌打ちしながら獏良が木の影からすっと出てきた。
「いたんですか!?」
 遊戯はまったく気付かなかった様子で、反対に海馬はわかっていた様子だった。乃亜は不満ながらも獏良と共に闇の指示に従い寮に戻ると、闇は遊戯に近づいてきた。
「怖い、思いをさせてしまったな・・・」
 その瞳は遊戯を本当に想っているがごとく憂いを帯びている瞳だった。遊戯は闇と顔が近いことに少しばかり動揺したが、すぐに一歩後ろに下がった。
「あ、ボクは大丈夫です!ちょこっと噛まれただけで」
「オレがきつく言っておく。そこの二人も記憶をこちらで消しておこう。もう、寮に戻れ」
「あ、ありがとうございます」
 きっちりとお礼をしていると、また後ろからぐぃっと引き寄せられた。
「帰るぞ。ここは血のにおいで充満している。・・・気持ちが悪い」
「え、ちょっと」
 名残惜しむ時間も与えられず、遊戯は海馬に引っ張られるままにその場を後にした。その様子を闇は静かに見つめていたが、やがて乃亜達と共にその場を去った。

 
「おめぇ、いい加減しないと闇サマに怒られるぞ」
 しばらくして後、寮のコモンルームのソファに腰を掛けている乃亜に獏良はそう言った。乃亜は至って反省してない様子で、拗ねた顔を向けている。
「そんなこといったってさ、僕はどうしてだろうね。遊戯君の血、美味しくて・・・」
 そう言いながら似非血液の固体であるタブレットを水に溶かした。タブレットはすぐに水に溶けて真っ赤な血の色に染めていく。それを見つめていた乃亜は指でそれをかき混ぜながらため息をついた。
「僕はタブレットだけじゃ生きていけないのかな・・・?」
 その様子に獏良もため息をつくとその場を後にしようとした。
「やめられないみたいなんだよね、あの子の血・・・つい・・・」
「・・・つい?」
「く、闇サマ・・・!」
 パシッ・・・
 乃亜の顔に一線の赤が現れた。
「遊戯に傷つけるなどしてはならない・・・」
「も、申し訳ありません・・・」
 乃亜はそれだけ言うと一礼してその場を去っていった。獏良も同じようにその場を去っていく。
 闇はその姿を見向きもせずに、ただ窓辺に腰を掛けて昼間部の方を見つめていた。ただじっと・・・。
(遊戯・・・)
 指についた乃亜の血をゆっくりと舐めとりながら。



コメント
パロですが、知らないヒトにもどういった関係かわかるように書いたつもりです汗
一応、優姫=遊戯  枢=魔王様 零=海馬です。