青春遊戯






心は一つ。
だけど心に巡る思いは一つじゃない。
たくさんの思いの中でボクは思い達に飲み込まれ、そして渦の真ん中で静かに立ち止まる。
足のつかない真ん中でただ思いに囲まれて。

どうしたらいいんだろう。
そんな気持ちが心のなかをぐるぐる回る。

知りたい。






 人の声がいくつも重なって何を言っているのか聞き取るのが難しい。だけど不思議と目の前の人の声はしっかり聞こえて、狭いこの空間の中でも人の耳はすごいなーと思いながら。
 淡いオレンジ色のソファ席に座りながら、ボクはオレンジジュースをストローで遊びながら飲んでいた。
 今は夏休み。期末テストの忙しさも晴れて自由の身だ。それもこれもほんっと海馬君のおかげだよ。
「お礼がこんなところでごめんね」
 この場所には似ても似つかない、そんなことを意識してしまうボクは浅はかだけど、目の前に座る海馬君を見てそう思った。
「久しぶりに食べるハンバーガーも悪くない」
 お世辞なんだろうけど、なんかいっそう申し訳ない気持ちになってしまう。
 今日は海馬君からどっか食べに行かないかって誘われたんだ。もちろんボクはすぐにOKしたけど、思えばボクが行ける飲食店なんて限られてる・・・。で、結局今いるのはハンバーガーショップってわけ。
「海馬君、社長だからこんなのあんまり食べないよね」
 ふと呟いたボクの言葉を海馬君は怪訝な顔で返した。
「なぜ知っている?」
「城之内君が言ってたよ?」
 あれ?もしかしてあんまり知られたくないことだったのかな。少し慌てた僕に海馬くんは少し視線を逸らした。
「凡こ…つ…」
「ぼん?」
「なんでもない」
今耳慣れない言葉が聞こえたんだけどなんだったんだろ?海馬君は無表情だけど不機嫌そうだ。
「あまり知られたくないの?」
ボクがそう尋ねると、咄嗟に何かを言おうとした海馬くん。だけど留まってこっちをまじまじとみた。一体なんなんだろう…。
「…なんでもない」
あーどうしよう…。海馬くんを困らせたよね…。多分、城之内くんの態度からすると社長って言われるのいやなのかも。それに友達になるのにそんな肩書あったらホントに友達か疑っちゃうだろうし…。
「ごめんね海馬くん」
「謝まる必要はない」
ボクがうじうじ気にしているのを海馬くんは感じたらしく、スッと立ち上がった。帰っちゃうのかな…。
不安になったボク知ってか知らずか、海馬くんはボクをみて言った。
「行くぞ」
「どこへ?」
「我社へ」
ワガシャ…ってどこ?
 耳慣れない単語に頭が追いつかない。首を傾げて固まったボクに海馬くんは言い直した。
「海馬コーポレーションだ」










「うわぁー…」
すたすたとハンバーガーショップから歩いて約10分。その間ゲームについて少しだけ話し合いながら着いたそこは紛れも無く大きな会社だった。
「大きなビルだね」
ガラスで覆われた眩しくてシンプルなビルは、素材とは違って個性的な形だった。入口にはパラパラとスーツを着た大人が出たり入ったり行き来してる。
ぼーっとそれを眺めていると、海馬くんが入口辺りでボクを見ていた。待ってくれてるみたい。
「ごめんっ」
慌ただしくついていくボクの視界には海馬くんに挨拶をする大人の姿が見えた。ホントに海馬くんのビルなんだ。実感が沸いて来たとたん、ボクの緊張は最高に達していた。


「こっちだ」
呼ばれるまま素直についていく。心の中は海馬くんに頼るしかないことと、海馬くんに恥をかかせないことにつきた。ボクにはあまりにも似つかわしくない場所なのは十分承知だったから。
いつの間にかボクは一つの部屋に来ていた。緊張しすぎてどうやってきたのかあんまり覚えてない。
「そこにかけて待っててくれ」
目の前に対になったソファーがあった。海馬くんはそれを指差すとここから去ってしまった。ソファーに腰をかけてしばらくしているとやっと落ち着きを取り戻せたみたい。周りを見渡すとここが社長室だって気づいた。応接室にはない、代表取締役の札が正面別格の机に小さいけど輝きを放っていたから。
「待たせて済まない」
海馬くんが戻ってきた。さして何も持ってきていないところをみると、何か用事があったのかな?
「遊戯・・・実は・・・」
 そう言いかけたとき、海馬君がどっと前に押された感じになった。
「兄サマ!」
 子供の声が聞こえた。幼さの残る少し高い声。
 海馬君はその声を聞いたら、小さくため息をついた。だからっていやな顔はしてない。海馬君ばかりみてた視線を下げると黒い髪が海馬君の腰辺りでゆさゆさ揺れている。
「モクバ・・・もう少し普通に出迎えないか」
「兄サマが今日休みをとったのに来たっていってたから!」
 その声はとっても嬉しそう。えーっと兄サマっていってるから弟さんでいいのかな・・・?
 ボクがびっくりしたまま固まっていることに気がついた海馬君は、その小さな男の子を前に押し出した。その子は海馬君を見た後ボクのほうを向いた。知らない顔を見せられて少しボクを睨んだ。
「は、初めまして・・・海馬君の友達の遊戯です・・・」
 むっとした表情を少し和らげると、また海馬君のほうを見てから今度はまっすぐに立つと挨拶を始めた。
「俺は海馬モクバ。兄サマの弟で副社長をしているんだぜ」
「副社長!?」
 え?こんな小さい子が副社長って・・・この子何歳だろう・・・小学生くらいだよね・・・?
「兄サマ、ほんとにこいつ友達なの?」
 うぅ・・・信じてくれていないみたい。海馬君ははっきりと「そうだ」って言ってくれるものだと思ってたら、なんだかわかんないけど少しためらわれた。
「まぁ・・・そうだな」
「信じられないぜぃ・・・」
 そんなボクって海馬君に不似合いな友達かな・・・。そりゃなんでもできるわけじゃないけど、初対面の子に言われるなんて・・・。
「兄サマが友達つくるなんて・・・」
 えっ?
「モクバそのくらいにしろ」
「あ、ごめんなさい兄サマ!オレは職場に戻るぜぃ!またなっ!」
 慌てた様子で去っていってしまったモクバくんを確認した海馬君は静かに中に入ってきた。
「弟さんいたんだ」
「あぁ」
 ゆっくりと向かいのソファに座った海馬君。私服だから何だか不思議だけどスーツならすごく似合いそうな位置。
「先ほど言いかけた話だが」
「あ、うん」
 そういえば何か言いかけてたね。
「オレをどこまで知っている?」
 え?これって海馬君のプロフィール的な意味で問われてるんだよね?
「どこまでって、社長だってこと?」
「その他に、だ」
 真剣な眼差しでこっちを見てくる。なんでだろう、知っていることは少ないのに、それすら知っているのが何だが悪いことみたいだった。
「・・・成績トップで、この会社は海外にもあっておもちゃの会社らしくて、城之内君の知り合いってことかな」
 頭が話すごとに下がっていく。
「それだけか?」
「うん」
 中学生の時性格悪かったとかは城之内君の主観だろうし、図書室のも普通ありあえないし、こんなもんだと思う。
「そうか、すまない。・・・会社の噂などが気になっただけだ」
 あ、そっか。そういうことなんだ。
 一気にへなへなと気が抜けていく。もしかして口止めさせられるようなことを言われるのかと思っちゃった。そんなわけないよね、ボクってばなに考えてるんだろ。
 海馬君のほうを見るとまだボクをみていた。
「なんかついてる?」
 あ、声が少し裏返ったかも。
 微かに瞼が震えると海馬君は違う方向に視線を逸らした。なんだかその仕草にドキドキするのはなんでだろう・・・。
「こんなところに連れてきて悪かった」
「ううん、気にしないで。ちょっと緊張したけど、海馬君のこと少しわかって嬉しかった」
 にっこりとうまく笑ったかわからないけど、さっきのドキドキは隠せたと思う。
「そ、そうか」
 ん、海馬君の顔が一瞬固まったように見えたのは気のせいかな。
「じゃあ、そろそろ帰るね。海馬君時間空けてくれたみたいだし」
「いや・・・あぁ、送ろう」
 なんだかやっぱりぎこちなくなった。僕、変な顔してたのかな・・・。
 そっからビルの一階まで送ってもらった。家まで送るって行ってくれたけど、帰り道わかるし、海馬君仕事の時間を削ってくれたみたいだから、遠慮しといた。たまにでも会ってくれるだけで僕はすっごい嬉しいんだ。
 学校ではない場所で会うってとっても新鮮で、私服姿の海馬君を見れて、僕はこの日を忘れないでおこうと思った。




 

コメント
純情すぎる・・・。変態な海馬君を書きたい・・・。