青春遊戯





 心は一つ。
 だけど、心に巡る思いは一つじゃない。
 たくさんの思いの中でボクは思いたちに飲み込まれ、そして渦の真ん中で静かに立ち止まる。
 足のつかない真ん中で、ただ思いに囲まれて。

 どうしたらいいんだろう。
 そんな気持ちが心の中をぐるぐる回る。

 好き。




 ボクが彼を、海馬君を好きになったのは、ほんの些細なきっかけからだった。

「貴様、何故ここに居る」
 それはボクがたまたま校庭の隅で休んでいるときだった。校舎と校庭を区切るために植えられた並木の下にボクはただ座っていた。始業式も終わって、皆が帰ったこの校庭を眺めながら。
「キミは?」
 いきなり目の前に現れた彼に、ボクは正しい応えをしなかった。
「何故ここに居ると聞いている」
「あ、ただここに居たかったんだ」
「・・・実に非生産的だな」
 彼はそういうとボクの横に座って木にもたれかかった。木陰って言っても隣に座る見知らぬ同級生に警戒心が芽生える。
「キミも同じようなことしようとしてる」
 ボクは彼を睨み付けるようにまじまじと見ると、ボクの意見に冷たく笑った。
「ハッ、オレの場合、今休まなければ他の時間が非生産的になるからかまわないのだ」
「ボクだってその可能性はある」
「ただ座っているやつがなにを言う」
 それもそうだと思ったけれど、これは彼の言い訳じゃないのかなとも思った。だけどこれ以上この話をしているほうが、彼の言う非生産的だなっと思ってやめた。
 木の上には小鳥が春を告げるために鳴いている。だけど校庭に植えられた桜はもうところどころ緑だ。そう思っていると見知らぬ同級生が隣に座ってるんだった。景色をゆったりと眺めていたけどおかしいことなんだ。
 ボクはちらっと彼のほうを見た。目を閉じて落ち着いた様子で肩がかすかに動いている。これじゃあボクだって警戒心なんてなくなるよね。なんて笑いながら幸せな気持ちを感じたのをボクは知っている。

 


 ボクが海馬君の名前を知ったのは、次の日の放課後だった。その日は学期始めのテストで3時間目になれば家に帰れる。もちろんボクは例のごとく真っ直ぐ家に帰らなかった。昨日も今日もぽかぽかしていてなんだか日向ぼっこをしていたかったから。
 目を閉じて昨日の彼のように木にもたれてみる。優しい風がボクの前を通り過ぎた。気持ちいいななんて思っていると、風向きが変わった。
「ん・・・?」
「起きていたか」
 そう言ったのは彼だった。こんな時間まで学校に居るなんておかしな人。ボクも人のこと言えないけどさ・・・。
「日向ぼっこ、してたんだ」
「また」
 そう言って呆れた顔を向けた彼にボクは苦笑した。そういうと思っていたから。
「じゃあ、非生産的にならないようにキミの名前を教えてよ」
「オレは海馬瀬人だ」
「ボクは武藤遊戯、よろしくね」
 握手を求めているわけじゃない。ただここにくる変わった者同士って言う意味で。海馬君はそんな挨拶も流してボクの隣に座った。
「どうして隣なの?」
「貴様がそこに居るからだ」
 平然とした態度で、声でそう言った彼の意図をボクは読めなかった。ボクが居るからと言われてもキミとは確か初対面に近いはずなんだけど・・・。どこかで会ったのかな・・・。
「まぁ、キミと一緒に居て落ち着くからいいんだけどね」
「オレもだ」
 あぁ、そういう意味で言ったのか。納得できた。どうしてかわからないけれども彼と居ることはなんだか自然なことのような気がした。ふと、海馬君を見るとまた目を閉じて静かに肩を揺らしていた。その顔を見ると幸せな気持ちが広がってくる。これはなんだろう。同じ感覚を持った者を見つけたからかな・・・?

 通常授業が始まって、ボクの日向ぼっこは並木の下から教室の授業中へと変わった。春の暖かい日差しがボクの脳を休ませようと、風がそれを促した。
 海馬君ももう並木の下にはいないだろう。同じように授業のこの睡魔を誘う時間にこうして・・・。
 そう思いながらボクは寝てしまっていた。彼のことを考えるとまた幸せな気持ちになれた。ボクの世界に突然現れたキミが心地いいから。


 そう例えば、またキミと会ったならボクは伝えよう。
「ありがとう」と。




コメント
今回は章立てのようにしていきたいと思います!