IF〜S・Aな二人〜







 次の日、S・Aクラスのみが使えるそのサロンに異様な空気が漂っていた。遊戯はいつもの席に座っており、海馬は遊戯に話しかけることなく仕事を黙々とこなしている。椅子の位置も遠慮の塊のように一人分空いている。

「どどど、どうなってんだよ!」
「そんなのこっちが聞きたいよ」
 登校してきた城之内と獏良は遠くから異様な光景を察したのか立ち止まってこそこそと話している。
「海馬と遊戯絶対何かあったな・・・」
「だね」
「なにやってんだ?二人とも」
 空気を読まない男アテムは二人の姿をみつけて声をかけた。
「おはよう、アテム」
 城之内がとりあえず挨拶するのをみたあと、二人が進もうとしない先を見た。
「海馬のやつっ・・・!」
「アテムも気づいたか!」
 怒りに変わっていく表情に城之内はに変異に気づいた仲間が増えたと思った瞬間。
「また相棒の隣をっ!」
「はぃ?」
 勢いよく遊戯の元に走っていくアテムに城之内は変な声を上げてしまった。アテムの背中を見つめながら獏良は冷静に話しかける。
「どうやらいつもの怒りだったみたいだね」
「あぁ・・・」
「ある意味良かったかも」
 城之内と獏良はアテムの後に続いて遊戯たちのいる場所へと向かった。
「あとで会議だね」
「そうだな」



「なにかあったのか?」
 数時間後、海馬が仕事のためサロンから席を外すと城之内と獏良は遊戯に尋ねた。「え?!」っとどうしてそんなことを聞くのかと驚いた遊戯に城之内は苦笑した。
「海馬となんかあったんだろ?遠くから見ててもわかるぜ」
「そうだよ!僕たちは遊戯君の味方だからね!悩みを解決してあげようって!」
 木目調のテーブルを挟んで二人は遊戯の話を聞く体勢に入る。
「獏良君・・・城之内君・・・」
 些細な変化に気づいてくれたことが嬉しかったのか、遊戯はパァっと顔を明らめた。一人でぐずぐずと悩んでいたのだが、誰に相談すればいいのかわからなかったのだ。一方二人は事によっては海馬との縁を断ち切ってやろうと画策していた。
「実はね・・・」
 そう言って遊戯は一呼吸おいた。
「海馬君に告白されたみたいなんだ」
「なに?!」
「どういうこと?」
 冷静に獏良が尋ねると遊戯は続きを話し出した。
「昨日・・・ボクのこと愛してるっていって、その・・・キスしてきたんだ」
「き、キスだとぉおおおおおおお?!」
「落ち着いて城之内君」
 冷静さを失っている城之内は怒りを露わに今にも海馬のところに走って行こうとする様子だ。獏良はというと意外にも冷静で城之内の肩を抑えている。
「だけどボクそれを押しのけて・・・そしたら海馬君は謝って去って行っちゃったんだ・・・」
 はぁ・・・とため息をつく遊戯に獏良は納得した表情をした。
「なるほどね」
「押しのけて正解だぜ!」
「ボクはどうしたらいいんだろう・・・」
 もう一度ため息をつく遊戯。
 獏良はそんな遊戯をみて少し笑いながら一つの質問をした。
「キミは海馬君のこと好き?」
「ば、獏良!なにきいてやがんだ!」
 縁を切ろうとまで画策していた獏良がまるで逆のことを言い出すことに城之内は焦った。遊戯はというと顔を真っ赤にしている。
「ボ、ボクは海馬君のこと好きだよ。もちろん獏良君も城之内君も・・・」
「じゃあ海馬君とは普段どおり接したらいいと思うよ」
 獏良がにっこりと笑った。
「普段どおり?」
「うん、そしたら海馬君もいつもの海馬君に戻るよ」
「そう・・・なの?」
「そうだよ」
 遊戯はその言葉に安堵した。このギクシャクしたもやもやとした想いのせいで話しかけづらかったのだ。遊戯は獏良に笑顔を返すと「ありがとう」と言った。城之内はわけがわからないが自分の思い通りにことが運んでいる様子なので獏良を不思議に思いながらもその場はそれでよしとした。


 それから、遊戯は海馬に対していつも通り接する・・・はずだった。
「お、おはよう!海馬君!」
 元気よく挨拶する遊戯に海馬はゆっくりと顔を向け頷く。いつものように仕事のためPCに向かっていたが、遊戯のためならばと振り向くことも忘れない。
「あぁ」
(う、うわぁ・・・!うわぁ・・・!)
「じゃ、じゃ、じゃあね!!」
 海馬の顔を見た後ものすごい勢いで走り去っていく遊戯。海馬はそれを黙って見つめると、ため息をついた。
「これが望みではなかった・・・」
 小さく呟いた一言は誰の耳にも届かない。

「なんか、悪化してねぇ・・・?」
「僕はこうなると思っていたけどね」
 影でこっそり見ていた城之内と獏良は互いに違う思いで見ていた。
「僕はね、海馬君が好きかどうか質問したとき、遊戯君が顔を真っ赤にしてたときからもう諦めたんだ」
「なんでだよ」
 いまいち意味のわからない獏良を不思議に思う。
「あんなの海馬君のことが好きですって言われたようなものじゃない。僕たちに隙に入る場所なんてないんだよ」
「そ、そんなことわからねぇ・・・」
「だったらさっきの行動は?海馬君の顔をみて真っ赤にしてとびだしてったよ・・・城之内君だってもう気づいてるでしょ?」
 そう言われて城之内はさっきの遊戯の行動を思い出す。
「・・・」
「だから少しくらい海馬君に嫌な目に遭ってもらおうと思って」
 そう言ってクスリと笑う獏良。城之内が考えるよりも恐ろしいもののように思えた。
(そうだよなぁ・・・はいそうですかって諦める性格じゃねぇな・・・)
 はぁ・・・と大きなため息をついて獏良の言うことを認めるしかない城之内だった。


(だめだ・・・海馬君に見つめられたら恥ずかしい・・・)
 遊戯は海馬が見えなくなる位置まで来ると、胸元を手で押さえながら息を整えた。どうしてだか海馬が遊戯を見ると逃げ出したくなる気持ちが高まってしまうのだ。
「普段どおりって思ってるんだけど・・・」
 ふぅーっとため息をついた。少し落ち着いたかなっと思って振り返ると、誰かとぶつかった。遊戯はその拍子に尻餅をついた。
「ご、ごめん」
「いや、大丈夫か?」
 遊戯が見上げると、手を差し出していたのは海馬だった。遊戯は一瞬で顔を真っ赤にして2歩3歩と遠ざかる。
「だ、だ、だ、大丈夫!」
 パッと立ち上がるとどこも痛くないことを示すように大きく動いた。
「・・・」
 黙ってその様子を見つめる海馬に遊戯はなにを言おうかと必死で考える。
「えー・・・っと、どうしたの?」
 さっきまでいつもの席で仕事らしきことをしていたはずだ。
「遊戯」
「なに?」
「前のことは忘れてほしい」
「え?」
 遊戯はなにを言われているのかわからなかった。
「前に話したオレの言葉は忘れてほしい。もう、気にしなくていい」
「どうして・・・」
「オレは困らせたかったわけではない。気にして近寄りたくないなら、普段のお前に戻ってくれたほうがいい・・・」
 「すまない」と海馬に言われた途端、遊戯の瞳から涙が零れた。
「泣かせるつもりは・・・」
「違うんだ・・・ボクっ・・・普段どおりにって思いながら海馬君のところに行くと心臓がドキドキ言って・・・海馬君を見るとなんだか恥ずかしくって普段どおりにしなきゃって・・・でも・・・」
 涙が止まらない遊戯をそっと抱きしめる。海馬はこれが欲しかったのではないと心で悔いる。遊戯は必死に自分の思いを伝えようと言葉を続けた。
「本当は・・・海馬君に特別だって・・・言われたとき嬉しかったんだっ・・・だけど、キスで驚いて・・・待ってって言ったけど・・・もういなくて・・・」
「わかった。もう去ったりしない」
 抱きしめていた腕を離し、海馬は遊戯と向かい合った。
「ボクも海馬君のことが・・・特別なんだ。でもまだ気持ちが追いついていないんだと思う」
「もちろん、すぐに恋人になってくれとはいわない。ただ遊戯の気持ちを聞きたかった」
「海馬君・・・」
「海馬ぁあああああああああ!!!!!」
 ドンッ!!という音とともに何かが飛び込んできた。海馬に向かってきたアテムだ。押しのけることに失敗したため地面に倒れている。遊戯は何事かとアテムに駆け寄った。
「大丈夫?もう一人のボク・・・」
「だ、大丈夫だぜ!相棒!」
 その様子にご満悦なのか海馬をみてしたり顔だ。海馬はというと不安な要素などなくなってしまった今、アテムのしている行動がひどく滑稽に映った。
「フン、貴様・・・無様だな」
「なに!?」
「もはやオレは無敵だ。貴様に屈する男などではない!」
 そう言い放つと海馬は遊戯の元へ近づいた。
「遊戯、オレはお前に永遠の愛を誓おう」
 そう言ってそっと手の甲にキスをした。
「か、海馬っ!!」
「いずれ気持ちが追いつくまで・・・」
 時間の問題だがという言葉はあえて口にはしなかったが・・・。
「海馬君・・・ありがとう」
「あ、相棒・・・いまなんて・・・相棒ぉおおおおおおお!!!」
 事の重大さを最後に知ったアテムの叫びがサロンにこだました。





 完(でいいよね?)





コメント
というわけで、ごめんなさい。(ぉぃ
次回作がまじめなんで許して・・・(/TДT)/