IF〜S・Aな二人〜
「ふん、またオレの勝ちのようだな」
「わ、わかってるよ!勝負だからね!約束は守るよ!」
超名門校私立童実野学園の成績掲示板の前には相変わらず変わらない言い合いが響いていた。
余裕の笑みを浮かべ、すらりと伸びた体に自社コーポレーション社長の肩書きを持つ海馬瀬人。はたまた感情をむき出し、子犬のような体に大きな瞳の武藤遊戯。二人はこの学園のツートップであり、スペシャル・エークラスの優等生である。
「今日は何を賭けて勝負したの?」
ゆうぎの友人であり成績4位の獏良了は呆れたように二人を見た。いつものことなのはわかっているが、遊戯が楽しそうにしているためそれでいいらしい。
「ふぅん、遊戯の一日をもらうことになった」
「な、なんだって」
「海馬君、ボクと遊びたいんだって」
驚いてる了に気づかず、楽しそうに笑う。遊戯が深く考えてないことを知るとほっとする。
(あのヘタレが遊戯に何かできるわけないしな)
表面上とは違いどす黒いオーラを放つ了に気づいていないのは遊戯だけだ。
「獏良、朝からどうしたんだ?」
だらしなく制服を身に着けて、獏良の不穏なオーラをキャッチしたのは学年7位の城之内克也だ。勉強は大の苦手だが運と勘の女神がついていると言われるほど結果だけはすごい。ギリギリS・Aに入っているが抜かされたことはない。
「海馬君が遊戯君の一日を頂くらしいんだ」
「なっ!」
「当の遊戯君は遊ぶだけって思ってるみたいだけど・・・」
もうわかっているだろうが、海馬は遊戯が大好きである。表向きライバルと言い放っているが、遊戯以外にはバレバレである。遊戯は超が付くほど鈍感であり、海馬が・・・いや皆が遊戯を狙っているなんてまったく考えていない。カードゲームと勉強に努力を費やしすぎたためか・・・。
「相棒!」
遊戯にがしっと背中から抱きついたのは遊戯とそっくりな容姿の武藤アテム。双子の兄である。ブラコン度が異常に高く、遊戯の言うことなら何でも聞く。学年3位と遊戯よりも低いのは愛ゆえなのかもしれない。
「もう一人のボク・・・あのね、海馬君が今日遊んでくれるんだって!」
「なんだって?!」
「ふぅん」
そう言っている間に上空がいきなり翳りだした。バタバタとヘリコプターが接近し、遊戯たちの前に留まった。
「こういうことだ!!ワハハハハ!」
そういうと海馬は遊戯にすばやく近づいてアテムから引き離した。担ぎ込まれた遊戯はきょとんとした顔で流されるまま。さっと降りた梯子に乗りそのまま連れて行かれてしまった。
(そんなことしなくても遊ぶのになぁ。海馬君はせっかちだなー)
はるか上空に去ってしまった遊戯と海馬を他のものは恨めしく睨み付けていた。
「海馬君、どこいくのー?」
学園の大きさを目下に見つめながら遊戯は尋ねた。
「海馬コーポレーション開発研究棟だ」
「会社?」
「ふぅん、ついたらわかる」
遊戯と海馬は小学生のころ初めてあった。互いの父がゲーム好きと言うこともあってよく勝負していたらしい。初めて勝負したのはチェスだった。遊戯ももちろんしたことはあったが勝ち負けを気にしたことはなかった。ただ単純にチェスの相手にされたのだが、海馬があまりにも勝ち負けにこだわるため、いつしか海馬とすることに勝ち負けを考えることになった。アテムにはボロ負けする遊戯だったが、遊戯には何とか勝てる。それは遊戯の持つ優しさゆえかもしれない。
研究棟の屋上にヘリを置き、到着した二人は研究棟の中に入った。目的の場所に着くまで遊戯は驚いたり、楽しそうにしたりと忙しい。バーチャルシステム開発するのが目的の研究フロアである。
「もしかして最新のでもあるの?」
カードゲームをするつもりだと思った遊戯に対して海馬は意外な答えを言う。
「最新だが、カードではない」
白い廊下を進むと、一室の前で海馬が止まった。遊戯はなんだろう・・・と海馬の姿を後ろから覗いてみる。ただ広い部屋に椅子の着いたカプセルが4つ置いてある。
「遊戯はそれに乗れ」
「うん」
四つのうちの一つを指差す。何の不審も抱かずそのまま乗り込んだ。
「サングラスをつけろ」
横にかけてあったメガネのようなものをつけると真っ暗な画面。何ができるのかと楽しみにしていると、次第に明るい光が現れてきた。
「ここは・・・?」
目の前に広がるのは海。しかもとびきりの綺麗なビーチである。また別荘らしきものが建っているのも見える。
「ここは仮想空間だ」
「海馬君!」
後ろから海馬が「構築」されていく。立体映像なのだが、感覚的には現実に近い。
「どうしてこんなところに?」
「・・・」
答えない海馬はそのまま別荘へと向かって歩いていく。遊戯も不思議に思いながらも海馬の後を追いかけていく。
別荘の中は至ってシンプルで、仮想空間だからなのか生活観はあまりなかった。ほのかにオレンジ色の光が部屋を照らしている。
「ここなら邪魔がいない」
「え?」
広いリビングに入ったとき海馬はそう言った。
「二人でするゲームなの?」
「ゲームではない。貴様がいつまでも気づかぬからここを選んだまでだ」
気づかないと言われても遊戯は何のことなのかわからない。
「何か納得のいかないこと・・・ボクしたの?」
「あぁ」
海馬は遊戯に近づいて、そっと抱きしめた。
「えっ・・・?」
遊戯はどうして抱きしめられるのかわからない。
「遊戯、貴様が好きだ」
「ボクもっ・・・」
好きだよ?嫌いじゃないよ・・・。
いい掛けた遊戯の言葉を海馬は消し去るように続ける。
「時間の割いて遊戯を誘ったことも、遊戯をライバルと言い続けていたこともも、今こうしているのも遊戯が特別だからだ」
「特別?」
「そうだ。遊戯、愛している」
「それは・・・」
まだ問いかける遊戯に海馬はこういうことだといわんばかりに唇を塞いだ。遊戯もさすがに言いたいことが何なのか、そして何をされているのか気づいた。
「ちょっとっ」
必死で押しのける。
拒まれた。そう思った海馬がみたのは、見たこともないくらい赤く染まっている遊戯だった。
「ボクっ、えーっと、そのっ・・・!」
俯きながらうろたえる遊戯をみて海馬はまた抱きしめる。
「すまない」
「ううん、違うんだっ・・・」
終には涙を零してしまう遊戯に海馬はそっと離れた。
ゆっくりと踵を返すと「戻る」と言って部屋を出ていく。「待って」そう言いかけた遊戯の視界は瞬く間に真っ暗になった。
(海馬君・・・先に出ていちゃった・・・)
視界を覆っていた器具を外した時、そこに海馬の姿はなかった。遊戯は来たヘリで学校に戻された。暗い表情で帰ってきた遊戯を皆は問い詰めたが何も言わない。
「ボク今日は帰るね」
そう言って去る遊戯に問い詰める者はいなかった。
つづく
コメント
S・Aのパロにしなくていんじゃね?なんて思ったら負けです。(作者は負けた
ただ遊戯がすんごい鈍いんだっていいたいんだ!(何