夢幻遊戯






 それからボクは海馬君の家によく遊びに行くようになった。モクバくんも居るときがほとんどで、海馬君は仕事をちょこちょこ抜け出してきているみたい。そういえばボク、海馬君やモクバ君のこと御曹司か何かだと思ってたら、社長と副社長って教えてくれたんだ。びっくりしたよ!モクバ君なんて小学生なのにいろいろ手伝ってちゃんと仕事できるみたい。
 それから夏のあの日のことはボクは忘れることにした。だって、あれはただの興味本位でただ試したかったみたいなものだと思うから。

「最近、海馬こねぇなぁ」
「ん?そうなのか?」
 獏良君がボクの隣で呟いた。こっちのクラスに来てこうやって城之内君と話しているのはこれで2回目だと思うんだけど、なんか自然と混じっている。
「最近サボリ気味だぜ。誰かにいじめられたか?」
 想像したのかにんまりしている。ボクはそんな想像が全く出来なかった。いじめられるよりいじめそうな感じがする。そんなことないんだけどね。
「海馬君忙しいんじゃないかな」
「忙しいったって働いてるわけじゃねぇだろ」
「海馬君社長さんだから仕事してるよ」
「「なに?!」」
 バッと二人の顔がこっちを向いた。うん、ボクも最初そのくらい驚いた。
「あ、あいつ社長なのかよ!親父は会長ってか?」
「ううん、ご両親はいないんだって」
「なるほどねぇ・・・。親父が死んで社長ってことか」
 そうくるとなんだかしっくり来た。そっかそっか、今まで企業家だと思ってたからすっごいことだと思ってたけど、世間で言う世襲みたいなもんなのかな。うわぁ・・・じゃあ大変だろうなぁ。
「じゃああのガキも大変だな」
「モクバ君副社長だって」
「ぶっ・・・!なんだよそれ・・・!」
 こっちはネタに思われたみたい。まぁそうだよね。
「いやいやホント。だからあの兄弟が仕事を仕切ってるんだって」
「あの会社も終わりだな・・・」
「もう2年はあの二人が仕切ってるらしいよ」
 さすがにこの言葉にはなにかしらの威力があったみたい。考え込んだ後大きくため息をついてた。
「世の中オレ様が想像してた世界より奇妙だな」
「だよなぁ・・・俺にも金分けてくれないかな・・・」
 二人は会話がかみ合って無くても語り合えることもボクにとっては奇妙だ。
「って、遊戯詳しいな」
「モクバ君と仲良くなってからよく遊ぶからね」
「同じレベルの人間って思われてんな」
 獏良君がクックックと笑いを堪えているけど、堪えられてないし!
「そんなこと無い・・・と思う」
「否定できないんだな・・・」
「もう、からかわないでよ!」
 バンッと机を叩いて立ち上がると「悪い」と笑いながら返された。
 少しは怒ってるんだからね・・・。

 午後の授業の予鈴が鳴る。
 獏良君は教室に戻っていって、城之内君も自分の席に着いた。
 こうして三人で話している話は他愛もない話だけど、そこに出てくる海馬君は僕らの手の届かない人物なのかもしれない。たまに一緒にご飯を食べたりしてたけど、でもそれはたまたま同じ空間にいただけで近づいてはいない。そんな感じ。
「アレだって・・・」
 あのキスだってこんな風に考えたりしているのはボクだけで、海馬君には気にすることも無い些細なことで・・・ってボク忘れるって決めたのに。
 盛大にため息をついて現実に戻ろうと教室を見渡すと、廊下にうわさの彼が居た。
 今、来たんだ。




 近頃、忙しくて学校と言うものを忘れていた。
 行かなくてもかまわないのだが、世間上卒業していた方が何かと便利だと思ったのだが・・・。試験などは免除されても出席はなんともならんのが不便だな。このことも校長に考慮してもらうか・・・。
「よぉ、久しいじゃねぇか」
 席についたと同時に前の席の男が声を掛けてきた。確かバクラだったか。
「オレは忙しいからな」
「社長なんだろ?遊戯から聞いたぜ」
 遊戯が・・・?あぁ、モクバから聞いたのか。
「そういうことだ」
 こいつはオレと関わって何がしたいのだろう。
 ・・・あの気持の悪い大人共と変わりない存在か。
「社長さんよぉ」
「なんだ。親しくなりたいなら諦めろ」
 そういうとこいつは一瞬目を見開いたかと思うと盛大に笑った。不愉快極まりない。
「オレ様は「親しく」なんてしねぇよ。お友達ってのには興味ないからな。そうじゃねぇよ、お前さ、遊戯をどうしたいんだ?」
「何・・・」
「そんだけ周りに執着しないお前が、遊戯だけには執着しているってことは、なんかあるってことだろーってな」
 なるほど。少しばかり露骨過ぎたか。
「貴様に何の関わりがある?」
 挑戦的に発した言葉にこいつは反応した。
「そうだな、実際お前の執着の理由なんてどうでもいい。なぜ「遊戯」なのかそれが聞きたいだけだぜ」
 ということは・・・。
「では貴様は何故遊戯に執着する」
「質問を質問で返すとはなってないぜ。そうだな、お前がきちんと言うならオレ様も言ってやるよ」
 こいつは意外に交渉上手な方だな。オレが言ったことに対して真実かどうかではなく自分が満足したレベルと同じレベルで回答を寄越してくるだろう。
 遊戯との関わりがいまいち不明な分こっちも慎重にならねばなるまい。
「そうだな、遊戯との決闘でオレは敗北しか味わっていない。今までにない相手だ」
「へぇ・・・」
「それにモクバが懐いている。そう答えておこう」
「それだけか。ならオレ様が気にすることはねぇな」
 興味を無くしたかのように声の調子を下げた。それが振りなのかどうかは定かではない。
「貴様が言う番だ」
「オレ様はよぉ、遊戯を手に入れたい。それだけだぜ」
 ひどく挑戦的な目だ。不愉快だ。意味を曖昧にしながらオレの心を見透かしているかのような言葉。初めから挑発するとは余程の自信家か。しかし甘いな、遊戯の意識は今オレの方を向いているのだということを知らないのだ。
「ふぅん・・・勝手にしろ」
 学びもしない教科書に目を移す。
 遊戯という存在が初めは問題ではなかったはずだ。モクバを傷つけないために始まった一つの手段であり、決闘の好敵手以外にモクバより一番に置く存在でもないはずだ。こいつに何を言われようと関係の無いことのはずだ。
 しかし・・・何故こうも不愉快にならなければならないのか。







 海馬君は一時間だけ受けて帰って行っちゃった。本当に忙しいんだなーっと思う反面、体調とか大丈夫だろうかとか気にしてしまう。海馬君のことだからきっとその辺はきちんとしているんだろうけど。
「遊戯、帰ろうぜ」
 放課後のベルが鳴って、今日はまた獏良君がやってきた。珍しいことではあるけれど、気まぐれな彼だから不思議には思わない。城之内君も嫌がっていないし、断る理由も無い。
「うん、いいよ」
「どっか寄るのか?」
 いつもそういうことはノリだから。
「うーん、考えて無かったね〜」
「ファミレスでもいく?」
「ボクは構わないよ?」
 さっと視線を城之内君に送ると、「俺もだぜ!」と楽しそうな言葉が返ってきた。


 男三人でファミレスに行く。
 どうなると思う?



「てかよぉ、お前ら彼女とかつくんねぇの?」
「「ぶっーーーーー!!」」

 こうなる。

「か、彼女って・・・まぁそら欲しいけどよ・・・」
 隣で顔を真っ赤にした城之内君が言葉尻小さめに呟いた。こうなるともう恋愛話、女の子の間で言うコイバナが始まるわけ。
「ん、遊戯は?」
「え?!ぼ、ボク!?ボクはまだいいかなぁ・・・はは・・」
 彼女っていうかそれ以前に好きな子だって居ないわけだし・・・。
「ふぅん、キスしたいとかヤりたいとか考えねぇの?」
「直接過ぎ!!」
 キスしたいとか・・・考えないわけじゃないさ。まぁその、気持ちよかったわけだし・・・って今のなしなし!!
 ボクが勝手に慌てだしたのをみて、獏良君がにんまりとこっちを見た。ヤバイ・・・。
「遊戯はキスとかしたみてぇだな」
 ドキーンッ!ボク今絶対顔引きつってる。
「まじかよ!」
 城之内君までこっちみて驚いた顔をしている。ボクは必死で心を落ち着かせようとしたけれど、獏良君にはわかっちゃうみたいだ。
「遊戯彼女とかいるのか!?」
 ガシッと方を掴まれて、ボクはびっくりした。城之内君はボクがそういうことするのはありえないって思ってたのかな・・・。失礼だよ。
「居ないよ」
「じゃあ何か?!彼女でもないのにキスしたってか?!」
 どうして獏良君の言葉は信じるのかなぁ。ボクは「むぅ」っと城之内君を睨むとそれに気づいたみたいで、パッと手を離してくれた。
「まぁ、そうだよな。遊戯に好きな奴いたら俺に相談してくれるはずだぜ!」
 それはわかんないけど。
「獏良君は経験豊富そうだよね〜」
「お、遊戯がそう返してくるとはなぁ」
 二人ともボクを何だと思ってるんだよ!
「オレ様だって好みはあるからなぁ。それに当てはまる奴は2,3人だな」
 2,3人でも経験はあるってことだよね・・・。高校生になったらそれが普通なのかな・・・。
「俺は好きな奴が現れたらでいいかなぁ・・・」
「ボクもそれ賛成」
「じゃあまず好きな奴つくんねぇとなぁ・・・」
 結局これの繰り返しというか、まぁこっから有名人の誰々が可愛いとか性格はどうとかなるんだよね。不毛な会話だって分かってるんだけど、こうやってだらだらしちゃうんだ。


「まぁ、またな」
「おうよ」
「またね〜」
 夕日を背に城之内君が大きく手を振って帰っていく。獏良君とボクは途中まで同じ帰り道なんだ。こうして二人で一緒に歩いたのは初めて学校以外で獏良君を見たとき以来かもしれない。
「遊戯よぉ、で相手は誰なんだ?」
「え?!」
 いきなり言われたけど、ボクには何のことかわかってしまった。落ち着いてた記憶がまた蘇る。
「な、なんのことかなぁ?」
 苦笑してとぼけた振りをしてみたけど、獏良君の視線は外れなかった。歩いてるから尚のこと気味が悪い。
「キスの相手だろ?」
「うぅ・・・秘密」
 だいたいどうしてボクが獏良君にそんなこといわなきゃなんないんだよ!獏良君はどうせ珍しいことだからボクをからかってるんだろうけどさ!
 相手が女の子だったらまだしも、男だから言えない。
「そいつのこと気になるのかよ?」
「そういうんじゃないよ・・・」
 そろそろ分かれ道だ。ボクはやっとからかいから逃れられると早足になる。
 今日の獏良君はどっかおかしい。いつもは、そう。どこか気まぐれで風みたいなのに今日はずっとそのことばっかり。
 分かれ道が来てボクは「じゃあね」と手を振った。返事が返ってこなかったけど、ボクはそのまま歩いた。
 獏良君が悪いんだから。
「遊戯、ちょっと待てよ」
 もう、なんなんだよ。
「なに?」
 振り返ると獏良君は結構近くに居た。
「な、何って・・・ん!」
 近くにあった塀にトンッと押された。
 何か怒るような事ボクしたかな。ボクはちょっと怖くなった。
「ボク悪いことしてないよね・・・?」
「あぁ」
 獏良君の表情は逆光ってこともあって俯いてて分からなかった。
「じゃあなに?」
「・・・欲しい」
「え?」
 欲しい?獏良君の誕生日かなんかだっけ?
「遊戯、オレ様のものになれ」
「え?今なんて・・・」
「オレは遊戯が欲しい・・・だからオレのものになれよ」
「ば、獏良君・・・?」
 そ、それって告白ってやつ?もしかしてもしかして・・・。

「他のやつにキスされてんじゃねぇよ」

 ドキッ・・・。
 真剣なまなざしでボクを見ていた。冗談とかからかいとかそういう感じじゃかった。
「い、いきなりされただけで・・・」
「ならいいよな」
「んっ・・・」
 いきなり舌が入ってきてボクの歯をなぞった。激しくて優しさとかなくてなんか犯されてるみたいだ。
「こ、・・・外・・・だ・・・んっ・・・か・・・きちゃ・・・うっ」
 そういうと今度はとたんに優しい感じになった。ボクの舌に絡まってゆっくりと動いていく。
「こっちのほうが・・・好みかよ」
 ボクの瞳を見て獏良君がニヤリとした。瞼が重い。
 離してもらったときには力が抜けちゃて獏良君に体重をかけていた。
「このままオレ様の家に行ってもいいんだぜ?」
 その意味が分かってボクは獏良君から離れる。
「ボクは付き合うとかいってないし、ボク男なんだよ!」
「そんなこと関係ねぇな。現に今嫌がらなかったし、逃げる仕草も見られなかったぜ」
 そう言われると・・・、ボクはあの気持ちよさをどこかで期待していた。
「別に何も変わらないぜ。気持ちいいことが増えるだけだ」
「・・・」
「まぁ今回は帰ってやるよ」
 さっとポケットに手を突っ込んで獏良君は去ってしまった。嵐の前・・・いや後の静けさっていうかぽつんと残されたボクは、なんとなく寂しさを感じながら帰った。やっぱり獏良君は風のようでボクは今後どうなるのか不安を抱えることになった。




コメント
あれ?また長い・・・。
バク表エロ書きたいですね←

今回社長遊戯君と絡んでないww
ずっと獏良君のターン!!(;´Д`)