夢幻遊戯
そして放課後、ボクと城之内君と獏良君は海馬君の家にお邪魔することになった。獏良君と城之内君の二人はとっても楽しみみたいで盛り上がってる。ボクはというと二人の間に挟まれて、その話を聞いている振りをしていた。海馬君は自分の席に座っている。
「すっげーよな!迎えが来るってよー!」
「ますます楽しみだぜ」
盛り上がっている二人から離れてボクは海馬君の方へ向かった。
「本当によかったの?」
「あぁ」
「うーん、それならいいんだけど・・・」
ボクが海馬君から視線を外すと、海馬君が立ち上がった。
「迎えが来たようだ」
「おぉー!」
「行こうぜー!」
鞄を持って出て行く海馬君に続いて僕らは玄関へと向かった。ボクはなんだかあまりいい気分ではなかった。どこか不安だ。
外に出て門まで行くと、なんとそこにはリムジンっていわれる車が堂々と駐車していた。
「海馬様、どうぞお乗りください。友人の方々も」
運転手さんが出てきて扉を開けてくれた。
「す、すごいっ・・・本物だ・・・」
案内されるままにボク達はその車に乗り込むと、海馬君の家へと発進させた。車の中で盛り上がってたのはやっぱり例の二人で、ボクはリムジンの中の広さに驚きを隠せないままいろいろなところに目を動かしていた。
「海馬君は・・・ボクと住む世界が違うんだね・・・」
ボソッと呟いた言葉を海馬君が聞こえていたかはわからない。だけど、言ってはいけない一言だったとボクは思った。
車で10分ほど経った頃、車が止まった。大きな門が見える。学校のとは比べられないくらい。家は・・・見えない。
「到着しました」
ガチャっと扉が開いた。
「や、やべー!!でけぇ!!!」
車を出てみると、城之内君が叫んだ理由が分かった。
「うわぁ・・・」
門から遠くに見える家・・・ううん、私邸は真っ白な小さなお城だった。ボクたちの想像を遥かに超えた超豪邸って言ってもおかしくない。海馬君がこんなにもお金持ちだったなんて・・・。
やっぱり命でも狙われてたのかな・・・?
「なかなか凝った家じゃねぇか」
腕組をしながら獏良君が家の中を見渡した。
まだ玄関なんだけど、もうボクの家くらいある。絶対あるっ!
目の前には左右に階段が曲線を描きながら対になってホントにお城の中みたいだ。ここが童実野町にあるなんて誰が思うだろう。
「何も無いところだが、ゆっくりしていくといい。向こうの部屋にあらゆるゲームが置いてあるくらいだ」
それ何も無いって言わないよって突っ込みを今した。心の中で。
ゲームの部屋はガラス張りで防音なのかほとんど音は漏れてこない。
「勝手に見てもいいのか!?」
城之内君が普通と勝手と違うことに慌てていた。海馬君的には家に招待、イコール一緒に遊ぶとかそういう考えは無いみたい。
「一階と二階は自由にしてもかまわない」
「海馬君はどうするの?」
無料のゲームセンターに喜んで入っていく城之内君を見ながら、ボクは海馬君にそう言った。
「自室でやらなければならないことがある。・・・済んだら戻る」
「あ、うん」
階段を静かに上っていってしまった。海馬君から視界を離すと、獏良君ももうすでに玄関には居なくなっていた。
どうしよう・・・。ゲームの部屋に行くのもいいけど、獏良君・・・何かしでかしそうな予感なんだよね・・・。
ボクは結局、ゲームの部屋を過ぎて行って獏良君を探すことにした。
広い廊下に敷かれた赤い絨毯がいかにもって感じで、少し角を曲がると掃除をしているメイド姿の女の人とか、スーツを着た男の人がにっこりと挨拶してくれた。
「獏良君どこに居るんだろう・・・」
一階の廊下を一周して玄関まで戻ってきた。次は二階だなぁなんて呟いていると、さっきのメイドさん達がなにやら玄関に集まってきた。
誰か帰ってきたのかな?
「お帰りなさいませ、モクバ様」
皆が一斉に誰かに向かってお辞儀をした。
「モクバ・・・?」
「ただいまだぜぃ!兄サマは!!」
少し高めの声が玄関に響く。兄サマ・・・ってことは弟さんなのかな?
「お帰りになられています。今日はご友人を連れて帰っていらっしゃいましたよ」
「あの兄サマが!?」
すっごく驚いた声が響く。よっぽど珍しいことなんだと思っていると、メイドさんの一人がこちらを見てにっこりと微笑んだ。
「あちらにおられますのが、ご友人の方です」
「?!」
ボクは慌てた。何だか気まずいことをしているような気がしたから。こうして勝手に家をうろうろされたら気分のいいもんじゃないと思うし・・・。
とっさに何故か隠れようとすると、すぐに黒い長髪の男の子がこっちに向かってきた。
「お前!」
「な、なんですか?」
年下のはずなのに圧倒されて敬語になっちゃった。よくよく見ると怒っているわけじゃなさそう。
「兄サマの友達って本当か!」
疑わしい目でボクを見てくる。気持ちはわからないことはないけど、ど、どう言えばいいのかな・・・。
「えーっと、ボクは武藤遊戯。夏休みの間海馬君と一緒に遊んでたんだ。だから一応友達なのかな・・・ははは・・・」
なんて言えば正しかったんだろうなんて考えていると、「ふーん」と興味がなさそうな声が返ってきた。
「お前が兄サマの言ってたカードのやつか」
「そうそう・・・」
「兄サマに勝つなんて遊戯やるな・・・!兄サマが認めたんだからオレも認めるぜぃ!」
ぐっと手を出してきた。握手ってことでいいのかな?そーっと手を差し出すとぎゅっと強く握られた。少し痛い。
「オレ、海馬モクバ。よろしくな!」
にこっと人懐っこい笑顔で言われた。とりあえずいじめるとか嫌いとかは思われて無いみたい。そっと手が離れた。
「お前以外に誰が来てるんだ?」
「城之内くんと獏良君かな・・・。今獏良君を探してて・・・」
それを聞いたモクバ君はにこっと笑った。
「それならあっちに監視ルームがあるからすぐわかるぜぃ!」
今度はぐいっと腕をを引っ張られる。
うーん、同じ歳くらいと勘違いされてるのかな・・・。モクバ君をちらりと見るととっても嬉しそうな顔をしていた。その顔を見ていると年齢を気にしているボクが何だか恥ずかしくなった。
第一段階は計画通りだ。
自室に居た海馬はパタンとノートパソコンを閉じた。さっきまで取引先の男と商談を終えたところだ。
「今日は何もかもがうまく行くな」
ニヤリと笑みを零す。海馬は監視ルーム映像と直結されているもう一台のモニターに目をやる。モクバが遊戯と一緒に居るのもすでに把握済みだった。
「モクバに気に入られたか・・・なら話は簡単だな」
監視ルームで遊戯と共にモニターを眺めるモクバ。海馬はそれをしばらく見ていると、監視ルームを出る二人に続いて部屋を出て行った。
「獏良ってやつ調理室にいたけど、何がしたいんだ?」
「わかんないよ・・・」
わかんないけど、腹ごしらえってところなのかなっと考えていた。獏良君っていい人なんだけど、盗みとかは平気でやっちゃうんだよね・・・。手馴れているっていうか・・・。まぁアレを見ちゃったら文句言えないけどさ。
「遊戯は兄サマのことどう思ってるんだ?」
「え?」
調理室に向かってしばらくしたときだった。
「兄サマは今まで友達って言う友達はつれてきたことがないんだ。兄サマはあの歳ですごい社長になったんだ。友達って言っても金持ちとしか見てないって避けてるみたいだった」
悲しそうに話すモクバ君。きっとすっごく海馬君のこと心配してるんだ。
「だから兄サマが連れてきたってことは今までとは違うって兄サマは思ったんだと思う」
「ボクは、海馬君がすごいお金持ちだと思うよ」
立ち止まってモクバ君がボクを見つめる。
「だけど、夏休みの間はボクと釣りやったりとかとか、一緒にご飯とか作ってくれてとっても楽しかった。海馬君がお金持ちでもそうじゃなくてもボクの知ってる海馬君は海馬君だと思うってよくわかんないね・・・あはは」
自分でも何が言いたいのかわかんないや。モクバくんはもっとわかんないと思う。
モクバ君を見るとボクをじっと見つめたまま。しばらくすると明るい笑顔に変わった。
「ようするに、金持ちだからとか関係ないってことだな!」
「あ、うんっ」
ボクの話をまとめてたみたい。そう言われると実に簡単なことだったんだって思う。変に言いまわしすぎてモクバ君に悪いことしちゃったな・・・。
「ごめんね。変な言い回しで」
「気にすんなって!遊戯はいいやつだからな!それより獏良を探そうぜ!」
「うん!」
あれ?なんか立場が逆転してない・・・?
調理室に入ると獏良君が居た。まかないを食べるための場所になんかわからないけど、豪華な料理を食べてる。
「なにやってるの?!」
獏良君のほうに駆け寄ると「おう!」と言ってこっちを向いた。
「おう!じゃなくてどうしたのこれ?!」
獏良君の前に出された料理を指差した。
「腹が減ったからここのシェフに頼んだ」
「・・・はぁ」
人の家でそれだけできる根性が信じられないよ・・・。
「お前!」
「んぁ?」
モクバ君が獏良君を指差した。獏良君は誰かわかってないからいきなり指を指されて睨んでる。
「お前は兄サマの友人なのか?」
「兄サマ?あーお前弟か。弟居たんだなあいつ・・・」
「質問に答えろよ!」
「今日知り合っただけだから友人じゃないんじゃね?」
普通に事実を述べる。獏良君にとって友人か友人じゃないかなんて興味ないのかもしれない。ボクとの関係だって友人というくくりではない気がするし。
「城之内だっておんなじだぜ?遊戯は違うけどな」
モクバ君はうーんと考える。
「そう難しく考えるなよ、遊戯の知り合いだからつれて来た。それだけだろ」
それだけ言うともうその会話には興味が無いのか、おいしそうな料理を頬張っていた。モクバ君は逆に勝手に食事していることは気にしてないみたい。うーん、ボクにとっては異様な光景なんだけどな・・・。
「じゃあ兄サマが認めたのは遊戯だけか・・・」
「遊戯が来たらって条件でよばれてるからな俺ら」
そこは強調しなくていいってば!
「そうか」
モクバ君はそこに納得したみたいで、考えるような顔を止めた。
「獏良君、食べたらどうするの?」
「そーだなぁ、適当に飽きたら帰る」
「獏良君って・・・」
自由に生きてるよね・・・うん。もう言うことないや。
「そしたらボクは城之内君のところに行くよ。ちゃっかり何か持って帰らないようにね」
「オレ様を何だと思ってるんだ遊戯は・・・」
呆れる獏良君にボクは思ったまんまを口にした。
「盗賊自由人」
「なんだよそれ」
ボクは一人クスッと笑うとモクバ君と一緒に出て行った。モクバ君がこっそり獏良って悪い奴?って聞いてきたけど、ボクは「頼りになるよ」とだけ言っておいた。
玄関に戻ろうとすると海馬君が居た。用事は終わったみたい。
「兄サマ!」
海馬君を見つけてモクバ君は駆け寄る。モクバ君の身長に合わせるようにして身をかがめた。
「お帰りモクバ」
「ただいま兄サマ!」
海馬君がいつもは見せない優しい顔になってた。ボクは遠目から見てただけけど、すっごい雰囲気が変わるんだなーって思った。ボクは一人っ子だからわかんないけど兄弟ってこんなものなのかな・・・。
「遊戯はいい奴だな!」
「ふぅん…そうだな」
頭を撫でる。
ボクは二人の雰囲気に近づいていいものか悩んでた。なんか入ってはいけないような気がする。
ボクが離れたところで動けないで居ると、モクバ君がボクを見た。
「そこでなに固まってんだよ。こっち来いよ遊戯ィ!」
「う、うん」
恐る恐る近づくと海馬君がボクをの方を向いた。もちろんあの優しい笑顔ではなくていつもの無表情のような顔。
「遊戯、あっちでM&Wをやらないか?」
「あっちって・・・?」
自室でも、ゲームの部屋でもない。地下に降りるための階段が屋敷の左側にあるのをボクは見ていた。その先であれをするの・・・?
「兄サマそれはいいよ!遊戯もみて驚くぜ!」
モクバ君が悪意の無い笑顔でそう言った。だったら何も不安なことは無いかな。
「うん。いいよ」
ボクは一体何があるのか期待しながら、海馬君についていった。
「こ、これなに?!」
つれてこられた場所は研究室の一室だった。実は地下には開発研究室があって、大きなモニターやあらゆる機械が至る所に置いてある。どうやって使うのかわからないものばかりだ。
ボクが次々といろんなものを見せられて驚く様子にモクバ君は嬉しそうに笑って説明してくれた。海馬君はモクバ君に合わせてボクたちの前を歩いていく。
「ついた」
海馬君がそう言って照明をつけると、そこには大きな楕円形のスペースと、人が乗れるような対になった場所が見えた。
こ、これでM&Wをするの?
「これはM&Wをプレイすればモンスターがヴァーチャル内で実体化する装置だ。今はまだどこにも出していないが、すぐにでも公式戦で使われることになるだろう」
こ、公式戦ってカードゲームのってこと?!
「このカードの会社なの?!」
「違うな、オレはそのカードをいかに面白くさせるかを考えただけだ。オレの会社は簡単に言えばおもちゃ会社だ。あのゲームがあった部屋などのな」
「KCは兄サマのビルだぜ!」
「えええええええええええええ!?」
し、知らなかった。海馬君があのでっかいビルの社長!?ゲームセンターでよくKCのマークが入ってるのは目にしてたけど・・・まさか。
こんなに身近に居て気づかなかったんだ・・・。
「さぁ、遊戯。そこの台に乗れ。見ればどうすればいいかわかるはずだ」
言われるままに手前にあった台に乗る。目の前にはカードと同じ大きさに区切られた画面と「カード設置場所」と丁寧に書かれた文字が見える。きっと子供が使うものだからいろいろと説明が書いてあるんだ。
「では遊戯、オレと勝負だ」
「兄サマ頑張れー!!」
慌ててカードを出してシャッフルする。カードを設置すると上の画面にライフポイントが示された。なんかとってもすごい。先攻後攻はランダムで機械が言ってくれるみたいだ。
「貴様が先攻だ!デュエルだ、遊戯!」
き、貴様って言われた・・・。ショック・・・だけど海馬君はいつに無く感情をあらわにしてたと思う。もしかして結構性格激しいのが普通なのかな・・・。
「うん、ドロー!!」
ボクはその後、ドキドキしながらデュエルを開始した。ボクの引いたカードから出たモンスター達が立体化して目の前に現れるんだ。クリボーなんか動きが可愛くて、これを開発したのが海馬君だと思うとなんか笑えた。海馬君のお気に入りだと思う青眼白龍もめっちゃくちゃかっこよくてバーストストリームの威力にボクは風もないのによろけそうになった。モクバ君も滅多に見ないのかボクと同じように迫力に圧倒されてた。
「兄・・・兄サマが負けるなんて・・・」
勝負はボクの勝ちだった。ボクは実はこのゲームであんまり人に負けたことが無いんだ。でも海馬君は誰よりもボクを苦しめるくらい強いんだけどね。
「ふん、その力は本物か」
「デッキを組むのが楽しいだけなんだけどね」
「遊戯すごいぜ!」
台から降りてきたボク達に駆け寄ってくるモクバ君はすっごく目が輝いていた。そんな顔をされるとボクなんか照れる。海馬君はデッキ組み立てを考えているみたいだった。
「こんなに面白くプレイできるなんて感動したよ!」
「これがもうすぐ誰にでも出来るようになるんだぜ!兄サマは子供に楽しんでもらうのが夢だからな!」
パッと見だけじゃわからないなー人って・・・。ボクは海馬君のこと勘違いしてたかも…。
コメント
あれ?今回はやけに長くなりましたね。汗
ヴァーチャルなのは海馬君の発音がいいからです←