夢幻遊戯







 あの日を境にボクは海馬君と遊ばなくなった。嫌だとか気持ち悪いとかじゃなくて、どういう気持ちで会えばいいのかわからなくなったんだ。海馬君がどういう意図でキスしてきたのかわかんない。それにあの時、海馬君のキスが気持ちいいだなんて思ってしまってもうわからなかった。

 童実野町に帰ってきたのは夏休みも残すところ三日に迫ってて、やり残した宿題に追われてすぐ過ぎて行った。
「おはよう、城之内君」
「おー久しぶりじゃん」
 学校が始まって久しぶりに友達と話した。
 あんなに長く婆ちゃんのところに行くことはもう無いと思う。
「田舎はどうだった?」
「友達が出来てその子とばっかり遊んでたよ。M&W知ってて盛り上がったぜー!」
 まぁ、一日だけなんだけど。
「まじでか!あ、そういや、この学園に帰国子女が来るらしいぜ!」
「えっ?」
 ボクはどんな子が来るのか想像してみた。ふと、ありえない想像をしてみる。その子が海馬君なんてね。
「どんな子なんだろう」
「英語ペラペラなんだろうなぁ・・・アメリカとかだからぜってぇ気の強い美女だな!」
 城之内君がはっきりと断言したのでボクは質問してみた。
「女の子なの?」
「子に女なんだから女の子だろ!」
「・・・それ、性別関係ないよ」
 驚いた顔で固まる城之内君にボクは苦笑した。さすがに高校生でそれはないよ。
「友達になれるといいね」
「女の子を期待するぜ・・・」
 チャイムが鳴ってボク達は席に着いた。同時に先生も来た。
 どうやらこのクラスに来るわけじゃないみたい。残念。
「出席を取るぞ」
 先生が名前を呼ぼうとした時だった。
「先生ー!帰国子女が来たって本当ですかー!」
 城之内君が大声で質問した。すると静かな教室が一瞬でざわめき始めた。
「そうだ。しかし俺のクラスじゃない。隣だ。残念だったな。では井上〜」
 先生はすぐに出席を確認し終わると教室を出て行った。一体どんな子なんだろうってその話題でクラスは盛り上がっていた。
 隣なら友達になりそうにないかなーっとそのときボクは思っていた。


 キーンコーンカーンコーン・・・キーンコーンカーンコーン・・・


 一時間目のが終わると、大半の子が友達を誘って隣の教室に向かっていった。教室はガラッとしている。ボクはまだ教室に居て今日一日混雑する隣の教室を想像してた。
 しっかし皆、転校生とか興味深深。
「遊戯は見に行かないのかよ」
「うーん、なんか好奇な目で見に行くのは可哀想かなって。学校行ってれば会えるんだし」
 次の授業の準備をして座り続けるボクをみて、城之内君は立ち上がった。
「俺は女の子という希望を持って行ってくるぜ」
「あははは、行ってらっしゃい」
 城之内君らしいなーっと思いながら次の授業までぼーっとしていようとしたら、城之内君がすぐに帰ってきた。
「どうしたの?」
 人が多くて諦めたのかな?
「お、・・・男だった」
「ざ、残念だったね・・・」
 ガックシと肩を落として前の席に座る城之内君はホントに残念そう。
「どんな子だった?」
「どんな野郎かって?一瞬しか見てねぇけど、優等生って感じじゃないか?」
「そうなんだ・・・」
 ボクがそう行って前を向こうとすると城之内君が何かを思い出したように、立ち上がった。
「っていうか遊戯、今日実験の日だろ?移動しなきゃやべーじゃん!」
「あー!!」
 どうやら皆がいない理由はコレだったなんて気づくのが遅すぎた。大慌てで教室を出る。隣の教室を横切るけど、見てる時間なんて無かった。
「あの先生こえーからな!!」
「教えてくれてありがとう城之内君!」
 チャイムと同時にボク達は実験室へと駆け込んだ。



 海馬の周りに人だかりができていた。帰国子女だと周りは興味本位で見つめる。正直に海馬にとって興味のない者たちである。
「海外の学校はどんなんだ?」
「あっちの女は胸がでかいんだろーな!」
「英語しゃべれるんだろ!すげぇな!」
 ペラペラとすき放題しゃべるクラスメイトに海馬はただ黙っていたが、そろそろ我慢がきたのか言葉を遮るように呟いた。
「生憎だがいっぺんに答えることは出来ない」
「まぁな」
 目の前に座る男が気を遣う。転入して間もないという配慮だろう。海馬はそんなこと露ほどにも思っていなかったが。
 海馬はすぐに本題に入りたかった。
「武藤遊戯を知らないか?」
「え?」
 一瞬予想もしない一言に周りのクラスメイトは静まり返った。
「知り合いなのか?」
「あぁ」
 海馬がそういうと今度は武藤についての情報を次々に話し出す。皆、転校生という存在の言いなりのようだった。
「武藤は隣のクラスだぜ。城之内とさっき移動してたな」
「そうか」
 海馬はそう言うと同時に次の教師が入ってきた。周りの者は一斉に席に着き始める。目の前に座っていた男だけ海馬の方を向いていた。
「オレ、獏良ってーの。覚えといて損は無いぜ」
「バクラ・・・」
 復唱したものの覚える気などさらさら無かった。獏良は復唱したのを確認と捉えるとめんどくさそうに前を向いた。海馬は教科書も取り出さず、ただ考えていた。
 今海馬の興味を引くものは遊戯だけだった。










「遊戯ー」
 昼休みになって昼食を城之内君と食べようとしたときだった。
 隣のクラスの獏良くんが廊下からボクを呼んだ。周りの人は少しぎょっとしてる。実際ボクと獏良君がちょっとした知り合いだということを知ってる人は少ないから。
「ん?どうしたの?」
 ずかずかと教室に入ってくる。城之内君は不振そうな目で獏良君を見ていた。
「屋上で飯食おうぜ」
「獏良君と?今から?」
「なんだよ、オレ様とくえねぇの?」
 獏良君は睨むようにしてボクを見た。城之内君がなんだか我慢できない様子で突っかかって行く。
「お前、いきなり来てなんなんだよ!」
「あ、あの、城之内君落ち着いて・・・。獏良君は別に怒ってるわけじゃないんだから」
 実際獏良君は誤解されやすい。口調や風貌からして喧嘩腰に見えてしまうから。
「あー?何だよテメェ。オレ様は遊戯に用があんだけど」
「遊戯、こんなやつ相手にするな!」
「まぁまぁ、こう見えてもとっても優しいんだよ、獏良君は」
 ボクの一言に城之内君は「ホントかよ・・・」と疑わしい目で獏良君を見ている。一方獏良君は恥ずかしいのか「けっ」とボクを睨みつけた。
「それで、どうして屋上に?」
「転校生と一緒に飯食おうと思ってな。なにやらお前の知り合いみたいだからよ」
「知り合い?」
 ボクが首を傾げると獏良君はめんどくさそうにボクの腕を取った。
「まぁ来てみりゃわかるってことじゃん」
「うわぁっ!」
「おい、待てよ!」
 引っ張られていくボクを追うようにして城之内君も付いてきてくれた。一体なんだって言うんだろう。



「っつ・・・暑いなぁ・・・、で転校生はどこだよ」
 城之内君がひょこっと屋上へと顔を出す。パッと見ではどこにも人影は無い。
「あっちの反対側」
 きっと日陰になっているだろう貯水タンクの向こう側を指差した。獏良君を先頭にボクらは歩いていく。
「よぉ、つれて来たぜ」
 白いコンクリートの台に腰を下ろしている人影が見えた。本を読んでいて、一瞬誰だかわからなかった。
「・・・久しぶりだな、遊戯」
「!!」
 ボクは・・・多分固まってたと思う。
 本から視線を上げた海馬君を見たとき、ボクは心臓が止まるかと思った。頭にあの出来事がフラッシュのように蘇る。
「久しぶりだね」
 ぎこちなかったかもしれない。
「何だよ。ホントに知り合いかよ」
「遊戯、知り合いなのか?!」
 城之内君が驚いた顔でボクを見てる。
「ほら、婆ちゃんのところで遊んでたって言ってた友達だよ・・・」
「まじかよ!!すっげー出会いだな!」
 城之内君はまるで奇跡かのようにボクと海馬君を交互に見た。
「この学校に来ることは決まっていたが、まさか同じ学校だったとはな」
 変わらない無表情で淡々と述べる。ボクもまさか驚きだ。
「でもよー、帰国子女じゃないのかよ」
 そういえばそうだなってボクも思った。
「約一ヶ月前まではアメリカにいた。夏休みは別荘に居た」
「べべべ別荘?!お前金持ちなのかよ!」
 うひゃ〜っとまさに天地を見てるかのように城之内君は驚いている。
 ボク達はとりあえず周りに座った。
「獏良君が海馬君を連れてくるなんて思っても無かったよ」
「こいつ席に付いてまともに発したの武藤遊戯って名前だったからよ。オレ様の後ろの席だしな」
「そうなんだー」
 サンドイッチを頬張る獏良君は海馬君と友達になったとかいう関係ではなかったみたいだ。海馬君もそういう雰囲気じゃなくてたまたまと言った感じだった。
 ボクはアメリカンドッグを食べながら海馬君をちらっと見た。同じ学ランを着ているはずなのに、なんか違和感っていうか大人っぽいというか落ち着いてるって言うか・・・。なんか異様だ。
「そういやー自己紹介がまだだったな。俺城之内克也」
「城之内か」
 海馬君が復唱すると獏良君が呆れた声で城之内君を見た。
「やめとけやめとけ。こいつ遊戯の名前以外多分すぐ忘れるぜ。オレ様の名前だっておぼえらんねぇんだからよ」
 その一言にそういえばボクも最初の頃名前を呼ばれることなんてなかったなぁ・・・って思い出した。でも、あれ以来自分から名前を言わないから、覚えられないんじゃなくて、言わないだけかも。
「海馬君この辺に家があったんだね」
「童実野駅の北側にあるな」
 あー、北側にはあまり行ったこと無いんだよね・・・。KCって書かれた大きなビルとお金持ちが住む住宅街があるらしいんだけど。
「北側ってぇと、金持ちの住宅街じゃねーか!」
「ははーん、あ、今日海馬の家いかね?」
 勝手に話を進める獏良君。おろおろとボクは海馬君を見たけど、無表情で伝わりにくい。
「遊戯も行くよな?」
「え?でも、海馬君がいいかどうか・・・」
「遊戯も来るならかまわん」
 えぇ?!
「だってよ!行こうぜー!どんだけ広いんだろうな!」
「金目のもんたくさんありそうだな!」
 獏良君と城之内君はいつの間にか家に行くことに意気投合してる。話が少しかみ合ってないのは無視無視。
 って言うかボクいくって言ってないのに、もう行くことで決定してるよね・・・。まぁちょっと見てみたいけどさ。
 こうしてボク達は海馬君の家に行くことになった。
 海馬君が何を考えているのかボクにはわからない。
 本当に一体何を考えているんだろ・・・。

 




コメント
獏良君だけ何故かバクラw
バクラ動かしやすいからさ・・・。