乙女遊戯







 こんなことがいつまでも続くなんて思ってない。
 ボクだってそれくらいわかってる。
 優しく包み込んでくれる城之内君の温かさを求めていたボクはそろそろ終わりにしないといけない。
 ボクは海馬君が好きなんだ。海馬君が・・・好きなんだから。

 二日後、学校へ来て見ると教室で城之内君が大きく手を振って挨拶してくれた。ボクの大事な大事な友達。もし、城之内君が先にボクに告白していたら、優しさを教えてくれたらボクは城之内君を選んだかな?
「おはよう、城之内君」
 鞄を適当に置くと、椅子に腰掛けようとした。
「今日も海馬の野郎がいないから平和だぜ」
 その言葉がどういう意味を指しているのかわからないけど、ボクは一瞬足を止める。
「あ、あの、城之内君」
「ん?なんだ?遊戯」
 不思議そうに覗き込んでくる。
「昼休み、屋上行かない?」
「んー・・・、いいぜ」
 城之内君はどう思ってそう言ったんだろう。ボクへの期待?それとも普段は何も考えてなんていないのかな。

 ぼーっとしているとあっという間に昼休みがやってきた。城之内君が言ってくれなきゃ気づかなかったかもしれない。
「ったく、屋上いこっていったのは遊戯だぜ?」
 城之内君はボクの変な行動に苦笑した。
 このときまで優しい城之内君。これからボクたちはもしかすると友達ですらなくなってしまうんだ。
「ごめん、いこっ」
 朝買ってきたパンとかが入ってる袋を提げて、ボクは席を立った。自然に振舞う・・・必要なんてないのかもしれない。これから話し合うことはおかしなことなんだから。
「遊戯、待てよ!」
 気分は、例えるなら浮かれていた。ううん、その反対。
 なんだか悲しくて悲しくて、その反動から来る行動なのかな、表面のボクはにこにこ笑って少し軽やかに歩いてみたりして。
 おかしいな、城之内君の前ではボクはいつだって自然だったのに。
「さすがに暑いから人いねぇな・・・」
 それはボクにとって好都合だよ。
「日陰は涼しいよ。風吹いてるから。ほらっ」
 城之内君の腕を引っ張る。
 キミがどんな顔をしているのかわからないけど、ごめんね。
 よっと、なんていいながら城之内君はそこに座る。ボクも続いて隣に座った。
「城之内君」
「んーなんだ?」
 ごく自然にボクのほうを向く。
「ボク・・・もう・・・」
「遊戯、気にすんなよ」
 ポンっと頭に手を置いて何も言わせないようにされた。でも、ここは言わないといけない。
「違う」
 本当はもっとキミの温かさに触れていたかったけど・・・。
「もう・・・ああいうこと、やめよう?」
「・・・」
 ボクは少し複雑だった。付き合ってもいない相手に、「関係をやめよう」と言っているんだから。
「ボクは海馬君が好きなんだ。海馬君を裏切ることはできない・・・」
 膝を抱えて丸くなって俯いて、ボクは城之内君が見れなかった。最低だと思う。卑怯だと思う。城之内君はボクに選択肢を与えてくれたのに、そこでYESを選んでしまったボクが悪いのに。
 城之内君から何も発せられない。音もない。
 ただ袋を掠める風の音だけがよく聞こえる。
 しばらくたって、何の音もしないからボクは顔を上げた。横目で見てみると城之内君は向こうを向いて俯いている。
「ごめん・・・ボクがいけないんだ。ボクがあの時・・・」
「遊戯ッ・・・」
 グッと肩を引き寄せられた。キスされる。

「貴様ッ!!!」
 
 遠くで海馬君の声がした。見ると入り口から物凄い勢いで走ってくる。
「海馬君・・・!?」
 バッと背中から抱え込まれて城之内君から引き離された。海馬君の腕はあまりに強くて少し苦しい。
「凡骨ッ!!貴様何をしようとしたッ!!遊戯はお前との関係を終わりにしたのだぞッ!!」
 海馬君・・・ずっといたんだ。ボクたちの後をつけてきたのかな?というか何もかも知っていたのかな?それとも諦めてってことを言ってるのかな?
 城之内君はゆっくりと立ち上がって海馬君のほうを向いた。
「海馬、お前、遊戯のこと真剣に考えたことあるか?」
「フン・・・当たり前のことを聞くな」
 ボクは海馬君の後ろに立たされ、海馬君は再び城之内君の方へ立ち腕を組んだ。
「なら、どれくらい遊戯のことを優先したんだ?」
「・・・」
「お前は超多忙の社長サマだ。遊戯が合わせるのは当たり前。遊戯は文句一つ言わない。遊戯は優しいからお前に都合を合わせてくれる。それで遊戯が何も思わないとでも思ってんのかよ?」
「城之内君、ボクはそれでも・・・」
「遊戯は気づいてないかも知れねぇーけどよ、たまにすっげー寂しそうな顔するんだぜ」
 そんな顔・・・してたかな。城之内君といるときはそんな顔してないと思ってたんだけど・・・。
「最初は好きなやつが振り向かないからって思ってたんだ。でも遊戯が海馬の家から出てきたところ見たときそういうことじゃないんだって・・・気がついた」
 ・・・あれを見られてたんだ。
「あぁ、そういうことかってな。でもあんな悲しそうな顔で一瞬でも頼ってくれる遊戯がいて、俺は正直海馬が憎かった・・・」
「・・・」
「遊戯が俺に求めてるのはお前にはない部分だ。その望みを叶えても、それでも俺は遊戯の心を手に入れることはできないんだからよ!それなのにお前は遊戯にあんな顔をさせやがってぇ!」
 城之内君は海馬君の襟をつかんだ。止めないと。でも、なんだかボクが入ったらいけないような気がしたんだ。
「言いたいことはそれだけか?」
「なにぃ!」
「凡骨、貴様が感じた遊戯の想いなどとっくにわかっておるわ。オレにない部分をお前が与えただと?貴様は遊戯に振られた時点でオレに敗北しているのだッ!むしろ遊戯が貴様の望んだ時間を与えただけのことだ!オレが遊戯に与えられないものがあっても、貴様が遊戯に与えるものなどないわッ!」
 か、海馬君がこんなこというなんて・・・。
 ボクは正直複雑だった。城之内君に自信たっぷりに言い切った言葉を、素直に受け止めていいのか、それとも今こうして城之内君を責めている海馬君を止めるべきなのかってことを。とめるべきだよね?
「海馬君っ!城之内君は悪くないんだよ!ボクがきちんと断れなかったから・・・」
「それについては後ほど聞く。今は凡骨に諦めさせるほうが先だ」
「城之内君は・・・っ!」
「・・・約束しろよ、絶対俺に遊戯を奪わせないって」
 その言葉に海馬君は意地悪そうな顔をした。
 海馬君ならやりかねない。話すことだって許してもらえないかもしれない。
「ふぅん、生憎だがオレは遊戯から友というものを奪うことはできない」
 えっ・・・?
「海馬・・・」
 海馬君、あの時言ったこと覚えてくれてたんだ・・・。
「よって遊戯が貴様を友という限り、遊戯から凡骨を引き離すことなどできない。貴様が諦めろ」
 城之内君はその言葉を聞いて俯いた。何か言いたいことがあるようなそんな感じだったけど、しばらくの沈黙があった後、ふと握られていた手が緩くなった。
「・・・だぁー!!」
 な、なに?
「完敗だぜ。海馬のくせにかっこよすぎんだよ!」
「フンッ」
 何?どうなってるの?
「遊戯、来い」
 何か良くわからないけど、海馬君はもうその場を去ろうとしていた。来いって言われてもどこに行くのー!
「まだ午後の授業が・・・」
「一日くらいサボったところで知れている」
「え?!サボるの?って城之内君はどうなるの?!」
「凡骨を置いてったところで何もない」
 うわーん、訳がわかんないよー!今ので何がどうなったの?
「海馬君、怒ってないの?」
「・・・」
 この沈黙はなんなんだろう。怒ってるのかな。怒ってるよね・・・。
「後でたっぷりわからせてやる。逃げることは許さんぞ」
 やっぱり怒ってるんだ・・・。
「遊戯」
「なに?」
「・・・すまなかった」
「ううん、ボクが悪いんだもん」
「当たり前だ」
「なにそれ!」
 
 その後、ボクは海馬邸へと直行したんだ。部屋に着くなり何なりボクは海馬君の雨のようなキスを受けて、今後のことを話し合った。
 今まで言えなかったこととか、叶わないと諦めてたこともとりあえず口に出してみることにした。そしたらなんだかすっきりして、ボクは今まで引っかかっていたものが取れたみたい。
 城之内君を屋上に置いていった事がとても気がかりだったけど、次の日謝ると笑顔で「気にすんなよ」って言われてしまった。それから城之内君とはまた日常の友達という関係に戻ってる。
 海馬君は海馬君で性格が変わったかのようにどこでも引っ付いてくるようになって嬉しいんだけど、ここ最近じゃ前のほうが良かったかなぁなんて思っている。友達を失うことは無いけど、代わりに思いっきり牽制してるんだもん。ボクって我侭なのかな?


「遊戯、何を考えている?」
 片手間ではPCをいじりながら海馬君はボクを見ている。学校という公共の場でいちゃつくことはボクにとってあんまり嬉しくないから、前に座ってPCをいじっている海馬君を見つめている。
「海馬君のことかな?」
「フン、遊戯も人のことは言えんな」
 ん?どういう意味?
「なんでもない」
「・・・なんだよー」
 海馬君は何が言いたかったんだろう?
「遊戯とオレの想いが同じ道を走っているということだ」
「なぁにそれ」
 変なの。でも嬉しい。これって想いは同じってことだもんね。
 今後ボクが迷うことがあるかもしれない。だけど、海馬君となら乗り越えていけるんだ。だからこれからもよろしくね、海馬君!









 終わり。








コメント
まとめる?なにそれおいしいのーーーーーーーーーー!?(マテ

どうしても入れたかった台詞↓

「貴様ッ!!」

 遠くで海馬君の声がした。見ると入り口から物凄い勢いで走ってくる。
(井上的な意味で)←コレ(死

※あの顔を・・・想像しちゃダメです。

 
 城之内君がどうしても爽やかな男なので、これ以上の展開を考えると城之内君じゃなくなってしまう!と思って、こんな終わり方になってしまいました。バクラとかにしとけばよかったと物凄く反省しています。(ホントに!

実はくっつくまでの葛藤のほうが好きです。

・・・いろいろとすみませんでしたー!!
私の小説は最後まで読むとだめですね。(ウン