乙女遊戯







 海馬君との関係を城之内君に言ってしまったあの日から、ボクは二人と一緒にいることに距離を置くようになった。なんだかどちらかと一緒にいることにすごく疲れるんだ。家に帰ればもう一人のボクが居るし、その友達?うーん・・・悪友?のバクラ君とかと一緒に遊んだりした。二人の遊び・・・勝負はなんだかすごく危険というか、必ず賭け事になるからボクは見ているだけとか、賭け事になってない間に遊んだりしてる。

「どうしよう・・・」
 今はそれでもいい。だけど、海馬君から連絡がきたとき、ボクは怖い。
 なんて言おう。なんて聞かれるんだろう。どう答えればいい?
「はぁ・・・」
 ボクが海馬君のことを好きなのを知ってる上で諦めないって言われたってことは気に病む必要はないのかな・・・。素直に言ってしまってもいいのかな・・・。

 ブルルル・・・ッ・・・・ブルルル・・・ッ・・・

「き・・・きた・・・」
 震える携帯を手に取ってみた。もちろん着信欄の名前には『海馬瀬人』の文字。
「も、もしもし・・・」
『遊戯ぃ!遊戯!』
 あれ?この声って・・・。
「モクバ君?」
『そうだぜぃ!遊戯、ここ最近来ないけど何かあったのか?この携帯も兄サマ最近家に置きっぱなしが多いし、兄サマなんかイライラしっぱなしだ!』
 イライラ・・・置きっぱなし・・・。
 それを聞いて、ぎゅっと心臓を鷲づかみにされたような感覚が襲ってきた。海馬君はもうボクを必要としていないんだ。連絡を取る必要のない人間なんだ。
『遊戯・・・?』
 何も言って来ないボクを不思議に思ったんだろう。
「ご、ごめん。そ、そうなんだー。海馬君忙しいからかな」
『それもあると思うけど、遊戯何かあったんじゃないのか?お願いだから一回兄サマに会ってくれないか?』
「会うって・・・どうやって・・・」
『明日の午前は仕事がないんだ。だからその間にオレの家に・・・あ、もう切るぜ、お願いだぜぃ!』
 ブツッという音がした。モクバ君は最後のほう何かに焦ってたみたい。ボクはそんなことよりも断る隙がなかったことに少しショックだった。これじゃあ行かないわけには行かないし、行かなきゃいけない。
 もう必要とされてない。
 もう一度それを考えると悲しくなった。ううん、辛い。辛い。
 ボクがあの時城之内君と出て行ったから?キスを拒もうとしたから?あの時の海馬君はそんなことまで考えていたの?ボクの考えが甘かったのかな。それとも嫉妬させたお返し?
 だんだん自分の都合のいいほうへと頭が働く。それに気づいて頭を振った。うん。会ってみよう。


・・・で、ボクは何を言うの?

・・・ボクに何が言えるの?

・・・会う資格なんてない。



 

 会う資格なんてあるわけない。


 それでも翌日、ボクの足は重たい足取りで海馬邸へと近づいていってる。行かなければいいって思う。そう頭の中ではずっと言ってるのに、モクバ君の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えも同時にやってくるんだ。行った所で何ができるんだろう。

 とうとう門の前まできちゃった。
「遊戯様じゃないですか、ささ、お入りください」
「!」
 びっくりした。来てすぐに声をかけられるなんて思わなかった。
「いや、あの・・・やっぱり・・・」
 ボクがなかなか入らないのを不思議に思っているんだろうな。
「海馬様はちゃんとおられますよ」
 にっこりと笑顔で言われた。そういうことじゃないんだけどな・・・。うぅ・・・背中を押されてる・・・。執事さんどうしたんだろう。

「「「おはようございます、遊戯様」」」
 玄関にずらりとならんだ召使さんに恐縮しながら、モクバ君の部屋を目指す。いきなりきたら意味わかんないし、海馬君だって情報くらい耳に入れておきたいと思うし。
 はぁ・・・。気が重い。
 モクバ君の部屋を目指して廊下を進んでくと、海馬君の部屋が見えた。というか、見ないわけにはモクバ君の部屋にいけないんだ。あれ?扉が開いる・・・珍しい。普段なら絶対ありえないと思うんだけど、もしかして今いないのかな?
 そっと中を覗き込んでみると海馬君は居た。ソファに座っている。
 すぐさま出て行こうと思ったけど、様子がおかしかった。ぜんぜん、動いていない。カタカタっていう音もしない。・・・寝てる?
 そろりと中に入る。ものすごくものすごーく慎重に忍び足。ソファの前までくると、海馬君は本当に寝てた。
 ソファーの端に頬づえをついて寝てるなんて器用・・・っていうか、か、カッコイイ・・・。何でも様になるんだなぁ・・・。
 じっーと見とれていると、支えていた腕がずれた。

 やばいっ・・・!!

「・・・」
「・・・」
 め、目が合っちゃったんだけどー?!
 ここは去るべきかな?うん、去るべきだ。うんうん。
 逃げる体制に入ってモクバ君の部屋を目指そうとした。

「どこへ行く」

 むしろ他に聞くべきところはないの!?と突っ込みを入れたかった。でも、もちろんボクにそんなことできるわけもなく、鋭い視線に睨まれて足を止めた・
「モクバ君のところかな」
「呼ばれたのか?」
「ええっと・・・そんな感じ?」
 海馬君は納得してくれたのか、ふぅんと言ってニヤリと笑った。
「モクバは今は会社のほうだぞ」
「え・・・・っ・・・!!!!!」
「嘘は上手く言え」
 どうやらボクはモクバ君にはめられたらしい。海馬君もそれがわかったんだと思う。楽しそうに笑ってるもん。ボクはというと逃げ腰で固まっている。恥ずかしい。
「遊戯、今日は泊まっていけ。仕事もさっさと終わらせてくる」
 海馬君がボクのために仕事を早く終わらせて戻ってくるだって?初めて聞いた、そんな言葉・・・。
「オレの言うことが信じられんか?」
「ううん・・・そういうんじゃないよ」
「では、待っていろ。そうだな、3時には戻る」
 3時ってことは、4時間ここでぼくは待っていなきゃいけないのかな・・・?モクバ君も会社に行っているらしいし、まぁ、一人でもできること・・・あるけどさ・・・。
 海馬君はというともう出かける準備を整えている。ボクのことなんて考えているわけないか〜。
「わかった。待ってるね」
 眠たかったら寝させてもらおう。
 その返事を待っていたみたいで、そういうと頷いて出て行っちゃった。ボクは一人残されたまましばらくぼーっとしていた。
 海馬君はこの前のことを気にしてないのかな・・・、それともあの話をするため?・・・そうかも。でも・・・考えていても仕方ないよね。
 さて、なにしよっかな・・・。




KAIBA SIDE

 今日の仕事を段取りよく片付けてきた。
 オレにできないことなどない。遊戯に3時と約束したのだから。
 車の窓から見える空は少々曇ってきた。ふん、天気予報など当てにならんな。

 ・・・遊戯はまだ居るだろうか。


 帰ってきてみるとまだ居るようだ。形ばかりの召使の挨拶を聞きながらオレの部屋に向かう。
「約束どおり帰ったぞ」
 扉を開けて入ってみたが返事はない。トイレにでも向かったかと思ったが、金色の跳ねた髪がソファーから見え隠れしていた。近づいてみると定期的に肩を揺らしている。
 ・・・遊戯。
 こうしているところを見ると、あの事が嘘だったかのようにも思える。しかし、このまま遊戯を遊ばしているわけにもいかない。あの凡骨のことをどう思っているのか、オレのことをどう思っているのか。それを問いたださなければ。
「遊戯」
 肩を揺らしてみる。
「・・・ん・・・あ、海馬君!おかえりなさい」
 オレの存在を確認したあと、時計を一瞬見た。
「ちゃんと3時に帰ってきてくれたんだ。ありがとう」
 いつもの笑顔がオレに向けられた。オレは遊戯のこの笑顔をみたかったから手に入れたのだ。
「当たり前だ、オレにできんことなどないわ」
「そうだね」
 素直に頷く。実際どれだけ何もしてやれなかっただろうか。
「遊戯、今日は聞きたいことがある」
「うん、そうだよね」
 落ち着いた声だった。わかってたのだろう。
「凡骨とはどういう関係なのだ?」
 これが一番聞きたかったことなのかもしれん。オレがイライラしている原因もこれしかないのだ。遊戯を見ると伏せ目がちで切り出す話を探しているようだった。オレの読み通りといったところか・・・。
「城之内君とは、友達なんだ。本当に。ただ・・・」
「なんだ?」
「城之内君はボクが海馬君と付き合ってることを知った上で、ボクのこと好きで・・・諦めないって・・・言って」
「遊戯は断ったのか・・・」
「うん、ボクは友達としてしか見たことないし、だから友達っていう関係まで切ってしまうことができなくて・・・」
「そうか・・・」
 聞いてしまえば簡単なことだ。凡骨に諦めさせればいい。会うなといいたいところだが、遊戯に何を言われるかわからん。以前にも同じようなことを言ったら絶交とかなどと言われた気がするしな・・・。
「オレのことはどう思っている?」
「もちろん、大好きだよ」
 即答だった。こんなに遊戯の言葉でオレは動かされるものなのだ。
「だからなんでもないんだ」
「わかった。信じてやる」
「ごめんね」
 そういった表情は何故だか疲れたような感じに見える。
 まさか・・・他に何かあるのか。・・・いや、凡骨に問いただすか。
 遊戯の隣に腰をかける。戸惑ったような遠慮がちの態度をとる遊戯がいたが強引に抱きしめてやった。今はもう何も考えたくなかった。
 胸元にもたれた遊戯の身体だけが震えていたが、何も考えはしない。




「愛してる・・・遊戯」



コメント
この社長は誰だ。
そして遊戯のあっさりさに自分でもびっくり☆←
でも、女の子って決意したらあっさりですよね?