乙女遊戯
翌日、眠い目をこすりながらボクは学校に来ていた。海馬君との夢を見たせいだ。内容は覚えてないけど、確か海馬君がいた気がする。
学校に着いて教室に入る。といつものようにあの席には海馬君は居ない。今日も仕事で忙しいんだろうなぁーなんて考えていると、城之内君がこっちに向かってくるのを感じた。
「おはよう遊戯!」
「おはよう!」
うん、いつも通り。
ふぁ〜・・・。
昼休みも近づいてきた頃、数学の先生が話す意味不明な呪文のせいで、ボクは睡魔に襲われていた。もうちょっとなんだけどなぁ・・・。うーん・・・。
「遊戯・・・、」
んー・・・なぁにー・・・。
「遊戯、起きろ」
も、もうちょっと・・・。
「起きないと飯食う時間なくなるぜ」
「んー・・・」
なんで起こすんだよ〜なんて思いながら重い瞼を開いてみる。すると城之内君が後ろを向いてこっちを見ていた。
「んー・・・」
なんだか声を出すもの億劫で、口を閉じたままボクはよくわからないタイミングで声ならぬ声を出す。
「・・・やっぱ、可愛いな遊戯は」
城之内君がまたあの笑顔でボクを見つめている。頬杖をついた顔は、優しいような呆れたような表情に見える。
「んー・・・?」
少し首を傾げると、城之内君は口元に手を当てて真っ赤な顔をした。それがなんだか可愛く見えて僕はそのほっぺたに触れようとした。
「げ、海馬・・・」
「えっ?!」
パチンっと急に目が覚めた。海馬君って言ったよね?
伸ばした手をすばやく引っ込めて、廊下側を見てみる。蛍光灯の明るさがボクの視界を襲った。眩しいよー。
「海馬君がくるなんて珍しいね」
やっと視界に海馬君を捉えることができた。学ランなんて久しぶりに見たなぁ。海馬君はというといつものようにムスッと無表情で挨拶をするわけでもなく、自分の席に座ってPCを開いた。
「それより、早く食べないとな」
「あ、そうだった」
カバンから焼きそばパンを取り出す。寝起きだから食べる気があんまりしない。とりあえず水分・・・。
「何か飲み物買ってこなくちゃ・・・」
ちらっと時計を見ると後10分くらいで授業が始まる。
「これでよかったらやるぜ?」
それは飲みかけのスポーツ飲料水。
「え?いいの?」
「時間ねぇからな」
買いに行く時間もないからここはもらっておこう。
「ありがとう!」
別におかしくないよね?こんなの普通だよね?時間がないんだし、うん、たまにやってる。おかしくない。
ボクはそれを残りの半分まで飲むと、急いで焼きそばパンを食べた。城之内君も早く起こしてくれればいいのに・・・なんて我侭かな。
「遊戯」
「ん?」
「ついてる」
どこに?と聞こうとした瞬間、もう城之内君が口元にあった焼きそばの欠片を手に取っていた。
「あ、ごめん」
「別に気にしねぇよ」
そういって笑って、その焼きそばは城之内君の口に入っていった。
「・・・!」
これは普通なんだよね?
「どうした?」
「なんでもないっ!」
残りの飲料水を一気に飲みきると、ボクはちらっと海馬君をみた。相変わらず、PC画面を見つめているだけ。
そうだよね、海馬君が普段、ボクに興味を持つわけがないんだ。
それでも今日は海馬君は珍しく放課後まで学校に居た。いつもなら一時間とかで帰ってしまうことが多いのに。
「遊戯、今日バーガーショップ行こうぜ!」
鞄にいろいろ詰め込んだ後、城之内君が嬉しそうにそういった。
「なんかあったっけ?」
「今日は期間限定チキン南蛮バーガーの発売日だろ!」
そうだ、今日はあのとってもおいしいチキン南蛮バーガーの発売日だ。
「うん、いくいく!」
っとその前に・・・。
「トイレ行ってからでいい?」
「おう!」
「じゃぁ、行ってくる!」
鞄を置くと、急いでトイレに向かった。ボクの頭の中はすでにチキン南蛮バーガーのことで頭がいっぱいだった。
あのタルタルソースの味がたまらないんだもん。
用を終えて手を洗っていると、海馬君が入ってきた。もう帰ったのかとおもってた。
「遊戯・・・」
声を掛けられたと思った瞬間、体が一瞬宙に浮いて視界がよくわからなくなった。
「な、なに!?」
混乱した。入り口の扉に身体を押し付けられてた。
それを考えられたのも一瞬で、次はキスされているっと思った。
「なぁ・・んぁ・・・にぃ・・・やぁ・・めっ」
「・・・」
海馬君は何も答えてくれない。・・・嫉妬したのかな。
「・・・んぅ・・・はぁっ・・・んっ・・・」
されるがままになっていると、意識がふわふわした感覚になってきて、顔はすでに真っ赤だと思う・・・。海馬君はなかなかやめてくれないみたいで、ボクは抵抗しようにも力が入らなくなっていた。
どうしよ・・・城之内君が待ってるのに・・・。
そう思ったときだった。
『あっれー?開かねぇ・・・』
「!!」
城之内君だ。
『遊戯ー?』
一気に覚醒したボクは思いっきり力を込めて海馬君を押し返した。と言っても唇が離れた程度だけど、ボクにはそれでよかった。
『ん?開いた』
「城之内君!!」
その隙にボクは城之内君の見えるところに出た。
「遊戯?!居たのかよ・・・!」
「うん・・・」
視線が合わせられないボクに困った顔をしている。その原因もすぐわかったのか、扉の向こうの人物を睨んでいた。
「海馬・・・」
「・・・」
「いこっ!城之内君!」
ボクが急かすように城之内君を引っ張る。
「おう・・・」
なんだか納得してないみたいだったけど、城之内君も一緒に教室に戻った。海馬君のことがどうでもよくなったわけじゃないけど、あんなところでいきなり無理やりキスして、城之内君が待ってたこともしっていたはずなのに。
最近どうしたんだろ・・・。それともボクがおかしいんだろうか。海馬君の前で変わったそぶりでもしてるのかな。
それとも・・・。
「遊戯・・・さっき何があったんだ?」
バーガーショップへ向かっている途中、城之内君が口を開いた。
「え?・・・その・・・」
もう、正直に話したほうがいいのかな・・・。
「海馬、遊戯のこと好きだろ」
「!」
え?!
「あいつ、わかりやすいからなぁ」
どういうことなんだろう。もうボクたちが付き合ってることしってるの?
「遊戯の好きなやつって海馬?」
この質問に対してボクは嘘をつくことはできない。
「・・・・・・・うん」
「もしかして付き合ってる?」
「・・・・・・・うん」
小さい声しか出なかった。心は痛くて罪悪感が大きくなっていく。
「好きなやつってのはそういう意味か・・・」
その後城之内君が大きなため息をついた。きっとボクのこと呆れてる。ボク最低。ボク最低。
「ご、ごめん・・・ボク・・・」
「気にすんなよ、遊戯が優しい性格だってわかってたし、そこに付け込んだ俺も悪ぃからよ・・・」
ボクはもうどうすればいいのかわからなくて、その場に立ち尽くした。ボクのやってきたことは優しさじゃない。偽善だったんだ。最初の時点で断らなかったボクが・・・。
「それに俺、諦めねぇし」
「えっ!?」
城之内君の言葉にボクは顔を上げた。すると、目の前に城之内君が居て、ボクを真剣なまなざしで見つめていた。
「相手が海馬だってわかったし、遊戯にこんな隙作ってるやつに遊戯のこと任せられるかよ!」
そういうとすぐにあの優しい笑顔になった。
「なーんてな」
・・・っ・・・不意打ちだ・・・。
「俺、女々しいだけかもな!」
明るく言う城之内君にボクは何故か涙が出そうだった。罪悪感からなんだろうか、それともボクが望んでいるものを与えてくれる城之内君の言葉のせいかな・・・。
「わりぃ・・・また困らせたな」
城之内君は悪くないんだ。
「ボクが」
「何も言うなって。俺が勝手にしてきたことだから」
な?といって頭をポンッと一回触れた。
ボクはなんて卑怯なんだろう。ボクはなんて最悪なんだろう。
この温かさから離れることができないんだ。この優しさを求めているんだ。
その日は二人ともそのまま家に帰った。
SIDE:KAIBA
「遊戯・・・」
オレはこんなところで何をしているのだ。
遊戯を追いかけろ!遊戯に言え!凡骨の手をとって去っていったんだぞっ!
「クッ・・・」
・・・できるわけがない。
「それに、オレには仕事がある」
心をごまかしているだけだろう・・・いや、実際仕事があるのだ。遊戯一人に構ってなどいられない。そこはわかってくれているはずだ。
教室に戻りPCを手に取ると、待機していた車に乗った。ふぅん、5分も遅れているが、まぁなんとかなるだろう。磯野も何も言わないところみるとさして問題もないようだ。
「今日武藤様が泣いているのをお見かけしたのですが・・・」
泣いていた・・・か。オレが無理やりキスしたからだろうな。凡骨が慰めでもしただろう。
「ふん、知らん」
イライラする。遊戯がどう思っているのかしらんが、あいつは確実に遊戯に惚れている。今日などオレに見せ付けるように口に入れたのはオレを意識してのことだ。凡骨風情が・・・。
「社長、モクバ様から通信が来ています」
「開け」
『兄サマ!販売店の一部で商品の不具合がでたんだ!今現場の地図を送るから向かってくれぃ!』
ふっ、何か問題ができたときに、連鎖するように問題が起こる。
「わかった、磯野、向かえ」
「はっ」
これがオレの日常だ。
遊戯に何もできない。何もしてやれない。
わかった上で今の関係があるのではないか。遊戯とてそうだ。
ならば、オレのこの凡骨に対する感情は醜すぎるのか?
コメント
遊戯の性格とは思えないですが、乙女遊戯なので許して(マテ
海馬はきっと独占欲強そうだ・・・。