乙女遊戯
携帯電話が鳴った。
「・・・うん、うん。もういいよ。気にしてないから」
海馬君からだった。と言ってもこの携帯は海馬君からしか掛かってくることない。他の人に教えたことないし、いっつもマナーモードに設定してあるから。携帯を持っているところだってめったに見られてない気がする。掛かってくるときは大抵家の中だし・・・。もう一人のボクくらいかな?
買っても無い携帯をママがみたら驚くしね。
「うん、うん、じゃぁ・・・わかってるよ。またね」
ボクは電話を切るとなんとなくベッドに倒れこんだ。海馬君の声を聞いたら無償に虚しく感じたんだ。何やってるんだろう・・・。ちょっとした八つ当たり?それとも何?あぁーっ!!何やってるんだろう・・・ボク。
それから数日、何事も無かったかのようにボクと城之内君は普通に、ごく普通に遊んだり会話したりした。
ボクは少しほっとした。何だ、ちょっとした、そう、ちょっとした出来心だったんだ。だから何かが変わるわけじゃない。
帰り道、無駄なことを考えているなーっと自分に苦笑すると電話が掛かってきた。
『もしもし、オレだ』
「うん、どうしたの?」
珍しい時間に掛かってきた。
『今から家に来い』
「もしかして、時間空いたの?」
『だから誘っている』
「わかった!」
なんだろう、嬉しい。ボクってなんて単純なんだろう!あの時は虚しさを感じていたのに。
来た道を戻って海馬邸へと足を向ける。誰の目からみても上機嫌だろう。
でも嬉しいんだ。仕方ないよね。
足早に進んだせいか道のりが意外に短く感じて、いざ海馬邸を目の前にするととっても緊張した。門の前にしばらくもじもじしていると勝手に門が開く。執事のような人が出てきて「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
「こんにちは」
「海馬様は自室におられます」
「ありがとう!」
何回もここに来ているからほぼ顔パス状態だ。というか海馬君かモクバ君が呼ばない限り来ることがないから通してくれるのかもしれない。玄関に入るといつものようにメイドさんが出迎えてくれる。
いつも思うんだけど、これ海馬君の趣味じゃないよね?
コンコン
「入れ」
「お邪魔しまーす・・・」
そーっと扉を開けると、ソファに腰をかけている海馬君が目に入った。あの特注コートでもなく、学ランでもない。黒いシャツを着ている。下は黒いズボン?
「どうした?そこで立ち止まってないで入れ」
「あ・・・うん」
正直、見とれていた。いつもは変な・・・いやいや、変わった服ばかり着ているから格好になんとも思わなかったけど、今日は珍しくシャツだ。
「海馬君、そんな服着るんだね」
「これか?スーツの上を脱いだだけだ」
会社では割と普通の服でも着ているのかな?まぁあれはバトルスーツらしいし、いっつもあんな重そうなのつけてられないよね、やっぱり。
ちょこんと向かいのソファに座ると、思い切り表情が変わった。
「遊戯の席はここだ」
そういって海馬君は隣の空いている席を指差した。
「え?!」
「いつも平気で座っているだろう」
そ、そうだったかな。あまり意識してないから考えてもいなかった。
「あはは・・・」
苦笑しながら海馬君の隣にいくとすぐに抱きしめられた。
「何かあったのか?」
「・・・!・・・なんのこと?」
思わず思い切り反応してしまうところだったぁー・・・。頭の中で一瞬あのときのことが浮かんじゃった・・・。
反応を見ていると海馬君は目を背けた。
「いや、何もないならいい」
そういってボクを見直す。もう一度ぎゅって抱きしめられてそのまま動かなくなった。び、びっくりした・・・。でも海馬君があの日のことを知るわけがないんだ。
「そうだ、遊戯にこれをやろう」
抱きしめていた腕を離すと、反対側にあったケースから何か取り出してきた。
「この前の詫びでもあるが・・・」
「新デッキ・・・」
それは城之内君が見せてくれたもの。
・・・城之内君があの時あんな優しい顔をするから・・・ってボク考えるの禁止!
思いっきり意識から飛ばそうと首を横に振ってしまった。
「遊戯・・・?」
「な、なんでもない!わぁー!見てみたかったんだよね!」
さっと手に取るとカードを見てみる。少しは違うんだけど、ほとんど同じものだった。さすがに知っているカードかどうかリアクションでわかるみたい・・・。
「遊戯、もう見たのか」
「ふぇ!?」
「・・・バレバレだ」
「あ・・・うん、城之内君が見せてくれたんだ」
あ、うわ〜・・・あからさまに不機嫌な顔をしてる。
「ふぅん・・・」
うぅ・・・じっとこっちを見つめてくる・・・き、気まずいよー!
「ぼ、ボクの家にきて城之内君と一緒にみたん・・・」
口、塞がれた。
「ん・・っ・・・」
うん、なんかっ・・・いつもと違うのは・・・気のせい・・・?
「な・・・はっ・・・んぁ・・・」
舌が入ってくる・・・。いつもは軽いキスとかだけで、まだ夕方なのに。
やっぱりちょっと変だよ、海馬君・・・。
「凡骨の名前を出すな」
え?
「呼んでいいのはオレの名だけだ」
ええ?!
もしかして・・・
「しっと・・・?」
「・・・オレの前で呼んでいいのはモクバとオレだけだ」
また口を塞がれた。
「・・・んっ・・・はぁ・・・か、・・かいば・・・くん・・・」
そんなに城之内君のこと嫌いなのかな・・・そうは見えないんだけどなぁ・・・。
そんなことを考えている間に服の裾が捲られてることに気づいた。
「まだ!こんなっ・・・!」
「防音設備に、強化ガラス、その上オレが呼ばなければ誰も入ってこない」
「モクバ君が帰ってきたらっ!」
「ふん、今日は仲良くなったとかなんとか言って友人のところに泊まりに行った」
あ、そうか。だからボクを呼んだんだ。
「モクバが居ても呼びつけているわ」
「!」
「わかりやすいぞ」
くっくっくみたいな感じの笑い方をされた。まだ手はボクの身体を諦めてなくて腰のあたりをなで続けてる。うーん、優越感に浸られる城之内君の気持ちがわからなくないかも・・・。
「遊戯・・・」
まっすぐな瞳で見つめられ甘い声で囁かれる。これから起こる始まりの合図。
ふわふわする。
甘い感覚。
幸せ。
ずっと続けばいいのに。
もっとこうしていられたらいいのに。
それから、夕食も海馬君ちでごちそうになった。いつもながら高そうな肉とか綺麗に盛り付けてあるサラダとかたくさんあって豪勢だなぁなんて思いながら。ボクが食べている間海馬君はじーっとこっちをみてきたり、時には笑ってくれたりなんだか恥ずかしい・・・。
「何笑ってるの?」
「いやか?」
「・・・いやじゃないよ!」
そんな意地悪な会話をしつつ、そろそろ帰る時間になった。泊まっていけって言うんだけど、明日も学校あるし、海馬君も仕事で早いなら邪魔しないほうがいいと思う。
だから今日は帰ることにした。
「じゃあね。また」
門前でにっこり笑って手を振った。海馬君てばお見送りまでしてくれて、車で送るとか言うんだ。
「本当に送らなくていいのだな?」
「もー!ボクだって海馬君と同じ歳なんだよ!子供じゃないんだから」
心配そうな顔をされると困るけど、そこまで子供じゃないよ。
「ふぅん・・・気をつけろ」
「うん!」
もう一度手を振って後ろを向いた。
「遊戯!」
「何・・・え!?」
ぎゅって後ろから抱きしめられた!びっくりしたぁ!おおやけの場所で海馬君がボクにこんなことすることなんてなかったんだもん!
「海馬君・・・?」
「何かあったらすぐ携帯に電話しろ」
そ、そんな切なそうな声出さないでよ〜!
「うん!大丈夫!」
ぱっと向き合ってなだめる様にうんうんって頷いた。
「・・・あぁ、ではな」
「おやすみなさい!」
今度は認めてくれたのかわからないけど、無事見送ってくれた。
今日はどうしたんだろ・・・。
「お、遊戯じゃん」
角を曲がったところで城之内君の声がした。
「あ、城之内君!こんなところで何してるの?」
別に居てもおかしくはないんだけどね。
「俺?俺は散歩してただけ。遊戯こそなんで?」
海馬君の家でいちゃいちゃしてましたーなんて・・・言えない。
「海馬君に呼ばれてごちそうになってたんだ」
「あいつも案外暇人なんだな・・・」
「たまたまだよ・・・あはは。じゃあそろそろ帰るね」
「おう!またな!」
ふぅ・・・なんかこういう時に会うと緊張する・・・。後ろめたさがあるからなのかな・・・。でも城之内君とは付き合ってるわけじゃないし・・・。
でも城之内くんも普通だったし、大丈夫だよ。うん!
・・・そう、まさか門での出来事を城之内君が見てたなんて知るわけない。
コメント
やっと海馬のターン。
モクバ君、空気読みすぎですよ。