乙女遊戯






 そして今日も、海馬君のいない席をちらりと覗いてみた。席替えをしても動かないその席はある意味海馬君の特等席なのかもしれない。だけどその傍にボクはいないんだ。


「遊戯、今日はどうする?」
 城之内君がそう言うのももう何回目だろう。つまり港に行くってことなんだけどね。
「うーん、別に用事ないんだけど・・・」
「なぁ、今日は気分転換に俺ん家いかね?」
 城之内君の家かぁ。尋ねたことはあるけど、入ったことないな〜。
「いいの?」
「今日は親父がいないんだよ。なぁんかよくわからねぇけど2日後に戻るとか言ってでてっちまったから」
「なら、行こうかな。城之内君の家みてみたいし」
「了解了解」
 と、言うことで僕は今日は城之内君の家に行くことになった。ボクの家に来ることはたまにあっても、ボクが誰かの家にいることは少ないんだよね。海馬君の家に行くことは別としてだけど。今日も海馬君は忙しそうだからボクの相手なんてしてられないだろうしね。


 放課後、いつものように城之内君と一緒に学校を出た。天気は少し曇りになっていてなんだか雨が降りそうで、ボクらは足早に城之内君の家を目指したんだ。だけどあと数メートルのところで突然降ってきた。
「のわっ、ちっくしょう・・・」
「降ってきちゃったね・・・」
 ここからはマンションの玄関まで思いっきり走った。数メートルだからそんなにしんどくなかったけど、突然降ってきた雨は結構激しかった。
「はぁー!もうちょい早く歩けばよかったな」
「仕方ないよ」
 エレベータに乗っている間少し体にまとわりつく湿気が妙に気持ち悪かった。まぁ仕方ないんだけど・・・。
 城之内君の家の玄関に案内されると「ちょっとまってろ」と言われた。どうやらタオルを持ってきてくれるらしい。すぐにバスタオルを渡された。ちょっと大きくない?
「これ・・・」
「いや、小さいのどこにあるのかわからなくてさ!」
「城之内君らしいね」
 遠慮なく髪の毛を思いっきり拭いて服も少し拭いて返した。「もういいのか?」って聞かれたけど、きっと大丈夫だと思う。
「お邪魔しまーす!」
「って俺らしかいないんだけどな」
 ボクの言葉に苦笑しながら先を歩いていく城之内君はなんだか嬉しそうだった。ボクは初めて入る友達の家ってこともあってなんだか同じように嬉しかったんだ。
「俺の部屋、そこだから」
「うん!」
 入ってみるとベッドと机とかしかない綺麗な部屋だった。もっと汚いのを創造していたんだけど、ボクの部屋みたいに散らかってるわけじゃないんだ。
「綺麗な部屋だねー」
「まぁ何もないからなー座る場所とか適当でー!」
 カチャカチャと音がするからキッチンでお茶でも用意してくれているのかもしれない。一人部屋に立っていた僕はベッドに腰掛けることにした。 
 雨の音がだんだん激しくなるのを感じながら少し薄暗い部屋を眺めているボクはこの部屋に少し居心地を感じてしまっていた。
「麦茶しかなかった!」
「いいよ!こっちこそごめんね」
 適当に机の上にコップを置くと、もう一つをボクにくれた。城之内君は向かいのイスに腰掛けて次のことを考えてるみたいだった。
「まぁ来たところですることなんて限られてるけど・・・」
「雨だから外にもでれないしね」
「まぁ勝負でもするか!」
「うん!」
 鞄の中からカードケースを取り出した。相手が城之内君だから何回もやっててカードの中身はよくわかってると思う。だから今回はあえてランダムでやってみようかな。負けちゃうかもしれないけど。
「遊戯!準備できたか?」
「うん!OKだよ!」
 そして僕たちのデュエルが始まった。




「あぁー!また遊戯に負けちまったぜ・・・」
「わぁーい!でもボクの残りのライフもう400しかなかったんだ。最後の運だよ!」
「ちくしょー・・・」
 いつの間にかボクたちはベッドの上で向かい合ってデュエルしていた。半分体が乗った状態の城之内君と完全にベッドの上に座っているボク。
「どうしようか」
 デュエルが終わって次のことをまた考えている城之内君。ボクはこのとき余計なことを考え付いたんだ。
「うーん、じゃあ何か言うこと聞いてもらおうかな」
「え!?そっちかよ!」
「なんて」
「いいぜ!なにかいってみろよ!」
「え?!・・・うーん」
 そう言われると何も考えていなかったからなぁ。
「うん、じゃぁ、好きな人はだれ?っていうのはどう?」
 最近二人の間で盛り上がってる話題しか浮かばないというなんてベタなボク・・・。城之内君はというと一瞬驚いた顔のまま固まって顔を真っ赤にして慌てている。良くない提案だったかも。
「嫌ならいいんだよ!うん」
「いや、えーっと・・・」
 表情的には言う気があるみたいでぼくは少し驚いた。
「教えてくれるんだ?」
「実は・・・」
 そのあと思いっきり言葉を溜める城之内君に僕はどんな返答が返ってくるのか期待して待った。
「好きな奴って言うのは・・・」
(誰?誰?)
「・・・遊戯なんだ」
「へー!遊戯って言うんだぁ・・・。・・・」
「だからその・・・お前」
「ボク?」
「お前」
「ええーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
 ま、まさか?冗談だよね?
「だから、その、友情どまりってわけで・・・」
「ボクのことからかってる?」
「俺は、そんなことしないぜ!」
 どうやら本気みたいだ・・・。信じられない!城之内君がまさかボクを好きだなんて・・・。
「わりぃ・・・気持ち悪かっただろ・・・」
「えっ、あっ、ううん!気持ち悪いだなんて思ってないんだ、ただびっくりしちゃって・・・」
 ボクの言葉を聞いて少しほっとする顔を見せる城之内君。ほんとに覚悟の告白だったみたいでボクは驚いた。こんなボクをスキだって。
「遊戯にも好きなやつがいるってわかってるんだ・・・。でも俺どうしても諦められなくて、こんな告白卑怯だってわかってる」
「城之内君・・・」
 城之内君を恋愛の対象としてみたことがないからなんともいえないんだ。でも城之内君が恋人だったらいつも一緒にいて楽しい時間を過ごせるんだろうなぁ。
「ボク城之内君のこと好きだよ。でも今までそういう風に見たことないからわからないよ・・・」
 それを聞いて城之内君は少し困った顔をした。
「わりぃ・・・困らせたよな・・・」
「ううん、謝らないで。城之内君の気持ち嬉しかったから」
「遊戯・・・ごめん」
 城之内君はそういうとボクを抱きしめた。一瞬驚いたけど、城之内君の手が少し震えてるのにきがついてボクは反対に落ち着いた。
「城之内君温かいね」
「・・・ッ!」
 ボクは何故か拒否の言葉とかじゃなくて、自然に思ったことを口に出していた。安心する。そう、海馬君とは違う安心感がそこにあったんだ。
「ご、ごめん。変なこといって・・・」
 パッと腕を放された。きっと現実に戻ったんだと思う。城之内君は真っ赤になって離したままの格好で固まってた。それをみてボクは失礼だけどついわらっちゃった。
「な、何だよ・・・」
「なんでもない。城之内君これからもよろしくね!」
「は!?」
 城之内君は突然のボクの一言に思いっきり驚いた。
「友達やめちゃいそうだったから・・・先に言ったんだ。嫌いなんていってないから、ね」
「遊戯・・・ありがとよっ!」
 このときボクは、城之内君のために一番いい方法を選んだんだって思ってた。それは間違いだったんだ。それに気づいたときにはもう何もかもが取り返しのつかないことになっていたなんて。







コメント
城之内君が一番書きやすいです。(一番書きにくいのは社長だよ!コラ!)