乙女遊戯
大きなキングサイズのベッド、ふかふかの羽毛、冷暖房完備の部屋。
そんなことじゃなくて、ボクが最も温かいと感じる人が今ボクの隣にいる。
「遊戯・・・?」
何も言わず抱きついてくるボクに海馬君は不思議そうにこっちを見た。ボクは今無性に幸せだった。何をしているわけでもない。ただ、傍にいることがボクの心を満たしていったんだ。
「海馬君、ボク今とっても幸せだよ。海馬君は?」
「愚問だな。幸せに決まっている」
そういうとボクを正面に見て、そして近づいてくる。
たくさんのキスの嵐は海馬君のお得意だったりする。溶けるほどの長いキスはHの前だけなんだ。
「最近、夜に出かけているらしいな」
「誰から聞いたの?」
そう問いかけると、ムスッと鋭い表情を見せた。
「お前の兄からだ」
もう、もう一人のボクってば、仲悪そうに見えて海馬君に何でも話しちゃうんだから!でもどうして不機嫌そうなんだろう。
「凡骨といるらしいな」
「そこまで知ってるの?!」
別に隠しているわけじゃないけど、ボクが教える前に知られてるとやっぱりちょっと不満。悪いことなんかしてないもんねー。
「じゃあ、もうボクが言うことないじゃない」
「何をしているんだ?」
「・・・それは秘密だよ。守・秘・義・務」
「ほほぅ」
あ、嫉妬した。
「相談に乗ってるだけだよ」
「ふぅん・・・」
なかなか信用してくれないみたいで、不満そうにこっちを見てくる。ボクはこれに弱い。プラスあとすねた顔とかされると何でも話してしまうんだ。だけど、今回は言えないしね。それに、海馬君は言わなくても自分で誰かに頼んで調べてもらったりしてるし・・・。
「ボクを信じてくれないの?」
「・・・信じるに決まってる」
少し間が空いたけど、まぁいっか。
「だが、オレのいない時にほかのやつと一緒にいるのは気に入らないな」
「ボクから友達を消す気?」
海馬君ならやりかねないなんて思いながらボクは冗談めかしていった。
「それがオレの理想かも知れんな」
「まったまた〜!ボクから友達を消したら海馬君とも絶交だよ?」
上目遣いでそういってみたら、海馬君は困った顔をこっちに向けた。
「・・・お前にはかなわないな・・・」
「なーんてね」
こんな風に海馬君の表情や、心を独り占めできるのは多分、きっとボクだけ。こんなこといったら誰かに自惚れてるなんて言われるかもしれない。でもこうやって一緒にいるときはそんなことを思ってしまう。モクバ君にだって負けないんじゃないかって。
「好きだよ、海馬君」
「オレは遊戯を愛してる」
「ボクだって、海馬君のこと愛してる・・・」
海馬君の胸にうずくまる。すると海馬君はボクの髪をゆっくりと撫でてくれるんだ。温かい体温を感じるとボクはすぐ眠たくなってしまう。
「ん・・・」
「眠いのか?」
「んー・・・」
そんな返事をすると海馬君は苦笑して少しずれている布団をかけてくれた。
「ふぅん・・・明日が休日だからと言って・・・まぁ良いか・・・」
海馬君が何かを呟いていたけれど、ボクは眠くてもう聞けなかった。どうしても海馬君の傍にいると眠たくなってしまうんだ。安心してるからかな。
海馬君にそういうと、子供だなっていわれるから言わないけどね。
「・・・おはよう」
「早いな」
大きな窓から差し込む眩しい光がボクに向かってきていた。海馬君はすでに起きていて、僕の顔を悠々と隣で見つめている。
「ちゃんとねた?」
「あぁ、寝た」
海馬君は疲れとか顔に出さないからわからないんだ。今だってほんとに寝たのかわからないし。
「何時間くらい?」
「5時間くらいだ。ちゃんと寝ているぞ」
僕が寝たのが1時で、今は・・・あー8時かぁ。あれから二時間何してたんだろ・・・。合間に仕事でもしていたのかな・・・。
「んー!、いい天気だね。今日はどうしようか?」
「遊戯が望むがままに」
「えー!うーん・・・じゃあまずは朝食かな」
今日の一日の予定なんてすぐ考えられなくて、目の前の予定を口にしてみた。海馬君は怒ることなく、「わかった」とさっそくベッドから出て行った。
「あ、ボクも行くー」
こういう二人でいるときは料理長とか呼ばないで、海馬君が作ってくれるんだ。僕は・・・作らせたらあの世にいけるくらいの腕しかないんだけど・・・思ってて今落ち込んだ・・・。
「何がいい?」
「目玉焼きかな?」
海馬君がパジャマ姿で料理してるなんてみんな知ったらきっと驚くだろうなー。まぁ海馬君がそれを言うことには賛成しないわけだけど。料理の腕はすごいんだ。シェフなんか雇わなくたって自分で何でもできちゃう。「時間など割いていられない」って言ってる。海馬君忙しいもんね。
一般家庭ではありえないキッチン一体型冷蔵庫の中から卵を取る。下についてるから僕でも取れるんだよ。上はシンクとかまな板置くところとかコンロとかがある。その冷蔵庫は大抵ボクの言ったものが入ってる。
「不思議だ」
「なんだ?」
「ううん、どうしてボクの言ったものが入ってるのかなって」
「遊戯が食べたいものなど限られてるではないか」
そっか。って、なんだよそれー!ボクがあんまり種類を食べないみたいじゃない!
「じゃあ今度は変わったもの言ってみるよ」
「オレを驚かせることはできるか・・・」
「うー」
「危ないぞ、少しはなれろ」
火をつけだすと海馬君はボクにそういう。
「子供じゃないんだから・・・」
「オレが気にして料理ができない・・・」
最初、傍で見ていると「遊戯」って何回も言われてたんだ。「ん?」そっちを見ると「なんでもない」って言われるけど、やっぱりまた「遊戯ッ!」って呼ばれる。何なのって尋ねたら火に近いから気にしていたらしい。
そりゃあボクの髪の型からすればいつ火がつくかわからないで冷や冷やするだろうけれど!
「じゃあ向こうで待ってるね」
「あぁ」
リビングのほうに行く。白いソファーの向こうには小さなテーブルと普段はなさそうに見えるテレビがある。なさそうに見えるってのは透明なシートのようなものが壁にあるらしくて電源をつけるとテレビになるんだって。さすがKCコーポレーション。僕たちが持ってるソリッドビジョンよりは簡単なものらしいけど・・・。
しばらく待っていると朝食の良い匂いがしてきた。ボクがダイニングへ行くと、テーブルにもう並べてある。
「いつもおいしそうだね〜」
「当たり前だ」
バケットに入ったいろんなパンと目玉焼き、サラダ。あっという間に用意していしまうんだからボクには驚きだ。
「ありがとう、海馬君」
「その笑顔が料理の対価としておこう」
「安すぎるよ」
「いや、俺にとってはこれ以上のものはない」
「うーん」
海馬君はボクに対してかなり無条件なところがある。ボクはなんとか対等でいようとするんだけど、海馬君がそれをさせてくれない。ボクらが出会った理由や、過去のしてきたことを考えると当たり前だなんて言うんだけれど、ボクは気にしないでほしいなって思う。
「いただきます」
とりあえず、食べよう。
「遊戯、鞄にマスコットが増えているな」
「うん、城之内君が取ってくれたんだよ」
「ほぅ」
あれ?怒ったかな?
「それで、次は何だ?」
「え?」
サラダにかけるドレッシングを選んでいたボクに、そう問いかけられた。
「ドレッシングは和風かな」
「いや、食べた後だ」
「あ、あー・・・」
意味不明なことを答えてしまってボクは恥ずかしかった。海馬君がタイミング悪いんだー。
「そうだね〜、海馬君の携帯が突然鳴って土壇場キャンセルかな?」
「そういうことは言うな・・・」
と同時に携帯がなった。もちろん計算してたわけじゃないよ?
「・・・なんだ?」
不機嫌そうな声ってことは会社の人だね。なんとボクって超能力者って冗談を言っている場合じゃないね。どうやらほんとにキャンセルになりそうだもん。
「わかった・・・」
海馬君が電話を切った。
「いってらっしゃい」
「・・・オレのこと嫌いになったりしてないか?」
海馬君が弱音を吐いてる。案外海馬君は精神低に弱いのかな。自信たっぷりのときは目に見えるくらい傲慢なのに、ボクの前ではこういう時がある。
「してないしてない」
「・・・すまない」
「いいよ、お仕事がんばってね」
「あぁ」
こういう時ボクは我侭を言ってもいいんだろうか?「傍にいてよ」と言ったら海馬君はきっといるだろう。でも、それは口にしてはいけない気がする。ボクはどうしたいんだろう。この生活に満足しているんだろうか?していないんだろうか?
今日もまた城之内君と海へ。
コメント
社長と思ったら負けです(ぁ
尽くす遊戯、騙す遊戯を目指してます。(なぁにそれ