47、笑顔
※パラレルなお話です。
適当設定
スタン・エルロン:エルロン侯爵の長男。お金持ちの世間知らず(純粋に)
リオン・マグナス:奴隷階級の剣士。
ウッドロウ・ケルヴィン:ケルヴィン公爵 スタンの良き友達兼保護者
薄汚い円形のドームの中で、彼はただ一心に剣を振るっていた。目の前の敵は倒して
も倒しても鉄格子の向こう側から現れて、クスリでも打ってきたかのように目はひどく
血走っていた。そんな円形のドームで戦う彼の名はリオン・マグナス。
―――この奴隷闘技場の孤高の天才。
ここダリルシェイドの街には貴族と呼ばれる上流階級と、庶民と呼ばれる一般階級、
そして奴隷と呼ばれる下層階級で成り立っている。その街の北側の高台に大きな屋敷を
構えているのが、ケルヴィン公爵だ。お屋敷というよりは小さなお城といった感じで、
現在ウッドロウ・ケルヴィンが主を務めている。容姿端麗、文武両道をいかに例えるな
らこの人しかいないという有名人である。
「ウッドロウさぁん!」
大きな声で彼の名を呼んだのは、スタン・エルロンだった。彼はケルヴィン家より馬
車で30分の距離道のりにある、東の森の中にお屋敷を建てているエルロン侯爵の長男
であった。銀色の髪のウッドロウとは違い、太陽の下で輝く金色の髪を揺らしながら走
ってきた。彼らはたまたま狩りに出かけたときに意気投合した仲だった。
「スタン君、今日は早かったね」
「当たり前ですよ!何しろ今日は闘技場に連れて行ってくれるんでしょう?俺、楽しみ
でぐっすり眠れました!」
にっこりと笑うスタンの笑顔につられてウッドロも笑ってしまう。ウッドロウは彼の
少しとぼけた会話と、そのときに見せる笑顔に惹かれていた。
「今日は闘技場と言ってもそんなに楽しいものじゃないかもしれない。君にも知ってい
て欲しくてね」
「うーん?何だかよくわからないですけど、お供します!」
「ありがとう、じゃあ行こうか」
「はい!」
そう言って二人は従者が待つ馬車へと向かっていった。
彼らが着いた先は、庶民層と呼ばれる最南にある闘技場だった。貴族が観に行く北の
闘技場とは豪華さも、広さも全く異なるものだ。
「ここは・・・?」
「オベロン闘技場。通称奴隷闘技場と言われるものだ」
「奴隷?」
「君の屋敷にはいないんだったな。奴隷とは庶民よりも下にある者達で、まるで家畜を
扱うようにボロボロになるまで扱き使われる者たちだ。この闘技場ではその奴隷達を野
生の獣と戦わせて庶民のストレスを解消させる見世物となっているんだ」
「そんなことが・・・」
闘技場最上階の大きなガラス張りの特別室からスタンはその様子を見ていた。薄い布
だけの身体に一本の剣を渡されて命のかぎり戦っている。
「これは俺たちが楽しんでいるものではないんですね」
「そうだな。彼らには命がかかっている」
一人目の試合が終わると、すぐに二試合目が始まった。黒い髪の小柄な少年がボロボ
ロのマントと布を合わせたような服でやってきた。よく見るとさっきの者とは違い、綺
麗な剣を持っている。
「彼・・・あの剣どうしたんでしょう」
「彼はリオン・マグナス。この闘技場の英雄でもある。彼は一度として負けたことはな
く、またその戦いの華麗さから多くの人気を得ているようだ。あの剣は幼い頃から持っ
ているものらしいが・・・」
そう言っている間に、リオンが動き出した。相手は彼よりも大きな熊で鋭いつめを武
器に襲い掛かっていた。
「あぶないっ」
スタンがそう叫ぶと同時に、リオンは一瞬にして熊の背後へと滑り込んだ。月の残像
を残すがごとく綺麗に回り込む。
「なんて、すごいんだ・・・」
「我流なのかそうでないのかわからないが、彼の剣技はナイトの称号を得ていてもおか
しくないだろう」
リオンはそのまま剣で一突きさして一発で熊を仕留めた。試合開始からほんの2,3
分の出来事だった。
「彼は、どこに住んでいるんですか?」
「相手をしたいと思ったのかな?」
「はい!あんな技みたことない!」
「彼は、ここに住んでいる。奴隷は住む場所も与えられることは少ない」
「そうなんですか・・・」
「それに貴族が奴隷を相手にすることは世間的にはタブーとされているのだよ」
ウッドロウは苦笑しながらも、スタンのうちに秘めている思いがありありとわかった
。スタンは剣を得意とすることで、強い相手と戦ってみたいという欲望が沸き起こって
いるのだろう。スタンがリオンを見る瞳は、同情でもなく悲しむでもなく、ただ好敵手
が現れた、それ一心に思う熱い期待の目だった。
(やはり、君にはもう少し世間を知って欲しいな)
ウッドロウはスタンをただの貴族で終わらすにはもったいない男だと見込んでいた。
リーダー性、社交性、信頼性、そして強さ。彼にはそれらが備わっていて、彼に足らな
いものは、経験と知識だと判断していた。
「彼の試合が終わったようです。俺、ちょっと会いに行ってきます」
「スタン君、これを着ていきなさい」
「マント?」
「貴族が奴隷に会うのはあまりよろしくないのでね」
「うーん、わかりました」
薄茶色いマントをかぶると、スタンは階段を下りて地下の出場の入り口へと駆け走っ
た。
(彼と戦いたい!)
走っていたおかげで監守の二人に引き止められた。
「おい!何している!」
「えっ!えーっとリオンに会いたいんだけど・・・」
変なことを言ったのか監守は眉を寄せてスタンを睨んだ。
「あんな奴に何のようだ。奴隷に会いたがるなどおかしなやつだ」
「ははーん、こっから逃亡させようという計画かなんか立てているのか?」
ますます怪しまれてしまったスタンを横目に、目的のリオンが出てきた。
「あ、リオン・マグナスくん?ちょっと話がしたいんだけど!」
大声で名前を叫ばれたからか、一瞬リオンはこっちを向いたかと思うと、すぐにそっ
ぽを向いて行ってしまった。スタンはかなりのショックを受けてウッドロウのところへ
戻ってきた。
「ウッドロウさん・・・俺、そっぽ向かれました」
マントに包まって眉毛をへの字にさせているスタンをみてウッドロウは笑った。
「ははは、世の中にはそんな人間もいるんだよ。私達が暮らしている世界にあんまり見
かけないだけでね」
スタンは慰められて、素直に納得する。
「じゃあ、どうしたら彼と話せます?」
「そうだな・・・一番早いのは彼を買うことだね。まぁこれは人として良くないことだけれ
ども」
「か、買う?!」
スタンには縁遠い話で目を大きく開いた。
「メイドたちを雇うとは違って、その人の人権を無視して物として売り買いされるのが
奴隷なんだ。一番いいのは毎回通って知り合いになることだけれども」
「毎回は通えないなぁ・・・」
「そうだな。まぁ今回のところは引き上げよう。いいね?」
「はい」
帰りの馬車の中、スタンは外の青空を見ながら何だか落ち着かない様子だった。ウッ
ドロウはそんな姿をみてただ微笑んでいるだけだ。
(期待と不安かな?まぁこれから彼をスタン君がどうするかみていよう)
数週間後、ウッドロウの元にスタンからの一通の手紙が届いた。
続
コメント
ん、坊ちゃんが奴隷?ありえーなぁ〜い。どんだけーw(死