38、リーネ村









 リーネ村。
 フィッツガルド一のド田舎で、ご近所さんは皆知り合い。のどかな風景と活気ある人々の姿が特徴的。
 そして、スタン・エルロンが暮らしている場所でもある。





 そんなリーネ村が、僕は大嫌いだ。






「みんな、紹介するよ!妹のリリスとじっちゃん!」
 僕だって最初から嫌いだったわけじゃない。
 穏やかで、都会では味わうことができない新鮮な空気は好きだ。
「初めまして!リリスといいます。旅先で兄がお世話になってるみたいで・・・」
「なんだよー、俺が迷惑掛けたみたいじゃないか」
「そう言ってるのよ」
 スタンの家もまぁ、何にもないが温かみのある家で居心地がよさそうだった。
「とりあえず・・・じぃー・・・」
「・・・」
「じぃー・・・」
(なんだ?確実に僕のほうを見ているようだが)
「リオンさんですか?」
「そうだが」
「うちの兄ととっても仲が良いみたいですね」
「・・・」
(何が言いたい)
「どうやって兄とし・ん・み・つになったのかは知りませんが、このリリス!一切認めませんからね!」
 と、僕に向かっておたまを突き出してきた。まず、客に接する態度ではないな。
「ふんっ、くだらん」
「リリス!なんてことしてるんだよ!」
 さすがにスタンもリリスの態度に驚いたのか、大声で叱った。リリスはハッと我に返ったのかスタンを見つめた。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。だって・・・」
 必殺上目遣い+涙と言ったところだろうか。スタンはその表情に困った顔をしてうろたえている。さすが、シスコン。
「ごめん、そんな怒るつもりじゃ・・・。ほら、皆も居ることだし、とりあえず、中はいろう」
「うん」
 リリスの肩を持つように中に入っていくスタンを見届けた後、僕は中には入らなかった。とりあえず、外で散歩でもしていようと、思ったわけではないがあんなことを言われて素直に入りたくない。

 しばらくして池のほうへと降りていくと、茶髪の女がいた。一人で何をやっているんだと思えば、こっちをじっと見つめてきた。
「・・・」
「あなた、例のリオンさんでしょ」
「・・・」
「リリスから聞いたわ!馬鹿なスタン君を騙して愛人にさせてるんでしょ!都会の人だからどうせ一人や二人じゃないんでしょうね。スタン君をどうするつもり!?」
 発狂じみた声で怒り出した。僕はくだらないので他へ行くことにした。女は後ろで何か騒いでいたが、一定の場所でしか動けないらしい。不思議なやつだ。

「お前!!」
 今度は何だ・・・。
「俺のスタンをよくも!!」
 こいつのスタンだったのか。(つっこむのに疲れている模様)
「お前のスタンならば、お前がちゃんと守れ」
「なっ!!」
 赤面のバカをほって、僕はまた別の場所へ行くことにした。あいつは本当の馬鹿のようだからどうせ名前もバカがつくような名前だろう。

 しばらく行くと、畑を耕しているおばさんを見つけた。またなにか言うのかと思えば、普通の挨拶だった。
「あら、こんな村にお客さん」
「スタンの知り合いだ」
「あー!スタン帰ってきたのねぇ。家に帰ったら大変でしょうね」
「なに?」
「妹のリリスちゃん、ちょっとブラコン気味でね、お兄ちゃんに悪い虫がついたーって叫んでたから、一体どんなお嬢さんなんでしょうかね?」
 ちょっとどころかかなりのブラコンを発揮されたが、何か?と突っ込もうとしたが、どうやらこの人は相手は女だと勘違いしているようだ。そこはあえて訂正しない。
「先ほどおたまを突き出されていたな」
「やっぱり?どうにかならないかね〜。あの子にはそろそろ自分の好きな人でも探してくれないと・・・。それにスタン君だって自由に恋愛できないじゃないかね〜」
 このおばさんの言うことはもっともだ。
 話の分かりそうなおばさんなのでしばらく話していると、噂のスタンが近づいてきた。
「あら、本当に帰ってたなら、おばさんに一言言いにきなさいよ」
「ごめん、大人数でうろうろするのも悪いかなと思って、ところでリオン、何してたんだ?」
「話していただけだ」
「リオン?この子がリオンっていうの?」
「そうだよ」 
 スタンは何気なく言ったが、僕はまた先ほどと同じことを言われるのかとため息をついた。
「あら、やだ。女の子だとおもってたわ。そういうことね、突き出されたって言うのは」
「え?」
 スタンは理解できていないようで、おばさんと僕を何回も見た。
「まぁ、安心しなさい。君の事リリスちゃんだってきっと認める日が来るはずよ。もちろん、おばさんはあんたの味方だからね。頑張りなさい!」
「おばさん!」
 スタンは意味を理解したのか大げさに照れた。僕はそんなことおくびにも出さなかったが、心の中では少し嬉しくて照れていた。
「ありがとう」
「感謝されることしてないよ、恋愛は自由なんだからね」
「じゃあ、俺らそろそろ家に帰ります!」
「またね」
 いいおばさんだ。もうこの村には近寄らないと思いかけていたが、あのおばさんがいるならまた着てやってもいいな。


 と、思いかけたはずだったが・・・。



「二人で何やってたのよ!!!」
 うるさい。
「おばさんところにいってたリオンを迎えに行ってただけだよ」
「それにしては時間が遅すぎる!」
「最初にリオンを探してたからだろ?」
「そうやってお兄ちゃんはリリスの元から離れていくんでしょ!」
「何言ってるんだよ・・・」
「どうせ、どうせ・・・」
「うるさい!!!黙って聞いていれば、お前は自分のことしか考えていないだろう!スタンのことを考えてもみろ!村中で愛人にされただの、騙されただの広めて、そんなにスタンを笑いものにしたいのか!お前がやっていることはただの悪口だ!スタンが好きというならスタンのこともちゃんと考えたらどうなんだ。いつまでも子供で居られると思うな!守られる立場だと思うな!好きなら相手のことも考えろ!」
「「・・・」」
 ふと我に返ると二人別々の表情で声を無くしていた。スタンは驚いた顔でこちらを見て、あいつは俯いて肩を震わせていた。どうやら言い返す言葉がないらしい。
「なによ、もう知らない!!!」
 拗ねたのか、バタバタと二階へあがると、自室にこもってしまった。僕は悪いことはしていないはずだ。スタンは間が悪かったのと、さっきの言葉が効いたのか照れながら謝っていた。
「慰めにでもいけ、このままだと出てこないぞ」
「リオン・・・」
 その後、スタンに慰められたおかげか、あいつは居間に出てきたが僕の顔をみようとはしなかった。とりあえず、何だか気まずい食卓が済むと、皆は早々に発つことを決めた。
 あいつは何も言わなかったが、最後に僕の顔をみてこう言ってきた。
「いつか兄を守れるくらいになるから、覚悟しなさいよ!そのときはあなたなんか」
「いいだろう」
 僕は余裕の笑みをみせると、悔しそうな顔で見送っていた。





 僕はリーネ村が大嫌いだ。
 だが・・・あと一回くらいは来てやってもいい。







コメント
リリスが嫌な子になってごめんなさい。