36、キミの傍に








※お題『星屑の願い』の続きです。






 近頃、僕はおかしい。


「どうしたのー?リオン」
 原因は多分スタンだと思う。この世間知らずの坊ちゃんに瘴気でも当てられたのだろうか?いや、どちらかと言えば、瘴気だった僕が正気になったのか。
「近いぞ、顔」
 今はこれを言うのが精一杯で、すぐにスタンの顔なんてまともに見れなくなった。こうなったのもスタンが悪い。
 少し前まで、僕はスタンが傍に寄ろうが、一緒に昼寝しようがなんとも思わなかった。だって相手は男だ。何を思う必要がある?友人としてこの間認め合っただけじゃないか。それなのに、僕は・・・。





「リオン、今から俺の相手をしないか?」
「構わない」
 一昨日のことだ。スタンから剣の相手に誘われて一興交えることにした。その日はいつになく暑くて秋の中頃だというのに蒸していた。そのせいでだらだらと部屋で過ごしていたのだが、汗をかくなら運動でというスタンの一言に僕も賛同した。
「今日こそは勝ってやる!」
「期待してるさ」
 いつものように余裕を見せる僕に少し困った顔をする彼をみて僕は苦笑した。
「可愛い顔が台無しだな」
「かわいい言うなよ!」
 からかうことに慣れた僕のスキンシップのようなものだ。
 稽古場に到着して稽古着を着た。少しべた付く身体が気持ちが悪いが、仕方ない。スタンは平気なのかにへら顔で早々に着替え終わっていた。
「シャルティエの突きに勝ってみせる!」
「シャルを甘く見るな」
 同時に構えたことが試合の開始の合図だった。
「うりゃぁああ!」
 いつになく攻めてくるスタンに僕は最初守ってばかりだった。遠慮の無い攻撃がすばやい動きで向かってくる。守備には様子見も兼ねていたが、もう一つ僕は作戦を考えていた。
(どこまでその勢い、もつか・・・)
 突きに比べて動きが大きい分負担もそれに比例する。僕はスタンが疲労するまで守りで固めて隙を与えなかった。10分経った頃、スタンの勢いも少し衰えてきた。
(そろそろか・・・)
 僕はスタンが体制の立て直しで離れたとき、突きの構えた。スタンもそれに気づいたのか少し警戒している。
「絶対にあの技を見切る!」
「ふっ・・・」
 ならばそうしてみろとでもいう風に挑発させるため僕は一歩前に出た。
「行くぞ!」
 すばやく前に攻める。スタンの目は僕を捕らえたまま離さなかった。
(綺麗な蒼だ)
 僕は不意を付いて跳んだ。てっきり後ろへ回るんだと思っていたスタンが一瞬目を見開く。
「マニュアル通りに敵は来ない」
 シャルを突き立てるように落ちるのを一瞬で避けた。動揺しているスタンに次の攻撃を仕掛ける。
「武器は剣だけじゃない」
 剣を振り下ろしたとたん回転しながら蹴りを入れる。それもまたぎりぎりのところでスタンは交わしたが遠心力の力で僕は最後の突きを彼の額でとめた。
「ぼーっとしてたら死ぬぞ」
 構えを止めて僕はシャルを下ろした。それなのに反応が返ってこないスタン。
「どうした?」
「・・・リオン」
「ん?」
「・・・カッコィイイ!!!」
「は?」
 僕が思ってもみない言葉が返ってきた。今何を言ったんだ?
「リオン、すごいなっ!何、その技!?綺麗すぎ!」
「・・・あれは飛燕連脚とかいうやつだ。誰かのを真似た」
「カッコイイ!!俺にも教えてくれよ!!」
 あまりにもスタンが心から言うので僕は戸惑った。スタンの目がいつもより輝いているように見える。
「実践で敵に惚れてたらお前は確実に死んでるな」
「リオンだからだよ!一瞬惚れたかも」
 こいつの冗談は結構際どい。スタンだから冗談で通じるところもあるくらいだ。
「男に惚れただの言うな。気持ち悪い」
 だが実際は素直に褒められて嬉しかった。剣の技術を褒められるのは剣士としては悪いことじゃない。
「でも、リオンカッコイイから」
 からかったつもりで言ったのだが、世間知らずの純粋な坊ちゃんには通用しなかった。気が狂う。
「なんかたくさん汗かいた・・・」
 またスタンの唐突な話題替えが始まった。
「そうだな。風呂に入りたい気分だ」
「そうだ!今から一緒にはいろー!」
 いきなり何を言うんだ。
「嫌なの?」
 嫌と言われれば別に男同士だから隠すものも嫌がる必要もない。
「構わない」
 そういうとスタンはにへら顔で喜んだ。
「じゃあさっそく戻ろう!」
 やれやれ、こいつには困ったものだ・・・。




 いつもと違って二人で入るのは少し緊張する。さすがに風呂の中までは従者をいれたことはない。それにここに来るまでは風呂に浸かることもなかった。
(思えばかなり贅沢だな・・・)
先に風呂に入る。スタンは脱ぎにくそうな服を着ていたからもうすぐ来るだろう。
「やっとおふろ〜♪」
 どうやら入ってきたようだ。白い湯気が辺りに立ち込めてあまり視界はよくないが、それが反対に助かる。
(僕の身体はキズだらけだしな・・・)
「えっとー湯をかけてーっと」
 いちいち確認する声が聞こえてくる。きっと一人で入ったことはないんだろう。僕としては周りに誰か居るのは落ち着かないと思うんだが。
「リオン、そこにいるの?」
「いる」
 ゆっくりとこっちに近づいてくる。分かりやすい輪郭のお陰ですぐにわかった。
「はー・・・、お風呂はいいね〜」
 やっとお互いの姿がはっきり見えるところまで来ると、僕は一瞬固まった。今まで凝った貴族の服を着たスタンしか見てなかったからなんとも思わないかったが、こいつの腰、細すぎる!
「お前、細いな」
「き、気にしてることをズバッと・・・」
「そうだったのか」
 それに肌が白い・・・、いや、僕もそうなんだが。湯に髪がつかないようにアップにしている姿はまるで、女だった。
(背中からみたら分からないだろうな・・・)
 いつの間にかそんなことを考えてスタンを見すぎていたのか、視線を泳がせているスタンに気づいた。
「どうした?」
「だ、だってそんなに見られたら恥ずかしいだろー!
「・・・胸元で腕をクロスさせるな!女かおまえは!」
「だって・・・」
 今度は上目遣いだ。それにはさすがに僕も心臓の音が心なしか早くなっていく。そうなるとなぜか視線が喉もとにうつり、鎖骨に移り、そしてだんだんと下へ降りていく。僕はハッと気づいてゆっくりと後ろを向くと縁にもたれかかった。
(僕は何をしているんだ・・・)
 虚しい自己嫌悪に陥る僕にスタンは何も知らないと言った顔で僕に近寄ってくる。
(止めてくれ・・・僕は男なんか好きじゃないんだ)
 そう自分に暗示をかけようとしたけど、それ以降スタンを見る目が変わっていることに気づくのは難しいことじゃなかった。


 そして今、スタンは僕の部屋のベッドで心地よさそうに眠っていた。昼寝は大事らしい。僕も一緒に寝ようと誘われたが、さすがにそんなことはできなかった。
(誘うなバカ)
 こいつは気づいているんだろうか?僕の今の事情とかそんなことに気づいてからかっているんだろうか?
 いや、そんなわけがない。公爵様のお墨付きの単純男なんだ。
「それでもいいからお前の傍にいたいと思う僕は滑稽だな」
 まるでこの前読んだ小説みたいだ。
(まぁ物語みたいにこの気持ちを言うつもりはないが・・・)
 せいぜいお前に嫌われないように友達になってやるさ。
「だが・・・」
 寝ているときくらいはこの気持ちを伝えてみようか。




 ―――重ね合わせるくらい、いいだろう?






コメント
やっとリオ→スタです・・・。続き物なんて書くんじゃなかったZE!orz