34、うそつき








『リオン、俺・・・リオンと戦いたくなかった!』
『もう遅い、遅すぎた。スタン、最後の別れだ』
『やだよ!なんで、こんな・・・』
『さよならだ』
『リオン!!やだっ!!リオン!!』




「リオン!!!」
 大きく見開かれた瞳に写ったのは、見慣れた白い天井だった。意識がはっきりしたのか、それを確認すると、瞼を落とし、寝返りを打った。
「もう、居ないんだ・・・」
 自分の心を抑えるように、つぶやいたスタンはぎゅっと瞼を閉じる。10分くらいそのままベッドでごえごろごろしていたが、寝付けないので起き上がった。
 ミクトランを倒して、世界は平和になった。
 英雄として称えられたスタンの心にあるものは、埋められない空虚の穴だった。
「俺がこうしているのもリオンの犠牲の上なんだ」
 どうしてあの時止められなかったんだろう。そればかりがスタンの心に広まっていく。
「駄目だな、こんなこと考えてちゃ。外に出て気分転換でもしよ・・・」
 そう言って、服を着替えてスタンは牧場のほうへ歩いていった。
 牧場では羊達が元気よく鳴いていた。スタンを見つけたジョナサンは駆け寄ってきて、顔を摺り寄せてきた。
「おはよう。今日もいい天気だね」
「めぇ〜」
 風が北から南へと突き抜けていく。羊と戯れていると、本当に平和になったと感じる。あの旅がまるで嘘だったかのように。
「俺は旅をしたのかな?あれは夢だったのかな?ディムロスももういないよ・・・」
 原っぱに倒れこんで、快晴の空を見上げる。
 スタンにとってこの美しい世界そのものがリオンを思い出させていた。
「死んだなんて、やっぱり信じられないよ。最後の別れなんて信じない」
 手を伸ばして空を切った。
「やっぱり、信じない」
 スタンはそう言うと、決心したように勢いよく起き上がった。
「めぇ〜!!」
「ごめん、驚かしたな。ジョナサン、俺やっぱり探しにいくよ」
「めぇ〜」
「また内緒かな?」
 苦笑すると、原っぱを駆けて行った。支度なんてするものはない。この身体があれば探しにいける。
「もっとはやく気づけばよかった」

「何に気づいたんだ?」

 後ろから声が聞こえた。誰に向かって言った訳ではなかったのに、まさか人が居るとは思わなかった。その男はフードを顔が隠れるくらいまで覆っており、顔が良く見えない。スタンは急ぎたいのを抑えて答えた。
「探しに行くんだ。大切な人を」
「もう、遅いんじゃないか?」
「後悔したくないんだ」
 スタンがはっきりそういうと、男は「そうか」とつぶやいた。
「ならば、行け。誰を探しに行くのか知らんが、後悔するな」
「うん、分かってる」
「じゃあな、・・・スタン」
 スタンは後ろを振り返って、また走り出した。リーネ村の出口はすぐそこだ。だが、ふと思った。
(あれ?何で名前知ってるんだ?それに・・・あの声)
 何かが引っ掛かった。
 スタンは駆けていた足を止めると、後ろを振り返った。
(そうだ、あの声、なんで、なんで気づかなかったんだ!)
 走ってきた道を急いで戻った。
(そんな、まさか!でも居なくなってたらどうしよう・・・お願いだ!まだ居てくれ!)
 小さなリーネ村がいつもより広く感じた。さっきまで居た牧場の原っぱまで戻ったが、さっきの男はもう居なかった。
「そんな」
 その場にへたり込んだ。
「また、居なくなるのか・・・リオン・・・」
 会えたと思った瞬間だった。自分がもっと早く気づいていればこんなことにはならなかったのに。
「呼んだか?」
 あの声がした。
 スタンは無我夢中でその声のほうへと向かって、その腕を離れないくらい強くつかんだ。
「大切な人を探しに行くのではなかったのか?」
「見つけたよ。リオン」
「ふっ・・・遅すぎだ。もう僕が先に見つけてしまったからな」
 そう言ってリオンはフードをはずした。あれから成長したのか、背が高くなっていて顔つきも少し大人っぽくなっていた。
「リオン!本物だよな?夢じゃないよな?」
「頬っぺたでもつねってみろ」
 スタンは言われるまま自分の頬を思い切りつねった。
「痛いっ!!夢じゃない、夢じゃない」
「当たり前だ。・・・会いたかった」
 リオンはスタンを抱きしめると、頬にキスをした。そのぬくもりを感じて本物だとやっと信じたのか、スタンは落ち着きはじめた。
「くすぐったい、でも嬉しい」
「僕もだ」
「でも、本当に最後の別れだって・・・もう会えないんだって・・・」
「すまない」
 安心したのか、気が抜けたのか、スタンの瞳には今にも零れそうな涙が光っていた。
「うそつきっ・・・最後の別れなんて・・・うそ・・つきぃ・・・!」
「本当にすまなかった。もうどこにも行かない」
「ほんと・・・?」
 確かめるように見つめると、リオンは目を細めた。
「本当だ。お前の傍にいる」
「絶対だからなっ!・・・もうっ・・・どこにもっ・・・」
「あぁ、もう嘘はつかない」
 零れた涙を拭いて、また頬にキスをすると二人はスタンの家に歩いていった。
 突然きた客にリリスは驚いたが、スタン顔をみると納得したように出迎えた。
「これから世話になるかもしれない」
「部屋一つ空けてあるから大丈夫よ」
「・・・そうか。すまない」
「気にしないの。どうぞよろしく!」
 そう言って手を差し出した。リオンは苦笑すると差し出された手をつかんだ。
「ありがとう」
 新しいスタートが今始まった。
















「スタン、僕の本当の名前はエミリオ・カトレットなんだ」
「・・・うそつき」














コメント
すみません・・・。終わりが見えてこないので無理やり終わらせました。