26、呼ぶ声





 いつの間にか、お前の呼ぶその名が好きになっていた。





「リオン、これが最後の戦いになるんだよな」
 決戦前夜、ダリルシェイドの酒場で皆集まって会議を終えた。会議だなど大層な言い方だが、ただの夕食会とでも言うのが妥当だろうか。
「そうだな」
 僕は皆とは少し離れた場所でオレンジジュースを飲んでいた。明日で本当に最後なんだろうかと少し不安に思いながらも、今を楽しんでいるところにスタンが向かいに座る。
「まさか、お前達とこうやって夕食を食べるだなんてな」
「そうか?俺はそんな日が来るって思ってたけどな」
 そう言って笑うスタン。
 今まで旅をしてきた中で、どれだけの人がこいつに救われてきたんだろうか。
「リオンはこの決戦が終わったらどうするんだ?」
「・・・前の生活に戻る、いや、あんな騒ぎになったんだ何処か遠くに行って静かに暮らすかもな」
 そういうとスタンは少し寂しそうな顔を向けた。
「リオン」
「ん?」
「もしさ、リオンが良ければ・・・俺と一緒に旅をしないか?」
 照れくさそうに頭をかいて笑った。僕は今言われたことが信じられなかった。
「なんの冗談だ?あの女が好きならあいつと一緒に・・・」
「あの女?」
 知らないといった振りをする。
「ルーティだ」
「え!?なんでそうなるんだよ!!」
 つい大きな声を出したから皆がこちらへ振り向いた。スタンと僕はその視線に気まずさを覚え、とりあえず外に行くことにした。
 当てもなく出て行ったので、最初はただ歩いているだけだったが、僕の家の前に来たときあのベンチで座ろうということになった。僕は気候もちょうど良かったので頷いた。

「さっきの話だけど・・・」
 そう言ってスタンが切り出してきた。僕は黙っていた。
「どうしてルーティになるんだ?」
「・・・仲がいいからな」
「・・・もしかして俺、ルーティが好きってことになってる?」
 鈍そうなスタンでも好きの違いはわかるようだ。
「皆がそう言っていたからな」
「・・・そんな」
 スタンはおおきなため息をついて肩を落とした。
「誤解していたならすまなかった」
「あぁ・・・うん」
 謝ったのにまだ落胆している。一体?
「酒場での話しだが、行ってやってもいいぞ」
「え?」
「旅の話だ」
「ほ、ほんと?」
「ああ、そのかわり生きて帰ることが条件だ」
 パァっと顔が明るくなり、大きく頷いた。
「もちろんだ!」
「ふっ」
 その変わり様につい笑ってしまった僕とは反対に、スタンは寂しそうに僕を見た。
「リオン」
「なんだ?」
「・・・なんでもないよ。ただ呼びたかった」
 『リオン』か。そういえば僕はこの名前が嫌いだったはずなのに、いつの間にか呼ばれても違和感がなくなっていた。スタンが何かある度にこの名を呼ぶものだから。
(リオンか・・・)
「・・・ありがとう」
「え?」
「こっちの話だ。さて、そろそろ戻るか」
「そうだな!」
 最後の戦いが終わったら、スタンに本当の名前を言ってもいいと思った。そして呼んでもらおう。
 僕の名を呼ぶあの声で。









コメント
スタリオっぽいぞー!