25、孤独
いつもあいつがいた。
ふと気づくと傍に居て、
眩しいほど笑顔を振りまいていた。
「最近みかけないねぇ。どうしたんだろ」
あいつを見かけなくなってから、3日が過ぎた。僕は別段気にしないといった風で本を読んでいた。教室の一番後ろの席で、皆が噂しているあいつの席をみる。机の中は割りと片付いていたが、すべて置いているのか、まるで今日もここに来ているかのようだった。
「風邪でも引いたんじゃない?」
「あいつが?風邪引くんだな」
「そりゃーさすがに」
好き勝手に言うクラスメイト。別に悪口じゃないと知っていても、言い方が少し気になる。僕はそれ以上続きを聞きたくなくて、教室から出て行った。
屋上が空いているだろう。
ふと、そう思っていつもいく図書室とは違うほうへ歩いた。階段を2階ほど上に上がると、いつも鍵の開いている扉を開ける。コンクリートがむき出しの地面は陽の光に当たって暖かそうだった。
「ふぅ・・・」
校庭が見渡せる位置まで行くとフェンス越しにサッカーや、バスケをしているものがみえた。何かを叫んでいる声がいろんな所から聞こえるが、なぜか此処ではそれも苦ではなかった。心地いい風邪が吹き付ける。腰を下ろして本を読もうとしたが、意識が本に行かない。
(あいつのせいだ)
スタン・エルロン。
クラスメイトからかなり慕われていて、僕とは違って皆と仲がいい。固定した友達はいないのか、やたらグループをいったりきたりしている。僕のところも何気なく来て話しかけてきて、いつの間にか違うグループに居たりした。
「たった、三日いないだけ」
そう、たった三日休んでいるだけ。熱でも出していれば当たり前のことだ。
なのに、僕はあいつのことを考えてしまう。
「何故?」
自問しても返ってくるのは答えではない。僕はまた本を読み始めた。
『ふぁぁ〜』
「!」
辺りを見渡した。一人しか居ないと思っていたのに明らかに声が聞こえた。
『よく寝たぁ〜』
声は上から聞こえた。僕は給水タンクしかない上の建物をみた。誰かが居る姿は見えない。上へ上る階段を一歩一歩上ってみると、その声ははっきり聞こえた。
「何時だろ、先生に怒られるかも・・・」
「お前・・・」
「うわぁ!!!」
僕の声に驚いたのか、大きな声が木霊した。
「うるさい。お前、何してるんだ」
「ゴメン・・・えっと、昼寝だけど?」
「・・・もしかしてずっと家に帰ってないのか?」
「何のこと?」
話についていけてないのか、ぽけーっとしたアホ面が僕を見る。
「お前、三日くらい寝てた」
「ええええ!!!」
「むしろこっちが驚きたい」
「今日、何日?」
「17日だ」
「・・・3日経ってる・・・。今何時!?」
「もうすぐ昼休みが終わる鐘が鳴る」
そういうと、スタンはがっかりと言う風に肩を落とした。
「昼飯・・・」
「・・・今はこれしかもっていない」
哀れんでしまったのか、僕は非常時の携帯食を渡した。味は素っ気無いが何も食べないよりはましだろう。
「ありがとう!リオン、ところでなんでここにいるの?」
そんな疑問をお前に言われたくないと心の中で突っ込んだが、口にはしなかった。
「本を読みに」
「そっか、でも、驚いたな・・・3日か・・・」
誰でも驚くだろう。スタンは自分でつぶやいて納得したのか、もう此処で寝るのをやめると言い出した。
「それがいいな。降りよう」
自然と二人で降りて、さっきの場所に戻ってきた。すると鐘が鳴った。お昼休みが終わり、教室に戻らなくてはならない。
「戻るか」
一人つぶやいたのが聞こえたのか、スタンは「うん!」と言った。一緒に戻るつもりはなかったのだけれど、断る理由もなかったのでそのまま一緒に降りて行った。
教室に戻ると、皆が驚いた顔をしてこっちを見ていた。いきなり現れたスタンを凝視している。僕はその視線をほって、自分の席に戻った。あとから皆はスタンに駆け寄り何か話している。僕は先生が来るまで読書を始めた。さっきまで意識できなかった読書がさっきとは反対に集中して読めた。
帰り道、僕が一人下校していると後ろから声がかかった。
「リオン、一緒に帰ろう」
「・・・」
何も言わなかったのを肯定と受け取ったのか、スタンは横に並んで歩いた。スタンの手元をみると、軽そうな鞄が提げてある。
「教科書くらい持って帰れ。皆が気づかないはずだ」
「え!?あーなるほど〜。そうだねってもうあそこで寝ないよ!」
「そうだな。いなくなるのはごめんだ」
「え?」
「迷惑かかるだろう」
僕はさっと言い訳を考えて口にした。納得したのか、そうだなーとか笑って答えていて僕はため息をついた。
「なんだよー」
「なんでもない」
その後、何かいろいろ言われたが、無視し続けた。
僕だって認めたくない。だが、そのため息が、僕の心の中にある感情を認めてしまっているのだ。
「・・・今からなにか食べに行くか」
「え!?いいの?」
「おごりじゃないからな」
「わかってるって〜!いこいこー!」
それがきっかけなのかわからないが、その日以降僕達は一緒にいることが多くなった。
この日感じたあの感情は今では感じられない。
今はいつでも眩しいほどの笑顔をあいつが見せてくれるから。
コメント
ついにファンタジーを飛び出して、学園ものですか。汗