14、初戦








 ここはリーネ村のエルロン家。のどかな村に女の子の大きな声が響き渡った。
「お兄ちゃん!早く買い物行って来て!」
「わ、わかったよ。リリス」
 お兄ちゃんと呼ばれた彼の名はスタン。
 このときは知る由もないが、近い将来、彼を中心に壮大な物語が作られていくことになる。今はその物語が始まる前のお話。
 妹リリスに叱られながらも今日の夕食の材料を求めて村を歩くスタン。
「魚屋のおじさん!何かオススメの魚ある?」
「ごめんな〜スタン、昨日天候が荒れてたせいで、いいもんはない!今日は肉料理で我慢してくれ!」
「わかったー!」
 リリスの料理に対するこだわりを知ってる村人は、決して粗末なものをスタンに与えない。なぜならそん日は彼の生死に関わるからだ。
「おばちゃん!お肉なんかオススメない?」
「ごめんねー。ノイッシュタットの運送分で、もってかれていいのはないわ」
「そっか〜」
 自分が買い物に行く日に限ってこういうことが多いと知っているスタンは、すぐに諦めてのイッシュタットに向かっていった。遅くなったりしたらリリスに叱られてしまう。

「のどかだな〜」
 村の外を出て約20分が経過した頃、未だモンスターが現れる気配がない。これなら早く買って帰れそうだと思ったスタンは少しゆっくりと歩いた。

 やっとノイシュタットが見えるという頃、スタンは見かけない集団を目にした。距離が遠くて顔まではわからないが、子供も居るようだった。

(っとそんなことしてる場合じゃない!買い物買い物)
 林を抜けてもう間近だという時、いきなり後ろからナイフが飛んできた。
「ん!?」
 寸前のところでかわしたが、モンスターがナイフ?
「一人でこの林を通ろうなんていい度胸してるじゃないか!」
「俺達の縄張りって知ってんのか〜?」
 どうやら盗賊らしい。スタンは困った顔をして両手を振った。
「いやいや、知らなかったよ!滅多にこの辺りは来ないから」
「もしかしてお前リーネ村のやつか」
「ほほう」
 盗賊は互いに視線を送ってニヤリとほくそ笑んだ。どう考えてもいいカモだ。
「ちょっと相手してもらうぜ!」
 そういうと同時にまたナイフが投げられた。スタンはとっさに剣を抜いたが、遠くから投げてくる盗賊には当たりそうもない。
「いいもん持ってるな!その剣も頂戴するぜ」
「くっ・・・」
 一方的に攻められて守ることしかできないスタンは、このまま街に逃げ込むか、隙をみて攻めるか悩んでいた。
(街に入れば他の人も危ないな・・・やっぱ攻めるか)
 そう思ってスタンが走り出したときだった。

「ぐはっ・・・」
「何?!」

 盗賊の一人がいきなり倒れこんだ。もう一人は目の前で倒れた男を不安げに見る。
「ど、どうしたんだ?お、おい・・・ぐっ・・・はっ!!」
 駆け寄っていったと思ったらもう一人もその場で倒れてしまった。スタンは何が起きているのかわからない。左側のほうでがさがさと物音がしたと思ったら、先ほどの集団の一人であろう子供が現れた。
「大丈夫か?」
「あ、はい!」
 フードを大きく被っており、ローブで体を隠されていて誰だかわからない。
「気をつけろ」
「ありがとうございました!」
 スタンはお礼を言うと、ローブの子供はまた林へ去っていった。
「完全に見えなかった・・・」
 攻撃している姿さえ見えなかったスタンはしばし呆然としていた。



「どこに行っていた」
「散歩です」
「この辺は物騒だから気をつけろ」
「はい」
 男はその子供にそれだけ言うとまた他のものと話をし始めた。子供はうんざりと言う風に違う方を向いて物憂げにひたっていた。
(護衛などめんどくさいな)
「どうして助けたんだろう」
 関係のない者を救うなんて子供にとって柄にもない。なのにふと助けてしまった。
「・・・マリアン」
(マリアンに聞いたらわかるだろうか・・・)


「お兄ちゃんおそーい!!」
「ごめん、リリス。ノイシュタットまで行ってたからさー。それより今日一回しか戦ってないのに、すっごい子供を見たんだ!」
「なによそれ」
「もう見えない速さで盗賊をバッタバッタと・・・」
「ふーん、そんなことより何買ってきたの?」
「まるそうだ」
「・・・はぁ。まぁいいわ。支度手伝って!」
「はーい」
 



「・・・ってことがあったんだ。だからノイシュタットにくると思い出すんだよな〜」
「スタン」
「何?リオン」
「・・・なんでもない」
 まさかそれが自分だなんて言うにいえないリオンであった。







コメント
初戦って一回目ってことなんですね。一生で初めての戦いだと思ってた。