8、田舎者
リオンとの約束を果たすため、スタンは今ダリルシェイドの港に来ていた。久しぶりに来たダリルシェイドの街は相変わらず人だかりで、大きな屋敷や家が建ち並んでいる。スタンは早速ヒューゴ邸に向かうことにした。
「でも・・・どんな顔して会えばいいんだろう」
今まで意識してリオンを見ていなかったが、あの一件以来リオンと最後に交わしたキスが忘れられないでいた。
「まぁ、着いたら考えるか」
一時間後
「迷った」
はぁ・・・とため息をついたスタンは、完全に道に迷っていた。神の眼の奪還任務をこなしているときは忙しく移動していたので、あまり詳しく街を見ていなかったが、珍しいものが街に溢れている。スタンはそれらをキョロキョロと見つけ次第見て回っていた。
「とりあえず、お城にいったらわかるから・・・」
そう言ってとぼとぼと目印になりやすいお城を目指して歩いていった。
しばらくして城につくと、いろんな人から声をかけられた。
「やっぱり仕官しにきたのか!」
「いや、ええっと・・・」
「それともリオン様のように客員剣士になるつもりなのか?」
「いや、俺は〜・・・」
皆仕官しにやってきたのだと勘違いして、スタンを城の中へと入れようとする。スタンは大勢の人の期待を裏切るような感じになってしまう一言がどうしても言えなかった。
「俺は今日は用事があって・・・」
「スタン」
「あ!リオン!」
聞きなれた声を聞いたスタンはそのほうへ振り返った。久しぶりにリオンは相変わらずしかめっ面だ。
「ちょっと、すいません」
周りの人から脱出するとリオンのほうへ駆け寄っていった。周りの人も何だか納得した様子であえてそれ以上追っかけては来なかった。
「何をしていたんだ?」
「いや、士官しにきたんだと勘違いされて・・・」
「ふんっ、屋敷へ行くぞ」
「うん!」
「やっぱ、でかい家だな〜」
「僕の部屋はこっちだ」
ヒューゴ邸に無事着いたスタンは屋敷のでかさに感嘆を漏らした。さすが、オベロン社総帥。
部屋に案内してもらうと、リオンはちょっと待っていろと言って何処かへ行ってしまった。
「さすがに、広いな〜」
部屋を眺めていると、ふとまたあの時のことを思い出してしまった。
「リオンはもうなんとも思ってないのかな・・・」
そんなことを色々考えていると、扉が開く音が聞こえた。
「待たせた。喉が渇いただろう」
そう言ってメイドが飲み物を持ってきた。
(確か名前はマリアンさん)
「リオン様がお客様を連れてくるなんて珍しいですわ」
「マリアン!」
「はいはい、では私は失礼させていただきますね」
「・・・」
マリアンが出て行ったあと、スタンはリオンを続いてみた。ラフな格好になっており、いつもと違った雰囲気が醸し出されている。
「リオンのそういう姿なかなか見れなかったな、そういえば」
「お前が鎧を脱ぎすぎなんだ」
お互いにソファーに対に座ると運ばれた飲み物に口を付けた。
「約束守ったな」
「当たり前だろ!」
「そうか」
リオンは少しだけ照れるとカップを机に置いた。
「最近何をしているんだ?」
「家事かな?リーネじゃ羊を追いかけたりすることくらいしかすることがなくて」
「そんなだと腕も怠けてるんじゃないか?」
「そうだな〜ディムロスも城に返しちゃったし」
「そういえば・・・そうだったな」
二人はそのときの思い出に少し浸っていたが、スタンはまた最後のあの時のことを思い出した。
「・・・」
「ん?どうした?」
考え込み始めたスタンを見て不審に思う。
「いや、えーっと、その、リオンは今でも・・・あー・・・俺の事・・・好きなの?」
自分で言って恥ずかしくなったスタンはなんとなく眼が遠くのほうに泳いでしまう。
「むろん、僕の気持ちは変わっていない」
「そ、そっか」
なんとなく気まずい雰囲気が二人の間を流れていく。スタンは何か言わなくてはとハラハラ考え込んでいると、突然後ろから腕が回ってきた。
「会いたかった・・・」
「リオン・・・」
いつもの大人びた声とは違い、歳相応の寂しげな声が聞こえてきてスタンはなぜか安心した。
「リオン、俺まだよくわからないけどあれからリオンのことばっかり考えてた。最後のアレも・・・素直に嬉しかったし・・・」
「じゃぁもう一度してもいいか・・・?」
「そう言われると〜素直に頷いていいものやら・・・」
「ダメか?」
「・・・ううん」
ゆっくりと後ろを向くとリオンの顔はとても近くにあった。でもそんなに嫌じゃなくて、スタンはゆっくりと瞼を閉じた。
とても軽いキス。まるで触れるのを恐れるかのように。
「スタン」
「うん?」
「これからどうするんだ?」
こうして会えたのにまた離れていくのかと不安がよぎる。
「リリスとじっちゃんには1ヶ月くらいで戻るって言っちゃったからな〜。しばらくはこっちに居ると思う。泊まるところとか、仕事とか見つけないといけないかな」
「じゃあここにいろ。空いてる部屋はたくさんある。仕事は僕の仕事を手伝えばいい」
「それじゃ、迷惑かけっぱなしじゃないか」
「お前なら王も認めてくれる。それに僕の仕事を手伝いに来たと言えば、僕のところにいることだって不思議じゃない」
「まぁ・・・そうだけど・・・」
あまりにも都合が良すぎる提案にスタンはちょっと悪い気がしてならない。
「僕が言うんだ。迷惑じゃない」
「リオンがいいなら・・・」
「よし!決まりだ。今日は疲れてるだろうから明日王に伝えよう。今は部屋を用意させる」
少しテンションの高い声でパッパと準備を進めていく。
「スタン、夕食はまだだろう」
「そういえば、何も食べてなかったな〜」
「じゃあ今から行くぞ」
「ええ?!」
スタンの手を引っ張っていくリオンは何処か嬉しそうで、歳相応の性格に少々苦笑した。
(やっぱり、大人びてるだけでリオンはこれがリオンなんだよな)
任務をこなしていた頃よりも何だかずっと親しみが湧くのをスタンは感じていた。
「スタン、フォークやスプーンは両端から取っていくものだ」
「だってさ〜」
リオンがつれて来た店はダイルシェイドでも一、二を争う高級レストラン。普通では考えられない店に連れてこられて四苦八苦していた。
「これからは都会で暮らすんだ。それくらいマスターするんだな」
「そんな〜」
リオンの家に暮らさしてもらうことが本当に良かったことだったのだろうかと、少し後悔するスタンであった。
1ヵ月後が過ぎたエルロン家の食卓。
「お兄ちゃん、このスプーンとフォークの置き方は何?」
「都会に行ったら常識だぞーリリス。覚えとくんだ!」
「う、うん」
(都会暮らしが染み付いたのかしら?)
スタンの意外な一面を見ることになったそうだ。
コメント
今回も長いですね。そしてお題外の話が多い・・・。