7、ファンダリアにて










 ここはとある宿。
 ファンダリアに行く途中でウッドロウが何やらモンスターから逃げているところを救ったスタンたちは、ウッドロウの話を聞いて今此処にいる。
「と言うわけで、しばらく一緒に行動を共にするウッドロウさんです」
 仲間となったウッドロウを紹介するスタン。ウッドロウはきちんとお辞儀をすると自己紹介を始めた。
「ウッドロウ・ケルヴィンだ。弓の扱いには少し自信があるので皆と共に役立てたい」
(あれがウッドロウ・・・)
 リオンは端正な顔立ちのウッドロウを見た。王らしき気品を漂わせている。
(しかし、スタンが知り合いだとは・・・)
「剣も弓も凄腕じゃないですか!心強い仲間が増えて嬉しいです」
「ありがとう」
 挨拶も終わり、男性陣、女性陣は各部屋へと入っていった。
 リオンはさっそくと言う風にベッドに腰をかけて本を読み始め、和気藹々と言った雰囲気の二人は、過去の思い出を少し語り合っていた。
「明日はいよいよ決戦です」
「スタン君はグレバムを追っているのだね。私は義勇軍と、か・・・」
「お互い頑張りましょう。でもまた会えるなんて思いませんでしたよ」
「そうだな。倒れていた君を運んだ時はどうなるかと思ったが」
(倒れたとき?)
「その節はありがとうございました。お風呂にまで入れてもらって・・・」
(風呂だと?)
「そのうえ、服ももらっちゃって」
(何!!)
「いやいや、古着など渡してしまい迷惑だっただろう」
(お前が着た服をあげたのか!)
「全然迷惑じゃないですよ!ホント助かりました」
「そう言ってくれると素直に嬉しいよ。ありがとう」
「ウッドロウさんがお礼するなんておかしいですよ〜」
「そうか?」
「そうですよ」
 お互いに可笑しくて笑ってしまった二人とは別に、リオンは腹黒いオーラを出していた。読んでいた小説など目にも通していない。1ページも開かれない小説に気づいたのはウッドロウだけだった。

「スタン」

「ん?」
 リオンはいきなり小説を閉じるといきなりこういった。
「散歩に行くぞ」
「え?!」
 あまりにも突拍子もない提案にスタンは驚いた。
「こんな寒い中行くのか?」
「かなり冷え込むと思うが」
 ウッドロウもその提案に心配の声を加える。
「コートを着ていくから大丈夫だ。スタン、行くぞ」
「何で俺も行かなきゃならないんだよ〜!」
 寒さに弱いスタン。わざわざ外に出るなんて気が乗らない。
「僕の傍を離れたらどうなるかわかっているだろう」
「あ」
「行くぞ」
「う〜わかったよ〜・・・」
 前回の失敗を思い出したスタンは渋々リオンに従った。しかし、何故ルーティー達も共に呼ばれないのか、と言うことまで頭は回らなかった。
 ウッドロウはリオンの睨む目を見てさすがに一緒に行くとは言えなかった。
「嫌われたのだろうか・・・」





「リーオーンー!」
「何だ」
 大声で叫ばれて、ハッと声に意識を集中させた。
「さっきから早歩きしてる。寒いんだったら帰ろう」
 どうやら苛々してたせいか、スタンの手を繋いだまま宿屋から結構遠くまで来ていたようだ。
「・・・」
「もう、どうしたんだよリオン」
 先ほどまで早歩きしていたが、急に立ち止まって下を向いて黙っている。
「寒いわけじゃない」
「じゃぁ何なんだよ」
「お前が、僕を狂わせるんだ・・・」
 リオンは小さく呟いた。
「声が小さくて聞こえな・・・」
「僕はお前みたいな、脳天気で、馴れ馴れしい奴は大嫌いだ!!」
「っ・・・!なんだよそれ!」
 一緒に散歩に来てみたら「大嫌い」の一言にスタンもムッとし始めた。
「そんなこと言いに来たのか?」
「お前が悪い」
「・・・リオンが何考えてるか、俺わかんないよ」
「・・・」
「戻る」
 何も話さないリオンを見かねてスタンは背を向けて戻っていった。リオンはその姿も見ずに、ただボーっと佇んでいた。
「お前は鈍すぎなんだ・・・」
 その声は凍った風の中へ消えていった。




「・・・」
「・・・」
「何であの二人がダンマリしてんのよ」
「さぁ・・・」
 次の日、いつもは言い合いをしながらでも何かと声を掛け合っている二人が全く言葉を発しなかった。リオンはいつもどおり、無表情な、しかめっ面のような顔をしているが、スタンはやけに落ち込んでいる。グレバムを倒すという日になってこのあり様は一体なんなのか。
「昨日散歩から帰ってきたときも少し様子がおかしかったようだが・・・」
「散歩?・・・ふーん」
「喧嘩でもしたんでしょうか」
 フィリア、ルーティ、ウッドロウが見守る中、黙々と戦闘を続ける二人はとうとうグレバムの居る時計塔へと到着した。
「きやがったか」
「神の眼を返してもらう」
 リオンがそう言うや否やシャルティエを構えて向かっていった。
「あいつ・・・一人で戦う気?」
「我々も行こう!」
 他のものは彼の素早さに圧倒されたがすぐに向かって行った。
 祖始竜の攻撃も加えグレバムの攻撃をもかわす中、スタン達はいつもよりも苦戦していた。
「僕の前に出るな!」

 カキンッ・・・!!

「出なきゃ戦えないじゃないか!」

 キンッ・・・ズシュ・・・!!

「昌術でも使っていろ」
「リオンがそうすればいいじゃないか!」
 二人同時に攻められるが、グレバムは防御し隙を見て反撃する。
「「・・・」」
 苦戦の原因が明らか過ぎて他のものは呆れていた。
「俺のことそんなに嫌いなのかよ!イラプション!」
 炎と共にグレバムが一瞬怯んで後ろによろめいた。
「・・・」
「傍から離れることは許さないって言ったじゃないか!あれは仲間として認めてくれたんじゃなかったのか?!」」
 その一瞬を見逃さなかったリオンはグレバムの喉元にシャルティエを突き刺した。
「嫌いなわけがない・・・」
「リオンじゃあなんで・・・」
 スタンが最後まで言い終わらぬうちに、リオンは背を向けた。
「さ、神の眼をセインガルドへ運ぶぞ」



 神の眼を奪還したスタン達は、セインガルド王からの祝いの言葉をもらった。スタンはその功績を称えて仕官の望みを叶えてやろうと言われたが、そうはしなかった。旅慣れたスタンが望んだものはもっと別のものだったのだ。
 その後それぞれの別れが待っていた。


「結局リオンがなんであんなこといったのかわからなかったや・・・」
 ルーティと別れの挨拶をし終えたスタンは、リオンに挨拶できなかったことを後悔していた。
「あんた、相当鈍いのね」
「どういうことだよ」
「リオンはちょっと感情を表に出すのが苦手なのよ」
「それはわかってるよ」
「わかってないわよ!ほーら、さっさと屋敷に行って聞いてきなさい!」
 背中を押して急かすようにルーティは言った。
「納得してきなさい。後悔するわよ」
「・・・そうだよな、わかった!ありがとう!」
 そういうと急いでヒューゴ邸へと走っていった。ルーティは呆れた顔をして見送っていたがやがて自分が帰る場所へ向かって行った。
「こんなお人好しだったかしら」
『世話妬くの得意じゃない』
「そうね」



「リオン!!」
「!」
 屋敷へと入っていこうとするリオンを見かけたスタンはとっさに名前を叫んだ。
「なんでこんなところに」
「リオンがあの時なんて言いたかったのか聞きに来たっ!俺、わからないままなんていやだよ」
「スタン・・・」
 リオンは入ろうとした扉を閉めると、庭のほうへ歩いていった。
「・・・今から言うことは聞いたら忘れてくれ」
「リオン?」
「僕は・・・スタン、お前のことが好きだ」
「俺もリオンが好きだよ」
 どうしてその言葉を忘れなければいけないのかスタンにはわからない。
「・・・お前の好きと僕の好きは違う。僕は恋愛感情として好きなんだ。あの日、ウッドロウと楽しそうに話してるお前を見て嫉妬したんだ。誰にでも人懐っこく楽しそうに笑ってるお前を見て・・・」
 リオンは俯いていた顔をあげて、寂しげに笑った。
「だから、忘れてくれ。もう、会わない・・・」
「嫌だ」
「・・・」
「そんな勝手に決めるなよ!・・・正直、俺の好きが恋愛感情かなんてわからない。でも、リオンが嫉妬したって聞いて少し嬉しいって思う自分も・・・いる。だから忘れてくれなんていうな」
 スタンは真っ直ぐリオンを見つめた。
「また、絶対会いに行くから。俺、リーネに戻ってもまた会いに行くから」
「・・・。約束できるか?」」
「もちろん!」
 満面の笑みで応えるスタンを見て肩の力が抜けたのか、変なやつとでもいう風に苦笑した。
「お前が拒まないっていうなら僕は惚れさせるだけだ」
「俺・・・男だけど・・・」
「僕が欲しいのはお前だけだ」
「う・・・///」
 スタンは真っ直ぐな言葉で言われて一瞬ドキっとした。
「それに、嫉妬されて喜ぶくらいだ。可能性はいくらでもある」
 そういう言われるとそうかもしれない・・・と考え込むスタンを見て、また苦笑したリオンは別れの時間が迫ってきたことに気づいた。
「そういえば、待たせているんじゃないのか?」
「あっ!」
「今は帰ることを許してやる。だが、絶対会いに来い」
「ああ」
「約束だ」
 そういうとリオンはスタンにそっと口付けした。
「!!」
「ではまたな」
 屋敷の中に戻っていったリオンに何も言い返せぬままスタンはその場に残された。






「お兄ちゃん!どこいってたの!!!」
「ただいま、リリス。なぁ、やっぱり素直に嬉しいって思うのは恋愛感情なのかな?」
「・・・!!お兄ちゃんがそんなこというなんて!誰のこと言ってるのよーーー!!!」












コメント
無駄に長くてすいません(ノД`)
今回、ソーディアン一回しか出てきてないよ!!