3、ティアラ








「うわぁああああああ!!!!」

 この日、スタンの叫び声がダリルシェイドの街に響いた。

「あっちのほうからじゃない?」
「よし、行こう!」
 ルーティとマリーは急いで声のするほうへと向かっていく。行ってみるとなにやら港のほうで人だかりができていた。
「ちょっとちょっとどいてどいて!」
 ルーティは人だかりを掻き分けて、中心へと進んでいく。人々は彼女の何かに怯えて道をあけてくれた。
「スタン!」
 見ると、スタンが地面に倒れていた。
「大丈夫か!」
 後から追いかけてきたマリーもスタンに声をかけたが、スタンから返事がない。
「・・・ほんと、あんたバカね」


 数時間前


「リオン、アイテムが不足してるみたいなんだ。それに俺の鎧ボロボロだから買いに行くんだけど、何か要るものある?」
 神の眼の奪還に備えるため、スタンはルーティにおつかいを頼まれてしまい、ちょうどそこにリオンが部屋に戻ってきていた。
「別にないが・・・、一人で行くのか?」
「うん、ついでだし」
「僕も行く」
「え?」
 珍しく一緒に来てくれるというリオンにスタンは一瞬驚いた。
「僕も出かけると言っているんだ」
「ありがとう!リオン!」
 素直に嬉しくて笑顔を向けたスタンだったが、リオンは不審そうにスタンを見返した。
「まぁいい、僕はアイテムを買いに行く。お前は防具屋へ行け」
「へ?」
「聞こえなかったのか?防具屋にいくだけでいい」
 一緒に行くとてっきり勘違いしていたスタンは、リオンの言葉に一瞬混乱したが、それでも気を遣ってくれているんだと思って納得した。
「うん、わかった」
「・・・」
「じゃあ行こう!」
 そうしてスタンは港のほうへ向かったのだが・・・。




「スタン!スタン!」
「う・・・ルー・・・ティー」
 スタンが目を覚まして辺りみると、そこは出発地点の宿屋だった。近くにはルーティーとマリーがスタンの顔を覗き込んでいる。
「あれ・・・俺・・・」
「あんた、港で倒れてたのよ!マリーと二人で運んだんだから!」
「あ、ありがとう・・・でも俺、防具買って・・・」
 どうして宿屋で寝込んでいたのかわかっていないのかスタンは頭を抱え込んだ。
「あんたはね、そのティアラの電撃を食らって倒れたの」
「えぇ!?」
 思いがけない答えにますます混乱する。
「私たちが気づかなければ、あのまま倒れたままだったわよ」
 ルーティがため息をついてマリーに同意を求める視線を送ると、マリーは「まぁまぁ」と少し笑った。
「どういう意味・・・」
「まだわからないの!?あんたはリオンから離れすぎたの」
「あ・・・」
「やっとわかったのね・・・」
 ため息をついたルーティにスタンはばつの悪そうな顔をした。実はセインガルドでは道具屋と防具屋は一番端と端なのだ。
「そういえば・・・」
「ったく・・・あいつもそれくらいわかってるでしょうに」
 ブツブツと文句を言い始めたルーティを余所に、その文句の相手が部屋へと戻ってきた。
「・・・何している」
「何って、スタンが倒れたから運んだの。あんたのせい」」
「・・・倒れた?僕のせいだと?」
「リオンのせいじゃないって」
 スタンのフォローは空しく、アイテムをわざわざ買ってきてやったというのに、帰ってきてはいきなり文句をつけるルーティに少し苛立った。
「僕が何をしたっていうんだ!」
「スタンがあんたから一番遠いところにいたから電撃食らって倒れたのよ」
「そんな事・・・」
(・・・ある。確か防具屋は僕のいたところから一番遠い場所だ・・・迂闊だった)
「あるでしょ」
「・・・」
「もーこういうことは勘弁してよね〜、マリー行きましょ」
 逆切れされたにも関わらず、ルーティは「はいはい」といった感じでマリーと一緒に部屋から出て行った。残されたリオンとスタンは沈黙のまま。先に言葉を発したのはスタンだった。
「まぁ、俺が悪かったんだし、倒れたってもこうして無事なんだし」
「・・・」
「リオン?気にするなよ?」
「すまなかった」
「リオン気にしなくていいって!謝ることなんてないよ!」
 このときリオンは、スタンの言葉そっちのけであることを考えていた。下を向いたまま動かないリオンにスタンは的外れな慰めの言葉をかけ続けていたが、いきなりリオンは顔をあげた。
「次から僕の傍を離れることは許さない」
「う、うん」
 気迫に押されて答えたスタンだったが、リオンなりの心配なんだと考えて何も言わなかった。

 これが後にすごい約束になることなど知らずに・・・。






あとがき
ちょっと長い?ここからリオンの実力行使が増え始め・・・。