『キミがその手を離すまで』
とうとう、選択しなければならないときがやってきた。
数日後、セインガルド城では盛大な式典が行われていた。王座の前には騎士が整列し、剣を前に掲げ、ここに来るべきものを称えた。王の隣にいるのはグスタフ・ドライデン最高指揮官だ。そしてそこから扇状に他の七将軍が整列し、今ここに入ってくる者を今かと待ち望んでいた。
「リオン・マグナス、ここへ」
「はっ・・・」
名を呼ばれ、前へと進んだリオンは黒を基調とした金の縁取り、裏地の赤い黒のマントを着ていた。王の前に跪いたリオンは王の言葉を静かに待っている。
「顔をあげよ。この度、17歳にして客員剣士として立派な働きをしたリオン・マグナスに、七将軍の一員となり我が城を支えてもらいたいと思っておる。このトライデンと共に戦い、その任に就くことに異存は無いか?」
「ございません。王のため、そして国民のためにも七将軍の一人としてその任を全う致します」
「ふむ、その言葉、期待しておるぞ」
「お任せください」
そう言って立ち上がり一礼すると、リオンはニコラス・ルウィエンの立っていた七将軍の並びについた。
「これより、我が城自慢の七将軍七名が揃った。皆この者たちを目指し精鋭の騎士になるよう期待しておるぞ!!」
こうしてリオンは七将軍の一人となった。
「おめでとう、リオン!やっぱり俺が王になる前に夢が叶ったな!」
就任式が終わり、一息ついて屋敷へと戻ると珍しくスタンが出迎えた。
「お前、何でここに・・・?」
「午前中は俺は関係なく勉強だからなぁ〜、会うならここが手っ取り早いと思ったんだ」
スタンの傍らでニコニコと笑っているマリアンの様子にため息をつきながら、リオンは家の中に入っていった。
(こうして先に屋敷にいるスタンをみるのはいつぶりだろう)
部屋に戻って着替えた後、応接室にいくとスタンが嬉しそうにこちらを向いた。
「何をそんなにニヤニヤしてるんだ?」
「ニヤニヤなんかしてないよ・・・!強いて言うならやるべきことがもうすぐ終わりそうってことかな?」
「そうか」
リオンは敢えてその中身については聞かなかった。こうして自分から話してくれないのだからきっと教えてはくれないだろう。リオンが席に着くと、スタンは今後のことについて聞いてきた。
「七将軍になったってことは、遠くに行くんだろ?ここにはいつまでいる?」
「まだ決まって無いからなんとも言えないな。ただ先代のルウィエン殿がこの地帯を任されていたな」
それを聞いて少し嬉しくなるスタン。
「そうだったらいいのにな」
笑顔で応えるスタンにリオンは内心ため息が出てしまう。
(僕だってそのほうがいいに決まってる・・・)
「3日後に集まることになっている。それまではここに居るだろう」
「その間にディムロス先生も帰ってくるから皆で街に行こう!」
「・・・楽天的で良いな」
(そう、あのティンバー殿も帰ってくる。スタンを守ってくれるだろう)
スタンとあまり会える時間も少なくなる。リオンは笑顔で今後のことについて考えているスタンとは違ってどこか寂しげだった。もしかすればもう一生会えないことだってあるのだ。今のスタンにそれを伝えることは出来なかった。
次の日、スタンの約束通りリオンはディムロスと共に街へと繰り出した。帰ってきたばかりのディムロスだったが、スタンの言葉には勝てないらしい。船旅での疲れも感じさせないで、スタンの傍で元気な姿をみせていた。
「しばらく見ないうちになんだか生き生きしているな」
スタンが早く早くと駆けていくのを見ながら、ディムロスはリオンに言った。
「それも最近になってからです。僕も理由はわかりません」
この光景が最初の頃を思い出すなとリオンは思いながら、同じようにスタンをみたリオンは苦笑した。結局みんな根本的なところは変わらないのだ。
「君は七将軍になったそうだね」
「はい、僕の夢は王国騎士なんですが・・・どうやらそれ以上に出世してしまったようです」
「頑張りたまえ、色々と忙しいだろうが」
ディムロスの言葉に深い意味があったかどうかはわからないが、リオンは素直に受け取った。心の中で「貴方も」と思いながら。
「そういえば、ウッドロウ氏は?」
その言葉にリオンは一瞬戸惑ったが、すぐに切り替えした。
「・・・国へ帰ったみたいです。見送りも何もなかったので僕はそれ以上わかりませんが」
「そうか・・・」
一週間前、突如として国へ帰ったと王から聞かされた。王はそのことを気に留めるわけでもなく、すぐに話を切り替えた。何か事情を知っているのかもしれないがそれ以上問いただす理由も無い。スタンも昨日の様子ではいなくなったことに機嫌を良くしていたのかと思っていたのだが、最後の仕事やらが残っているらしい。
食事はやはり三人で最初に言った高級レストランだった。案の定と言った感じでリオンは苦笑した。
「何だよ?」
「いや、なんでもない」
(思えばこのときはスタンのことをただのバカ王子としか見てなかったな)
今みたいに悩む感情なんて持ち合わせていなかった。出世するためだけの利用価値のあるものとしか。
リオンは今でも友人になったことを後悔している。しかし、遅かれ早かれ知り合っていたことを考えると仕方が無いのかもしれないと思った。
それからしてリオンは七将軍での会議の結果、フィッツガルド地方を任されることになった。
コメント
これで第一章終わりです。
次回から第二章的な感じになります(適当