『キミがその手を離すまで』
太陽も沈みかけてきた頃、二人はスタンの部屋にいた。王室になど王国騎士ならなければ絶対に入れないのに、スタンはいとも簡単に部屋に通した。部屋の中は豪華なベッドがあるものの、かざりっけの無い居たってシンプルな部屋だ。幸い召使い辺りが置いたであろう一輪の花が唯一の置物だった。
スタンはリオンに色々な所を案内したかったらしく、この後も図書室や医務室、食堂に牢屋の入口など様々な所を案内した。一番リオンが興味を持ったところはやはり図書室で多くの本が置いてあることに驚いた。それに気づいたスタンはいつでも借りに来ていいと言って、リオンのことを事務員に伝えておいた。
一通り巡った後、二人はスタンの部屋に帰ってきたのだった。
「リオン、明日何か予定はある?」
「夕方に街の定期巡回にいかなければならない」
「じゃぁ、それまではないんだなっ?」
やけに確認してくるのを不審に思っていると、ある一つのことが浮かんだ。
「・・・もしかして、僕を泊まらせようとしてるのか?」
「そう!リオン・・・駄目かな?」
必殺無意識上目遣い・・・とはリオンの身長ではならないが、悲しそうに見つめられると戸惑ってしまうリオンがいた。
(断る理由があるにはあるが、言うわけには行かない・・・。ということは断る理由が無いことになるんだな・・・。)
「・・・分かった。ただし、お昼には帰るぞ」
「うん!ありがとう、リオン!」
屈託の無い笑みを見せられて、本当に泊まってもよかったのだろうかという気分に陥ったが、言ってしまったのだからと覚悟を決めた。
「ほんと、リオンが友達になってくれてよかった!」
「〜っ!」
その笑顔に覚悟は今にも崩れそうだった。
王子の部屋にリオンが泊まる。そのことをメイドに告げたとたん、驚きを隠せなかった様子で、戸惑う召使いたちの姿が見受けられた。スタンがいった手前承諾したが、貴族でもない者がこの王室に泊まるなど前代未聞だったからだ。
召使いのざわめきはすぐに城中に広がり、もちろん王やウッドロウにもそのことは伝わってきた。王はこれ以上の混乱が無いように、友人として彼を王が認めていることを伝えさせて混乱を抑えることにした。一方ウッドロウはあまり良い顔はしなかったが、別段何をするでもなくおとなしくしていた。
「嫌いなものある?」
泊まることを伝えて戻ってきたスタン。
「ない」
(夕食のことか・・・)
ふと、部屋に掛けられてある時計を見る。辺りはすでに真っ暗だった。外の灯りが微かに見えている。次にスタンをみると、何やら廊下からごそごそと箱を持ってきた。
「それはなんだ?」
「リオンの服に決まってるじゃないか!着替えないと困るだろ?」
(そういえば今日は稽古もしたんだな・・・しかし・・・)
「遠慮はするなよー!俺のわがままで泊まってくれてるんだから!」
友人を泊めることがよほど嬉しかったのだろう。次から次へと箱を持ち出してきて、「さぁ、10着の中から選んで!」と大きく輝いた瞳で選ぶ様子を見つめられたりもした。その中の一着を選ぶと、「やっぱりー!」という声が聞こえてくる。
「なら変えるか?」
「俺もそれが一番似合うって思ったからリオンはそれがいい!」
他の服に変えられないように、箱をせっせとしまうスタン。そんな姿をみて可愛いやら、呆れてしまうやら複雑な気分で見ていた。
結局、あの後また風呂に入り、さきほど選んだ服に着替えて夕食を摂った。昼食同様フルコース三昧だ。王にも気に入られ言うこと無しの一日だったが、その反面、リオンの心の中の思いは違う方向へと進んでいるのであった。
「スタン・・・」
「ん?」
シルクのパジャマに身を包んだスタンが横で見つめてくる。
「・・・他のベッドは用意できなかったのか」
「広いからいいかなーと思ったんだけど」
現在、就寝についた二人はスタンのキングベッドで寝ていた。もちろん二人で寝ても広い。しかし、そういう問題ではないと心の中で叫んでいるリオンがいた。
「他の部屋だと喋れないじゃないか」
「・・・」
沈黙を肯定ととったのかはわからないが、スタンはもうこの話をすることは無かった。それに代わって一回目の風呂での話を話し出す。
「もし俺が王になったらリオンはどの職に尽きたい?リオンの望みどおりにするよ!」
スタンは次期に王になることを考えているのか、とても楽しげだった。
「僕は王国騎士になれればいい。トップに立ちたいとかは思ってない」
「それなら俺が王になる前に叶いそうだなー」
「そんなうまくはいかない」
「俺はなれると思うよ!」
スタンの言葉はお世辞でもなんでもなく、ただ本当にそう思っての言葉だった。そんなスタンを見て、こんな奴が王に本当になれるのかと苦笑しながらも、そのままのスタンであってほしいとも考えていた。
「今のスタンが守れたらそれでいい・・・」
「へ?」
「・・・なんでもない。そろそろ寝るぞ」
「え、うん」
最後の言葉を気にしつつもスタンは素直にベッド上の灯りを消した。そして辺りが寝静まった頃、リオンは寝られないでいた。覚悟していたことではあるが、平静を保てと言うのは限界があった。
「スタン・・・」
瞼を閉じて寝息を立てているスタンの顔をみつめる。こうしてみるとどんなに綺麗な顔をしているのかと考えただけでため息が出た。何も知らないで友人だと慕ってくれるスタンになんていえばいいのだと。
そっと右手がスタンの頬に触れる。それに反応してか、顔が少し上を向いてまるで誘っているかのような表情だった。
(僕がおかしいだけじゃない。こいつはどこか無意識に人を誘うことを知ってるのかもしれない)
するりと頬から顎に手をもっていく。そしてそっと、口付けた。
(お前の友人にいつまでなれるのだろう・・・)
いつか醜い牙を向けてしまいそうで、リオンは友人になったことを悔いた。
今、キスされた。
少し経ってから、うっすらと目を開けるともうすでにリオンは背を向けていた。俺ももう一度目を閉じて寝返りをするかのようにリオンに背を向けた。
(リオンに俺、キスされた。驚いた。寝たふりをして驚かそうと思ったのに、反対に驚かされた。驚かされた?リオンは俺を驚かそうと思ってしたんだろうか?本当に寝てるんだと思って今は只寝ているだけなんだろうか?それともあれはおやすみのキス?まだ心臓がドキドキしてる。いきなりあんなことするから、驚きっぱなしだ)
ふと、さっきのキスの感触が浮かんだ。
(ゆっくりと優しく触れる感触だった・・・。ってまたドキドキいってる!変!)
そっと指で唇をなぞる。
(でも、嫌じゃなかった・・・変だ・・・)
その夜、二人ともあまり眠れぬ夜を過ごした。
お昼近くになり、スタンはゆっくりと目を覚ました。目の前にはベッドの天井が見える。気づいて隣をみるとリオンの姿はそこにはなかった。
(帰ったのか・・・)
そんなことを考えていると、昨日の出来事がうっすらと蘇ってきた。
(そういえば、昨日・・・)
だんだん顔が赤くなっていくのが分かって、冷ますように頭を横に振った。
「風呂に入ろう!うん!」
大きな声で宣言して心を落ち着かせると、ベッドを出て部屋の扉を開ける。
「あ」
そこには帰ったと思ったリオンの姿があった。昨日のことなど素知らぬ顔でリオンは「顔を洗っていた」なんていいながら部屋に入る。スタンは顔をみたとたん、何だか緊張してまともに話せないでいた。
「あーそう・・・」
「お前は風呂に入るのか?なら帰る」
「あ、うん。そうだな・・・」
「ではな」
そんな挨拶を交わして部屋を出て行った。ボーっとしながら風呂へ行くと、いつもの通り召使いが立ち並んでいた。
「今日はゆっくりしていますね。体調でも悪かったのですか?」
「そういうんじゃないんだ。あまり眠れなくて・・・」
「ご友人が泊まられましたからね。はしゃぐ気持ちもわかりますが、気をつけてくださいね」
「うん・・・」
曖昧な返事を返して風呂に入った。スタンにとってはここは只広いだけの風呂であり、誰かと一緒に入ることが楽しいと思ったのはリオンが初めてだった。幼い頃一回だけ元の自分の屋敷で入ったとき以来だろう。この城に来た幼少期の思い出はあまりにも辛すぎたためかもしれない。
「父上もどうしてあんな人を俺の教育係にしたがるんだ・・・」
歳が離れているといっても5,6歳だ。学生の身分だった彼に勉学を教わる必要なんてなかったような気もしてきた。
まとめてある髪が濡れないように顔を洗うと湯船に浸かった。温かさが身体全体を通して伝わってくる。すこしだけ落ち着いた。
(昨日のキスはどういうことだったんだ・・・)
また唇に触れる。考えないようにすることは今のスタンには到底出来なかった。
その後、剣の稽古で何回かあったが今までと同じようにお互いに何もなかったように接していた。どことなくぎこちないさを感じたスタンだが、リオンは気づいていない。次は尋ねようとして会いに行くけれども、実際会ってしまうと言い出せないのが現状だった。
「スタンくん?」
(この状況・・・何とかしないと・・・)
「スタン君?聞いてるのかい?」
(でもどうすれば・・・)
「仕方が無い子だね・・・」
(リオンにとってどうでもいいことかもしれないし・・・。・・・ん?)
「先生の言うこと聞けないなら、お仕置きだよ?スタン君」
痺れを切らしたウッドロウが後ろに回ってしゃがむと耳に息を吹きかけた。
「〜っ!!」
やっと反応を見せたスタンに満足したのか、ウッドロウは笑顔で笑う。
「はははは、何を考えていたのか知らないけど、勉強の時間くらい授業に集中してほしいものだ。じゃないと、お仕置きだよ」
冗談なのか本気なのかわからない笑顔でそう言った。スタンはハッと今の時間を思い出し、少し焦った。
「す、すみません!」
「・・・」
「どうしたんですか?」
「いや、初めて謝ってくれたなーと。君の名台詞は「貴方が悪いんだっ!」だからね」
苦笑しているウッドロウを見ながら、自分のしたことが何だか恥ずかしくなって眉を寄せた。間違ってはいないのだが、言ってしまったことに少し後悔。
「俺だって謝る・・・」
「そうだね。ごめん」
「謝らないでください・・・」
「悪かった」
「・・・」
気まずい雰囲気が流れ二人とも沈黙する。スタンはふと自分とウッドロウの位置関係に気づいた。左肩辺りにウッドロウの気配を感じる。
「ウッドロウさん、もう前に戻ってください」
「お仕置きだからね。もう少しこのまま」
そう言って後ろからスタンを抱きしめた。
「ちょっと、あのっ!」
「ごめんね。今だけでいいんだ」
「・・・うぅ・・・」
何だかしおらしいウッドロウにスタンはどうしていいかわからなかった。
(そういうこと言われるとなぁ・・・)
昔だったら四の五の言わせずに強引に抱きしめて、満足したら離したり、キスしたり、押し倒されたりしていたからだ。
「・・・貴方は卑怯だ」
「そうかもしれないねぇ」
「・・・」
しばらくすると腕が離れた。ウッドロウのほうをみるといつもの笑顔に戻っていて、正面の椅子に座った。その日スタンは何処と無く複雑な思いでウッドロウをみていた。
昼過ぎ。今日はリオンの来る日だった。剣技のほうは少しずつ向上しており、秋沙雨も最初の頃よりは大分速く動かせるようになっている。技を編み出そうとするが、こちらはなかなか上手くいかなかった。元々スタンは出来る技が少ないことも関係しているのだろう。
「リオーン!」
(今日は絶対あのことをきいてやる!)
「スタン、調子はどうだ?」
「えっと、まぁまぁかな・・・」
最近リオンは笑うことが多くなった。大笑いとかするわけじゃないけれど、挨拶のとき少しだけ微笑んでいるような感じだった。
(クールじゃなくなる時も最近無し。うーん、落ち着いた?)
「リオン、今日は一緒に街にいかないか?」
「・・・何故?」
「最近全然様子が分からないからさ。俺久しぶりに行ってみたい」
そういうとリオンは苦笑したのち、仕方ないなと行って一緒に街に出かけることになった。一応王に許可をもらったスタンは剣を所持したまま街に向かった。
「久しぶりだねー」
「そうだな」
リオンの家にも行くことがなくなったスタン。季節は秋にさしかかろうとしていた。街の様子も少し変わっていた。置いてあるものもそうだが、人々が着ている服も長めのものがちらほらみえる。
「パンプキンパイ売ってるー!あ!あそこに新しく造られた剣って書いてある!!」
「おい、どっちかにしろ」
「じゃあ、食べてから武器屋行く!」
「はぁ・・・」
呆れながらもスタンに付いて行く。落ち着いた店内の一席に座ると、改めて全体を見渡した。明らかに女性だらけだ。
(浮いている・・・)
次にスタンをみると、メニューを見ながら幸せそうな顔をしていた。それを見ていると浮いていることなど些細なことだと思えてしまって、リオンも同じようにメニューを広げた。
(プリンあるな)
それだけ確認するとすぐに戻した。スタンはパンプキンパイ以外にも食べたいものがあるらしく、表情をコロコロ変えながらメニューを見ていた。
「お前は全然変わらないな」
「それってどういう意味だよ!」
「褒め言葉として言っている。安心しろ」
複雑な顔をむけるとやってきた店員にパッと表情を変えた。嬉しそうに注文すると、僕もついでに注文した。店員が去っていくと、また複雑そうな表情に戻る。
「リオンは変わったよ。なんか落ち着いてる」
「落ち着いている?」
「前は時々クールじゃないリオンとかみたけど、最近は落ち着いてる気がする」
あまり動じなくなった?など呟いているスタン。その傍で簡単に原因を見つけてしまったリオンが困った顔をした。
(この気持ちに気づいたからな)
スタンの友達で居つづけるということを決心したリオン。自分の気持ちに気づかれまいと平静を装った結果だった。
「僕は成長しているからな」
「俺だって成長してる!」
「マシになった程度だな」
そう言って苦笑した。
「あ、言い忘れてた。落ち着いた代わりに笑顔見せてくれるようになったんだ!」
リオンは気づいてなかったみたいにスタンを凝視した。久々のクールさ台無しといったところだろうか。スタンはその顔に懐かしいリオンを見て可笑しくなった。
注文品が届くと、さっきの会話もなかったように、パイやケーキに集中した。食べている時はあまりしゃべらないのも変わらない。食べ終わったとたんに、堰を切ったかのように話し出すのがスタンだった。
しかし今日は何故かそれはなく、反対に視線だけが向けられる。無言ではないが、どこか白々しいような片言のような会話が続いた。
(何だ・・・?)
武器屋へよるとまた自然な会話に戻った。『新作』と書かれた武器を片手にお金と相談して、その日は一本の剣を購入して帰った。
城に戻った二人は、スタンの持つ武器庫へ向かうと、その一本の剣を空いている枠にかけた。
「なかなか揃えているな」
「うん、使えないのもあるんだけどな」
そんなに大きくは無い部屋に綺麗に並べられていた。20本くらいだが、街にしかでないスタンが集めたにしてはかなり揃っている。「剣オタク」と妹に罵られたこともあるが、どうしてもやめられない趣味でもあった。
「世界中の剣を集めてみたいな」
「魔剣とか言うものもあるらしいからな。なかなか難しいだろう」
それを聞いて目を輝かせるスタン。
「冒険してみたいなー」
「お前は野宿なんて出来ないんじゃないか?」
「できる!」
そんな会話をして部屋を出た。窓の外をみると前よりも早く日は落ちていた。リオンはそろそろ帰ろうかと思っていると、スタンがそれを有無を言わせないほどの目を向けた。
「リオン、泊まって行くよな」
「な、いや、僕は・・・」
「明日用事無いのは父上に聞いて分かってるし」
「う・・・」
「決定!」
リオンの意思は尊重されること無く、スタンは召使いに夕食の準備を伝えに行った。その時点でリオンは諦めたのか、ため息をついてされるがままになっていたのであった。
(僕に用事でもあるのか、スタンは・・・)
少し不審に思ったリオンだが、夕食時や風呂のときに何か変わったことを言われたわけでもなかった。一人になりたくない日なのだろうと、結論付けて目の前にある問題に意識を集中した。
(冷静、冷静、冷静・・・)
「なぁ、リオン?」
「ん?」
そろそろ就寝の時間だという頃、ベッドに座っているスタンが声を掛けた。それまではなんとなく自分達の好きなことをしており、リオンは横になりながら図書館で借りた本を読んでいた。
「・・・」
「どうした?」
何だか言い出しにくそうにしている様子を見て本を閉じる。
「あのさ、前に泊まりに来た日のことなんだけどさー・・・」
「・・・?」
「その、えっと、リオンがさ・・・」
「はっきり言え、はっきり」
まどろっこしくもじもじしているスタンを変に思ってリオンはそう言った。その言葉を聞いて決心したのか否か、スタンは睨むようにリオンの目を見つめた。
(なんだ?!)
「じゃあはっきり言う!リオンが寝る前に俺にしたキスはどういう意味だったんだ?」
(こいつ、起きていたのか!)
「な、何のことだ・・・」
そういいながら視線を反らすが、かえってスタンに不審に思われるだけだった。
「俺、起きてたんだ。感触だって覚えてる」
「・・・」
そんな恥ずかしいことまで言わないでくれ、と思いながら、自分の失態に落ち込んだ。
「それは・・・」
「おやすみのキス?それとも俺のこと・・・」
(気づかれて嫌われるくらいなら前者だ!)
からかったの?と続けようとしたスタンより、リオンが先に割って入った。
「そ、それだ。おやすみのキスだった!」
「そんな大声で言わなくても・・・」
「・・・すまない」
「とりあえず、そういうことなんだな?なーんだ。そういう習慣だったら俺もあった。母上がよくしてくれた。今はあまり会わないけど」
「そうか」
勤めて前面的には冷静を装ったが、内心は心臓の音が鳴り響いていた。
「てっきり、からかってしたのかと思った」
解決したのか、布団にもぐりこむスタンを見てぽかーんとした表情のまま動かないリオンがいた。
(もしかして後者はからかったと言いたかったのか・・・)
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。寝るか・・・」
「そうだね」
恐る恐る布団の中に入るリオン。出来るだけ距離をあけるかのように端のほうに身体を寄せた。
「落ちるよ?」
「大丈夫だ」
「ふーん」
しばらく本を読み続けていると、スタンが眠たそうな目でリオンのほうへ身体を向けた。リオンは一瞬見ただけで本へと視線を戻す。
「リオ〜ン・・・」
スタンを見ると「おやすみ」と言って欲しいのかと思い、そう告げた。
「寝るのか?おやすみ」
そう言って本に視線を戻す。内心愛しいと思いつつも、あまり見ないようにしていた。横でスタンが動いていた。寝たのかと思って本に集中し始めたが、何やら真横に気配を感じる。
(なんだ?)
そう思っていると、頬に何かがあたった。柔らかい感触。
「おやすみぃ〜・・・」
「っ!・・・ったく」
振り向くと目を閉じて寝息を立てて寝ているスタンが見えた。何も知らない顔で夢見心地でいるようだ。
(僕のことを少しくらい分かってくれてもいいと思わないか?)
そんな問いかけをしながら本を閉じた。リオンももう寝ようと思い、スタンドライトを消す。月明かりがほんのり部屋を差して辺りを照らしていること気がついた。
(僕も寝るか・・・)
きちんと肩まで布団をかけるとスタンのほうを向き、ゆっくりと近づくと「おやすみのキス」をした。
「おやすみ、スタン・・・」
そして眠りについた。
次の日、早く目覚めたのはスタンのほうだった。日がまだ薄暗くしか出ていない。
「珍しいなぁ・・・」
小さく呟くと、隣で寝ているリオンをみた。透き通る白い肌に長い睫、黒い近い紫の髪が頬にかかって綺麗だった。
(リオンって美人サンだよなー・・・。カッコイイし、頭いいし文句なしだもんな)
ふと、昨日自分がしたことを思い出した。おやすみのキスなんて幼い頃にしていただけだったのに。
(俺、してくれること待ってた。なのにおやすみって言われただけだったから・・・)
今更自分のしたことが恥ずかしくなった。
(昨日はリオンからしたのかな・・・?)
寝てしまった自分を恨めしく思いながらも、そんなことを思っている自分をスタンは変に感じた。
(なんか俺、おかしくないか?キスを待っていた?してほしかった?恨めしい?それってまるで・・・リオンのこと・・・)
「好き・・・だ」
「!!」
ビクッと肩を震わせた。自分が口に出して言ったかと思ったスタンだったが、それはリオンのほうから聞こえたものらしい。
(好き?誰のこと?俺?ってそんなわけ無いよな・・・。でも誰?)
スタンの頭の中はそれでいっぱいになっていた。リオンの呟く一言に不安を感じ始めていた。
(俺って・・・好きなんだ。リオンのことっ)
みるみる内に顔が熱くなっていくのを感じた。心臓の音もうるさく感じる。
「ン・・・」
リオンが真上を向いた。起きたのかと思ってまたドキドキするとどうやら違ったようだ。
(驚かさないでよ)
小さくため息をついて、またリオンを見た。自然と顔をまじまじとみるような姿勢になっている。
「誰が、好きなんだ・・・」
その声に反応したのか、リオンの瞼がうっすらと開いた。スタンは驚いて離れようとするとぎゅっと襟元を掴まれた。
(うわぁ!)
上半身に覆いかぶさるような格好のまま固まるスタン。
(いやいやいや、俺どうすればいいんだ!)
そうしてる間に、また襟元を掴まれた。
「・・・愛してる。傍にいてくれ・・・」
(殺し文句だっ・・・)
バッとなんとか離れると胸に手を当てて深呼吸した。さすがに離れるときの振動が響いたらしく、リオンの目が覚めた。
「・・・珍しいな。お前が早く起きるのは」
「おー、おはよう〜」
「声が上ずってるぞ?風邪か?」
むくっと上半身を起こしたリオンは、「顔を洗ってくる」といって部屋を出て行った。どうやら顔をまず洗うのが習慣らしい。
「はぁーーーーー!!!」
と盛大なため息をついてスタンはとりあえず自分を落ち着かせた。一人残されたスタンは冷静さを取り戻すのに時間はかからなかったが、帰ってきたリオンと今まで通り接することが出来るか正直自信がなかった。
「どうしよう・・・」
一難さってまた一難、スタンが悩まない日はないのかもしれない。
リオンが戻ってきたときのスタンのぎこちなさと言ったら、誰が見てもわかる態度だった。リオンは心当たりが無いわけではないが、自分からボロを出すのはどうしても避けたかった。
(また起きていたのか?)
互いに悩みの種を増やしつつ、この日は二人とも大人しく別れた。
コメント
両思いになるまでが長くなってしまう自分の書き方に・・・orz
年越しはTODでリオンするぞ!