「あっ・・・だめっ・・・あっ、あっ、はぁん・・・」
満月の夜。月の光に照らされた部屋の一室で、艶かしい声が響き渡る。その少年の声はこのひと時が早く終わればいいとせつに願う叫びだった。
「あなたがいけないのだ。私の言うことを聞けないから・・・」
男はそう言って少年の声に酔っていた。そして誰よりも少年を狂気の愛で満たしていた。運命が変わるそのときまで。
『キミがその手を離すまで』
ここアタモニ教を国教とするセインガルド王国はダリルシェイドの城下町を眺めた王都の中心にある。王国騎士、七将軍によって守られた城の中に一人の青年がいた。その名はスタン・セインガルド。彼は子の無い国王の養子として幼い頃にここセインガルドに暮らしていた。
「スタン王子!また勉強をサボってこんなところに!」
天井まで届く本棚が並ぶ場内図書館の個人ルームに寝転んでいたスタンの前に教育係であるクレメンテ老が現れた。もちろん怒りの形相である。太陽の下で輝く金色の髪に澄んだ青いの瞳、誰もがうらやむような白い肌は見るものを離さない容姿とは裏腹に、王子は普通の子であった。
「うわぁ、見つかった!」
彼の日課は勉学をサボることと剣術を会得することに尽きる。勉強の時間が迫るといつも何処かへ隠れており、教育係を困らせる一方だった。
「はぁ、剣術の先生はうらやましいですな。あの時だけは逃げも隠れもしないのですから」
「だって俺、勉強苦手だから・・・」
ため息混じりに話していた教育係はその一言でキッとスタンを睨むと首根っこを掴んで部屋へと連れ戻した。
「いいですか、これから王になろうとなさるお方が世界の情勢について知っていなければこの国は滅んでしまうのですぞ!」
「それは何回も聞いたよ〜」
「わかってらっしゃらないからですぞ!」
スタンを机の前に座らせて教科書を開いて置く。スタンはため息をつきながらも教科書を覗き込んだ。
「養子とはいえあなたは国王の息子なのです」
「・・・なりたくてなったわけじゃないよ」
「王子!!」
「ごめんなさい」
クレメンテ老のあまりの顔の表情にスタンは素直に謝った。
(でもどうして俺だったんだろう。俺は王になんてなりたくないのに・・・)
引き取られた理由とかは知らない。ただ次期王だといわれ続けて育ったためそのプレッシャーに嫌気がさしているのは事実だ。彼の夢は剣士になることであり、前線で戦いたいという気持ちだけが心の中をぐるぐるとまわっているのであった。
(しっかし、父上がそんなことさせてくれないしな〜)
一人息子であるスタンを失うことを恐れているのか、彼を一回も街の外へと出したことは無い。夢を叶えたいとはいえ、外に出て行きたいと言ってセインガルドを困らせるようなことはしたくなかった。
「なんかいい方法ないかな・・・あ、おはようございます」
拷問のような勉強を終えて、一人廊下をあるくスタン。白を基調にした廊下敷かれたレッドカーペットはよく映えていた。カーテンも朱色で統一しており、そのため場内に駐屯する騎士の鎧は白い。彼は出会う王国騎士に毎回挨拶をしていくので騎士の間では「良き王子」で通っている。
「スタン、悩みながら歩いてはどこかにぶつかるぞ」
「ん?」
ふと、後ろから呼ばれた気がしたスタンは足を止めた。振り返ってみるとそこにはディムロス・ティンバーの姿があった。青くて癖のある髪が特徴的で、今は鎧など着けず、蒼を基調とした礼服を着ている。縁取りは金色で統一してあり、高貴な身分であることが容易にわかる。
「あ、先生!いつここに?」
すぐに駆け寄るとさっきの悩みなど何処かへ行ってしまったかのように目を輝かせた。その姿に一瞬固まるディムロスだが、平静を装ってスタンに話しかけた。
「ついさっきだ。それよりスタン悩み事か?」
「いつものやつです・・・。叶えられない望みこそ思いは強くなる一方って感じで」
哀愁を漂わせてため息をつく姿にディムロスはまたも固まってしまった。
「ん?先生、顔赤いけど大丈夫ですか?」
「・・・気にするな。そういえば今日もクレメンテ老を困らせたようだな」
「うぇ、知ってるんですか!」
先ほどの拷問時間を思い出して嫌な顔になるスタンをみてディムロスは笑った。
「駄目だぞ、剣術も大事だが賢くなくてはな。将来スカタン王と呼ばれることになるぞ」
「スカタンってどっからそんな言葉を・・・ってそんなことより稽古つけてくれるんですか?」
ディムロスが城内にいるということは楽しみの時間が出来るということでもある。
「そうだな。なんなら今からつけてやらんこともない。ただし、これからは勉学もちゃんと励むように!」
「わかりました。だから、ね?」
せがむ様に頼まれてしまうと断ることなどできないディムロスはさっそく稽古場へと一緒に向かうことになった。本来騎士や兵士が使用する場所なのだが、スタンは皆と同じ場所で稽古をつけてもらっている。目的は他の兵士の技量を知ることや己への刺激になるためである。こと剣術のことになるとスタンは頭が働いた。
「今日も皆やってるな〜」
「七将軍もいるみたいだな。珍しい」
七将軍の一人アスクス・エリオットが兵士に稽古をつけているようだった。多忙な七将軍がここを訪れることは滅多に無いことだ。
城内の庭の3分の一を占めているこの稽古場は王国騎士を目指す兵士がこぞって練習に来ている。戦争や事件のないときは城に駐屯しているため、腕が鈍らないようにこのような場所が出来た。天候に関わらず使用できる場所と外での練習が出来るように半々で作られている。
「スタン王子、ティンバー殿、今日も稽古ですか?」
二人に気づいたアスクスは指導を止めて駆け寄ってきた。
「はい!この時間だけが楽しみですから!」
「そうですか、日々鍛錬されるのはいいことですよ。今日もスタン王子のご指導のほどしっかり見ています。ティンバー殿」
邪気のない言葉だったのだが、ディムロスは少し嫌味で返してみた。
「そう言われるとプレッシャーだな。そもそも何故私なんかが王子の師匠なのかと」
「何をおっしゃいますか。あのフィンレイ氏を凌ぐ強さを持つと噂はかねがね聞いております。一度お手合わせ願いたいものです」
「あ、今日は駄目だよ!俺の指導してもらうんだから!」
蚊帳の外にされていたことが寂しかったのか、少し拗ねたスタンが割って入った。その様子に二人とも笑ってしまい、ますますスタンを拗ねさした。
「どうせ、俺なんか子供ですよ。さ、稽古しにいきましょう!」
「というわけだ。手合わせは後日ということで」
「そうですね。では私は戻ります」
アスクスを見届けた後、二人は少し離れた稽古場へと足を運んだ。人形での練習は終えており、今はディムロスとの実技がほとんどである。
「この辺りでいいか。よし、スタン。今日は今まで教えた技を使って私に一本取ってみせろ」
「今までって魔人剣も飛燕連脚も虎牙破斬もつかっていいんですか?」
「そうだ。まぁ私に一本とるなど、出来るかどうか・・・」
「取ります!そうだ、取れたら俺のお願い一つ聞いてくれませんか?」
上目遣いで聞いてくるところは天然なのだが、ディムロスはまた固まってしまった。
(その顔は反則だ・・・)
「・・・わかった。一つだけだ。しかし取れたらだぞ」
「分かってます」
「では、来いっ!!!」
「稽古中申し訳ありません!!」
稽古を開始しようしてた矢先、突如騎士の一人が二人の傍に駆け寄った。
「どうしたの?」
「先ほど、クレメンテ様がお倒れになったようです!只今医務室にて意識不明ということで・・・」
その言葉にスタンの右手から剣が地面に落ちた。
「わ、分かった・・・。すぐ行くよ・・・。先生ごめんなさい」
「謝らんでいい。ここは行くべきだ。私も行こう」
そう言ってすぐに医務室に向かうことになった。医務室は稽古場から近く時間もそうかからない場所にある。
「失礼します!」
医務室に入ったとたんクレメンテ老を発見して駆け寄った。クレメンテ老はベッドで眠っているようだった。ベッドの脇にはアトワイト・エックス医師が俯いて立っていて、二人は事の深刻さに気づいた。
「クレメンテ老は・・・」
「今はなんとも言えないわ。だけど、あまりいい状態ではないわね」
アトワイトはクレメンテ老の専属医師でもある。そのため彼女の言葉はとても重かった。
「そんな・・・俺を探させたりしたからかな・・・。俺が悪かったのかな・・・」
「スタン・・・」
スタンはクレメンテ老の手を握り不安を募らせていた。静かな医務室がそれを余計に考えさせる。
「いいえ、そんなことはないわ。クレメンテ老はいつもかくれんぼの上手い貴方を見つけること楽しそうに話していたもの。眠っているだけ。気を落とさないで」
アトワイトは優しく話しかける。スタンは「うん・・・」と返事を返したが、不安でいっぱいだった。ディムロスは話しかける言葉が見つからないままアトワイトと医務室を出た。スタンは起きるまで付き添っていると言う。
「本当はどうなのだ?」
医務室を出てしばらくするとディムロスは口を開いた。白を基調とした城の壁が今は薄暗く感じられる。
「目覚めてももう歩けないかもしれないわ。今後どうなるかは私には分からないけど」
「報告するのか?」
「そうね。辛いけど・・・」
「そうだな」
この城に来たとき、二人ともクレメンテ老にかなり世話を焼いてもらった。その時はクレメンテ老も教育係ではなく、セインガルド近衛騎士団大佐であり、彼の引退後、フィンレイが七将軍という組織を考えて今に至っている。
「では行くわ」
「ああ」
アトワイトは謁見の間へ、ディムロスは医務室に戻るため別れた。
それから三日後、付きっ切りで看病していたスタンとアトワイトの願いも届かず、クレメンテ老は天へと召されていった。その顔は安らかであり、そのことでも皆の心を救った。葬儀は盛大に行われ、遠出していた七将軍や兵士、王自らもこの葬儀に立ち会った。クレメンテ老への信頼は厚く、流される花束の量がそれを物語っているように思えた。
スタンは葬儀の日、自室にこもって出てこなかったが、翌日にはいつもの笑顔で廊下を歩いていた。その姿に誰も不満を募らせず、反対に心配する日々がしばらく続いたのであった。
「クレメンテ老が無くなってから2週間か、未だに信じられないな」
医務室の椅子に寄りかかって座るディムロス。
「そうね。でもスタン王子を見てると思い出すわ」
「無理して倒れられたらこちらが困るのだがな」
はぁ・・・とため息をついたアトワイトはハッと何かに気づいた。
「ちょっと!しみじみ感傷に浸ってるから気づかなかったけれど、ここは溜まり場ではないのよ!怪我してないんだったらさっさと出て行ってください」
「そう言うな、私だってスタンの傍にいてやりたいが、何を話しかけてよいものか・・・」
「知りません!さ、出てってください」
無理やり背を押されて追い出されると、ぴしゃりと閉められた。スタンの傍にいてもいいんだが、邪な心が何か突拍子もないことを言いそうで近寄れないでいた。
「しかし、ここでこうしてるのもな・・・」
そう言って彼はスタンの元へ歩いていった。
「スタン」
「はい父上」
その頃スタンは謁見の間に呼び出されていた。
「先日のことはわしも大層心を痛めておる。クレメンテには随分世話になったからの・・・」
「・・・」
「しかし、このまま教育係をつけないのもお前のためにならん。心複雑であろうが、新しい教育係を呼んでおいた」
「はい、誰でしょうか?」
聞き分けのよい息子を見て王は少々心配になったが、言葉を続けた。
「お前も知っている者だ」
その言葉に一瞬スタンは動きを止めた。
「も、もしかして・・・」
「そうじゃ、ウッドロウ・ケルヴィンだ。修行の道を終えられたようでな」
思考が停止した。その名をもう聞くことはないと思っていたスタンにとって、嫌な思い出が蘇る。
「そ、そうですか」
「なんじゃ?」
「いえ、なんでもありません。わかりました。いつから来られるのでしょう?」
スタンの声が少し震えていたが、王は気がつかなかった。
「明日の夜には到着すると聞いておる。まぁ勉学は少し経ってからでもよいぞ」
「はい、ありがとうございます。それでは俺は部屋に戻ります」
「うむ。わかった」
そっと謁見の間から出ると、スタンは逃げるように部屋へと戻った。
ウッドロウ・ケルヴィン。クレメンテ老が教育係をする前にその職に就いていた男で、弓術の修行に出るといって城を離れたのであった。
「あの男が、帰ってくる・・・」
スタンはギュッと身を寄せるとベッドにうずくまった。
「はっはっは、まさかあの天才剣士リオンに護衛してもらえるとは」
「王の命令だ」
爽やかに笑った銀髪の男とは裏腹に、黒い髪の少年は不機嫌そうに船の甲板に立っていた。
「もうすぐつく頃だね」
「そうだな、ウッドロウ殿、身支度を整えて置いたほうがいいぞ」
「そうするよ」
爽やかに去っていったウッドロウを尻目に、リオンは口を手で押さえた。
(気分悪い・・・)
人前では我慢していたものの、さすがに我慢の限界に近づいていた。
(早く、着いてくれ)
「いやぁ、懐かしい香りがするね」
港に到着したウッドロウは爽やかに深呼吸した。雪国であるファンダリアに赴いていたため、肌は浅黒いのでよく目立つ。さっそく城へとは行かず、港の店によっては品物を見物していた。
その後ろで少しふらふらになりながらリオンが付いてくる。
「船酔いかい?気をつけたまえ」
「うるさい・・・」
街をぐるっと歩いてきたため、城に戻る頃には船酔いも収まっていた。これがウッドロウの思惑だとしたら・・・とリオンは一瞬考えたが、道中の見物振りを見ているとそれもないか、と思考をやめた。
「只今到着しました」
「ご苦労、リオン・マグナス。ウッドロウ殿の護衛の任を解く」
「はっ」
そう言ってリオンは後ろへ下がる。
「ウッドロウ殿・・・」
「ウッドロウでいいですよ。王にそのように呼ばれるなど恐れ多い」
「そうか、思ったより早く着いたのだな。先日クレメンテ老の死にスタンはたいそう心を痛めておる。それも考慮して接してやって欲しい」
「もちろんです。この知恵と知識をスタン王子のために」
後ろで見ていたリオンはただ淡々とその様子を見ていた。
(スタン王子か、あのバカ面だな)
謁見が済んだウッドロウとリオンは一言挨拶をしてそれぞれの場所へ戻っていった。リオンは屋敷に戻ると先ほどのウッドロウのことについて考えた。
(しかし、あんなのを教育係とは王も何を考えておるのだろうか。元教育係だとしてもあんな若い奴を起用していいのか?それにあの最後の口ぶりは裏があるように思えたが・・・)
「リオン坊ちゃま、どうかなされました?」
「マリアン、今はその名で呼ばないでくれ」
「わかりました。エミリオ。何か考え事ですか?」
いつもクールな表情の彼の仕草の違いを見つけられるのは彼女くらいだ。
「ウッドロウという男を送ってきた。王子の教育係らしいが怪しい奴だ」
「なるほど。しかしエミリオの勘は50%だからどうでしょうね」
「うるさい。それよりプリンは?」
「もちろん用意していますわ」
リオンは考えるのを止めて、デザートの時間を堪能しに食堂へと向かった。
その頃、スタンの部屋の前まで来たのはいいが、話しかける話題を持ち合わせていないディムロスが扉の前を行ったりきたりしていた。
「稽古といっても身が入るとは思わないしな、しかし・・・」
傍からみたら怪しい人物といった感じで、その姿をスタンの部屋に向かっていたウッドロウに見られてしまった。
「ん?どうなされました?」
声を掛けられてハッと止まったディムロスは恥ずかしさのためか一歩下がった。
「貴公は?」
「このたび教育係に戻されたウッドロウ・ケルヴィンと申します」
「あぁ、貴方か。私は剣術の師匠をやっています。ディムロス・ティンバーだ。
いや、様子を見に行こうとしたんだが、どうすればいいかと悩んでこんなことに」
テレを隠すように頭をかくディムロスに、ウッドロウは笑顔で応える。
「なら一緒に入りましょう。私も気になってきたものですから」
そう言ってにっこりと微笑んだ顔に安心したディムロスは、中に入れることに喜んだ。誰かいれば余計なことは言わないですむだろうと思ったからだ。
「では、さっそく。スタン、入るぞー!」
ディロスはそういうと扉を開けた。いつも遠慮なしに入っているので返事など待ちはしない。ずかずかと入っていくと、ベッドに包まっているスタンを見つけた。
「スタン?寝ているのか?」
「あ。ディムロス先生・・・」
寝ていたわけではないらしい。少し疲れた顔をして赤に金の模様が施された布団から上半身を起こした。大きな天蓋のベッドはスタンに何だか似つかわしかった。
「ちょっと気になったものでな。そうそう、ウッドロウ殿も来てくれているぞ」
「・・・っ!?」
青い瞳を大きく開いてスタンはディムロスの後ろにいるウッドロウを見つめた。爽やかに笑顔で手を振っているのが見える。
「久しぶりだね。スタン君。六年ぶりかな?」
「う、ウッドロウさん」
布団の中に埋もれている手が震える。
「成長したね。まぁあの時は私も若かったし、そうなるのは当たり前か」
ゆっくりと近づいて握手を求めてきた。スタンは拒みたかったが、ディムロスがいる手前振り払うことはできなかった。そうすれば何故と質問されるからだ。ゆっくりと手を上げると握手を交わした。きっとウッドロウには震えていることがばれただろう。
「気分が優れないようだね。今日のところは私は失礼しよう」
「あ、ウッドロウ殿」
「ディムロスさんはついていてください。まだ話すこともあるでしょうし」
出るタイミングをウッドロウに止められたため、彼は残らざる終えなかった。ウッドロウは一人部屋を出て行くと、怪しげな笑みを浮かべた。
「時間はたくさんあるからね」
その頃、ディムロスは困惑の中にいた。とりあえず話しやすいようにベッドの脇に座り込んだとたん、スタンに抱きつかれたのだ。あまりの出来事に全身真っ赤になってしまったのだが、スタンのほうは俯いていたため気づかれなかった。
「ど、ど、どうした?」
「・・・」
黙ったままのスタンは抱きついたまま身動き一つしない。
(クレメンテ老がなくなったこと、そんなに傷ついていたなど・・・)
そう思い優しく頭を撫でてやると、落ち着いたのか顔をゆっくりを上げた。なんだか放心状態のようにぼーっとディムロスを見つめている。
「大丈夫か?」
「先生・・・俺・・・」
「ん?」
スタンは何か言いかけたが、俯いてしまう。
「なんでもないです・・・。もう少しこうしていてもいいですか?」
何だかいつもと様子が違うスタン。
「構わない」
そう一言言うことが精一杯で、ディムロスはその場でしばらく黙ったままだった。スタンも何かから逃れるように、ディムロスを抱きしめて離さなかった。
しばらくして落ち着いたのか、スタンは腕を離した。顔を覗き込むと上にあげ、いつものスタンの表情に戻っていた。
「もう大丈夫か?」
「はい、すみません」
その言葉に少し安心した。言葉もさっきよりはっきりしゃべっていたし、ひとまず安心だろう。
「何かあったら私に言え。出来ることなら何でも助けてやるからな」
ぽんっと頭を撫でられると、スタンは少し困ったような笑みを見せた。きっと今は言いたくないことなのだろうと察したディムロスは一言言ってそのまま部屋を出た。
コメント
お題の貴族設定が満足できず、こんなものを作ってしまいました・・・。
長編になる予定ですので、興味があればお付き合いください。