7.自分の力






 遊戯がセトの部屋に戻るとそこに彼の姿はなかった。どこに行ったんだろうなんて考えていると、息を切らして走って来たアテムが現れた。
「セト知らない?」
「会ってないぜ。それより相棒、ようやく手掛かりが見つかったんだ!」
「ホント!」
 遊戯は勢いよく身を乗り出した。アテムは「いこう!」と手をとり走り出す。引っ張られる手の勢いに躓きながらも遊戯も嬉しそうに走った。

「マスター!」
 入って来た二人をみたマナは手を振っている。机に置かれた本の厚さに遊戯は驚いたが、それよりも早く手掛かりが知りたかった。
「どうやったら帰れるの?」
「これは確かじゃないかも知れないんだ。だからよく聞いてほしい」
 遊戯はこくんと頷いた。
「まず、先々代のファラオの話を聞いてください。この書物はそのファラオの記録なのですが」
 そういいながらマハードは開いているページの挿絵を指差した。
「これはどうやら異なる世界から来た人らしいのです」
「つまりボクたちみたいな人」
「そうです。そして彼らはファラオの願いを聞きとげた後、消えていったと書かれていました」
 遊戯は不思議に思った。
「願いって?」
「ファラオが願ったものは繁栄のようです。内容には共に戦い危機を脱っして長期に渡る繁栄をもたらしたと」
 しばらく考える遊戯。
「それっていわゆるセトの願いを聞きとげろってなるんだよね?」
「あぁそうだ」
「ボク、セトを探してくる」
 遊戯が扉のほうに歩いていくと外から扉が開いた。目の前の存在を確認したとたん、二人は同時に言った。
「セト!何処行ってたの?捜しに行こうとしてたんだから」
「ここに居たのか。急にいなくなるので、捜しに来たんだ」
 しばらくの間が訪れた後、遊戯は今の状況に気づいて笑った。
「なぁ〜んだ。ボクを捜してたんだ。ごめんね」
「いや、いいんだが・・・」
「丁度いいよ!セトこっちにきて!」
「なんだ?」
 遊戯はセトの手を掴んで引っ張っていく。セトはその手の感触に一瞬意識を集中してしまうが皆のいる手前、視線だけは前を向いているように努めた。
 それから遊戯たちの手がかりである先々代の王の記録の話を聞いたセトは、眉を寄せて考え込んだ。

 セトの願い。

 簡単に考えればこの国の繁栄だろう。しかし、国はすでにある程度まで栄えているし、誰かに頼らなくとも自分の力でよりよい国を作ることが出来るとセトは思っている。それは願ってて手にいれたいものではない。
「セトには婚約者が必要だぜ?」
 アテムが意地悪くそういうとセトはそれは願っていないと答えた。
「婚約者か・・・」
 遊戯が小さく呟いた。
「そのくらい自分で見つける・・・」
「じゃあ何か願うほどのものはないのか?」
(願うほどのもの・・・)
 セトはしばし考えた後ため息をついた。
「ない」
「「えぇええええ!!」」
 マナと遊戯が同時に叫んだ。
「静かにしろ。ないものはない」
「一つくらい何かないの?」
「・・・」
(奇跡に縋って手に入れたいもの、それは・・・)
「考えておく・・・」
 セトはそういうと立ち上がり、図書室を後にした。その間誰とも視線を合わさなかった。アテムは不満げな顔でその後姿を見ていたが、セトが出て行ったのを確認すると、すぐに遊戯のほうへ近寄った。
「厄介なファラオの時代に来てしまったな相棒、セトのことだ、何か考えてくれるぜ」
「うん・・・」
(相棒には悪いが、俺は心の中でどこかほっとしてるんだ・・・)
 その後、残りの本を調べたがそのファラオの時代の記録にしか手がかりは残っていなかった。皆が作業をしている間何もすることがない遊戯は何かをずっと考え込んでいた。
 
 夕食の時間も過ぎ、皆は疲れてすぐに床に就いた。遊戯はというとまた学ランから携帯を取り出し、しばらくそれをずっと眺めていた。
 瀬人とセト、現世と前世との関係かもしれない二人に会って遊戯の心はいろんな意味で揺れ動いていた。
(ボクはセトに海馬君を見ていた。でも、あの時気づかせてくれた時から、ボクはわかってたんだ。とっても卑怯だけど・・・)
 遊戯は携帯を元に戻して自分の部屋から出ると、真っ直ぐにセトの部屋に向かった。起きているか分からない。起きていなければすぐに戻ろうと思って部屋を覗いて見ると、そこにセトは居なかった。
「あれ・・・?」
 ベッドの方へと進んでみても、そこにはセトはいなかった。
「廊下にでも居るのかな・・・」
「人の部屋に勝手に入るとは、私を襲いに来たのか?」
 遊戯は肩を震わせてからゆっくりと後ろを向いた。そこには可笑しそうに笑うセトの姿が見える。
「驚かさないでよ!」
「驚かされたのは私のほうだ。どうしてここに来たのだ?」
「セト、この前夢の話をしてくれたでしょ?その夢と僕たちが関係あるならその中に貴方の願いがあるんじゃない?ボクはその願いを叶えてあげたい。貴方と・・・」
 遊戯はその後の言葉を綴ることを躊躇った。
「別れることに・・・なったとしても・・・」
(この言葉を言うのが辛い)
「フゥン・・・何を考えているのかと思えば」
 セトは遊戯の傍に近寄ると頭に手を置いた。
「無事に戻れるようにする。引き留めることなどしない」
(違う・・・そういうことじゃない・・・!)
 遊戯は何とか自分の思いを伝えたかったが、どういえばセトに届くのかわからなかった。いい言葉が見つからない。全ての言葉が別れに繋がってしまうからだ。
 ゆっくりと手を離すと遊戯から離れてテラスのほうへ歩き出す。遊戯はその後姿を見ているとなぜだか胸が締め付けられるのを感じた。
「願いか・・・。それを叶えると遊戯の問題は解決できなくなる」
「・・・」
 その意味を遊戯は理解できた。いや、もうわかっていたのかもしれない。
「だから、何か他を考えてみる・・・」
「そうやって、また自分だけ言いたいこといって逃げるの?この前の告白だって・・・ボクに気持ちを押し付けるくせに、ボクを悩ませるくせに、何も言わせてもらえなかったっ!キミは・・・ずるいよ・・・」
 セトはその言葉を黙って聞いていた。月夜を背に遊戯のほうへ振り返ると、真っ直ぐに見つめられら視線がそこにあった。
「ボクはキミの願いを叶えたいんだ。それが別れに繋がっても、セトのことが好きだから」
 最後の言葉にセトは眉を寄せた。
「私と遊戯の言う好きは違う・・・」
「わかってるよ。」
 そう言ってセトの正面へと近づいた。そのままセトを見上げると遊戯は意地悪く笑った。
「手に入れたいほどボクが好きなんでしょ?」
「遊戯!」
「だけどボクは海馬君もセトも同じくらい好きだって気づいたんだ。こんなの卑怯だけど、でもこれが僕の気持ち、こんなボクでもいいの?」
 その問いにセトは間も無く遊戯を抱きしめた。思わぬセトの抱擁の強さに遊戯は驚いたが、その後ゆっくりと抱きしめる力が抜けていくのを感じた。
「それはこっちの台詞だ。私は遊戯があいつを好きとわかっていて想いを口にしてしまったのだからな・・・」
「セト・・・」
 向き直って見詰め合う二人。すると何だが気恥ずかしくなった遊戯が視線をはずすと今度はセトが意地悪く笑った。
「・・・あいつのことなど忘れさせてやる」
「せ、セトっ・・・んんっ?!」
 一瞬何が起きたのか遊戯には理解できなかった。唇に触れる何か・・・。それに気づいた時遊戯の顔はとても赤く染まっていた。
「せ、セト・・・んふぅ・・・んふぁ・・・」
「愛している、遊戯」
 最後にセトは手の甲にキスをした。遊戯にとってそれまでもがとても刺激的だった。
 再び交わしたキスはとても甘く長いものだったけれど、二人の時の秒針は静かに動き出した。遊戯たちが還るその時まで。



コメント
この短さで終わらせようなんて考えが無謀でした。お題のみで終わらせるのはキツイ!www