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6.帰りたい






 それから遊戯はしばらくの間、セトと二人でいることが多くなった。図書室に収められている本の数は半端ではない。一日目が終わった時点でまだ見ていない本は果てのはてにあるような気分だ。きちんと整理されてあるのが救いということだろうか。関係のないと思われる書物であっても、先代の王が書き記した日々の出来事などが書いてあるため、無視することは出来ない。その中にヒントでもあれば・・・と思いながらアテム達は一冊一冊調べていくのであった。

「僕は何も出来ない・・・」
 
 図書室を調べ始めて早一週間。遊戯は今セトの後姿を見ていた。
 三日目の時、遊戯はやはり一緒に行くといって図書室に皆と向かったのだが、結局本を開いたところで中を読むことは出来ず、タイトルも石の棚にも書かれた文字を読むことが出来なかったため調べた本を元に戻すことすら他の者の力を借りなければならなかった。時間はいくらでもあるとはいえ、結局足手まといにしかならない。
「みんなボクのために頑張ってるのに・・・」
 落ち込む遊戯のため息は何度もれたことか。そんな遊戯をみてセトは職務を全うできないでいた。
(傍に居るのはいいが、ああ落ち込まれては気になって仕方が無い・・・。遊戯のできることを何か・・・)
 そんなことを考えていると、遊戯がいないことに気がついた。
「遊戯・・・?」
 辺りを見渡してもどこにもいない。何か用を思いついたのだろとセトは目の前の紙に視線を戻した。
(この記録を書き終えたら探しにいくか・・・)

 その時、遊戯はというと女官長を探していた。
「こんなことしか出来ないよね・・・」
 女の人に片っ端に声を掛けていく。広い王宮内を歩き回ってやっとのことで女官長を見つけることが出来た。そこはマハードと共にきた噴水の庭園だった。
「あの・・・」
「何でしょうか・・・?わたくしを探しておられたようですね」
「あのっ、ボクに飲み物が作れる場所を教えてください」
「どういう意味でしょうか?」
 唐突の申し出に女官長は訪ね返した。
「ボク・・・えっと、マナたちがボクのために図書室で調べ物をしているんですけど、ボクは文字が読めなくて・・・一人何も出来なくて、みんなの役に立ちたいんです」
 全てを話せない遊戯はたどたどしく言葉にしていく。女官はファラオの知人の子供と聞いていたので文字が読めないことに不思議に思ったが、王族のものではないのだろうと考えた。
「飲み物を持っていくことくらいしか今は思いつかなかったから・・・」
「それはわたくし達にお任せください。ファラオの知人の子にそのようなことはさせられません」
「ボクがやりたいんです!ボクが・・・」
 女官長はそれを聞いてしばし考えてから「わかりました」と答えた。
「優しい子でいらっしゃるのですね」
 にっこりと微笑まれた遊戯だが、自分がかなり子ども扱いされていることに気づいた。「多分、ファラオと同じ歳だよ」なんていっても聞いてくれそうに無かったので、そこは口を閉じたままにして微笑み返した。


 調べ始めてから2時間が経過していた。本棚の半分はすでに読み終わっている。
「次は先々代の王の記録ですね・・・」
「そうだな。・・・ん?」
 マハードの言葉に相槌を打つアテムは後ろの扉が静かに開く音がした。
「相棒!」
「う~ん」
 何やら後ろを向きながら扉を開けているらしい。不思議に思って近づいてみたアテムはその理由がすぐに分かってため息をついた。
「相棒、ありがとう」
「お疲れ様、もう一人のボク」
 中に入った遊戯の両手にはお盆に乗ったジュースがあった。机までそれを運んでいくと、マハードもマナも近寄ってきた。
「マスターに運ばせるなんて女官の人はどうしたんですか?」
 遊戯が運んできたことに驚いたようだ。
「ボクが無理を言って運ばせてもらったんだ。こんなことしか役に立てないから・・・」
「ありがとうございます!」
 それをきっかけに一旦休憩となった。マハードの分も用意したんだが、やはり飲めないらしい。遊戯とマハードは互いに謝ろうとして、アテムに笑われていた。
「気にすること無いぜ。相棒、マハード」
「それなら僕がもらっちゃう!!」
 最初に飲み終えたマナがそれを手にすると今度は皆が笑った。
「なに?」
「なんでもないぜ」
「そういえば、手がかりはみつかったの?」
 遊戯の言葉にアテムは落胆の色を見せた。
「まだ何も。でもまだ半分もあるんだ!何か見つかるさ!」
 励ますようにアテムは相棒にウィンクをした。遊戯は「うん」と頷きながらも内心不安だった。
「マスターの力になれなくて申し訳ない」
「ううん、ボクの方こそ皆の役に立てなくてごめんね。皆が頑張ってることボクは嬉しいから」
 遊戯はにっこりと微笑むと飲み終えたジュースを片付けていく。
「コップを返す約束だから、僕行くね」
「じゃあまたな」
「ありがとうございましたー!」
 そう言ってお盆を持って遊戯は外に出て行った。また何も出来ない自分に戻るのが無性に悲しくなる。きちんと調理場へ運び終えると女官長が遊戯を待っていた。
「さっきはありがとうございました。・・・ボクに何かようですか?」
「今、空いていますでしょうか?」
「はい・・・」
「では先ほどの庭園に向かいましょう」
 そう言って案内する女官長。
「?」
 何をしにいくかわからないまま遊戯は後を着いてく。
 噴水の場所へ行くと、女官長は「もっとこっちです」と奥のほうへ歩いていった。着いて着てよかったのかなと少々不安になる遊戯だったが、用があるならと思い大人しく付いて行く。丁度王宮の裏に出ると、遊戯はあるものを目にした。
「あ、すごいっ!」
「ここは王宮内唯一の花が咲く庭園でございます」
 そこはこの国に来てから初めて目にした草木や花々だった。噴水近くの庭園は石と砂の黄色い庭でしかない。
「綺麗・・・!砂漠でも花は咲くんですね」
「この地帯だけです。もっと遠くに行けばオアシスがありますが・・・」
 辺りを見るとあまり人の出入りがなさそうな様子だ。遊戯は水遣りでもして欲しいのかと思って尋ねてみたら可笑しそうに微笑まれた。
「何だか寂しそうだったので、連れ出してしまいました。申し訳ありません」
「謝るなんて、こっちこそ気を遣わせてしまって・・・」
「何かあったのですか?」
 そう聞かれて遊戯は正直困った。全てを話したところで信じてもらえるわけがない。自ら置かれている状況ですら自分が一番驚いているのだから。
「何かできることはないかなって考えていたんです・・・」
「傍にいるだけで癒される人もいるのではないでしょうか。それでは満足していないようですけれども」
「うん。皆に心配しかかけてないのかもしれません」
「少しくらい甘えたほうが可愛げがありますわ」
「えーっと、ボク・・・」
 やっぱり子ども扱いされている。年齢くらい訂正してみようと思った矢先、先に言葉を続けられた。
「真実はしりませんが、貴方のために頑張ってくれるということはそれだけ過去に貴方が相手にそれだけのことをしたということではないでしょうか?子供だからというだけではそのようなことをするわけがないのですから」
 その言葉を聞いて少し心が落ち着いた。全てが晴れたわけではないけれど、少し心が軽くなる。
「不安を表情に出していては皆様に心配されるのは当たり前です。少しくらい甘えてもいいのですよ」
 その女官長の言葉は何故かすーっと心の中に響いていた。とても不思議な気分だった。遊戯はどうしてこうなってしまったんだろうと花を見つめ思った。
「ボクはただ帰りたいだけなんです・・・」
 そう聞こえないように呟きながら。




コメント
今回は短いですね・・・。
謎の女官長・・・、しかしこの場面しか出てきません!