1、召喚





―――どうしてこうなったかなんて、ボクに聞かれてもわからない。


「貴方は…っ!」
 目の前に見える人はボクの見知った人。だけど、そんな、ありえない。
 磨かれた石で出来た広い部屋に、変わった石像が並べらているのをみてボクはこう言った。
「なにこれぇ…」




ことの始まりは突然で不可思議だった。
 新作子供向けバーチャル格闘ゲームのテスト試行のために海馬コーポレーションに呼び出され、モクバの相手役をしたのがだいぶ前に感じられる。技が豪華過ぎてどれが必殺技か奥義なのかごちゃごちゃしててわからない、なんて余計なことを言ったのが悪かったのか。その後、雨が降っていたため送ってくれるという海馬の好意を無下にしたからか。それとも雷が鳴り始めたのが悪かったのか。
思い出しても原因がわからないことだけが再確認できた。
(もうひとりのボク…)
 頼るべき相手を呼んでみたが、何の反応もかえってこなかった。
(あれ?…アテム?)
首にいつもかけている千年パズルがない。
「あぁ、そっか・・・」
「…ファラオ、生きておられたのですか!?」
その言葉に遊戯は後ろを振り返った。しかし、そこには人はいない。
「貴方です!ファラオ!」
目の前の男は思いきり大声で叫んだ。
「えっ…ボクのこと!?セト!」
 この時初めて、遊戯は今置かれている現状を理解し始めた。

 ここはどうやらセトの部屋のようだ。部屋の前の護衛の二名が何事かと声を荒げて入りかけたが、セトが「なにもない!」と言ったおかげで今に至る。
「だから〜、ボクはファラオじゃなくて遊戯って言って…」
セトは容姿の似た遊戯をどう接しればいいかわからなかった。雰囲気が何だか違うので遊戯の言ったとおり別人のようだが、しかし血縁のものかもしれない。あるいはファラオの生まれ変わりではないか、などと3000年後の瀬人が聞いたら「非ィ科学的だ!!」なんて叫んでいたかも知れない。
「ユウギ・・・様、ならばどうして私の名を知っているのです!」
「えっと、それには話せば長いわけが・・・」
 困った顔をしながらどうしようかと考えていたが、仕方ないと言ってため息をついた。


 一方、修行中のマナのところでも大事件が起こっていた。
「ふぁ、ふぁ、ファラオー!?」
「いってぇ・・・、なんなんだ一体・・・」
 目の前で頭を抑えて立ち上がったのは、一年前に見送ったアテムだった。遊戯とは違い、マナの居る時代の衣装を着ている。城から少し離れたところで魔法の鍛錬をしていたのだが、まさか自分が呼び出した?なんて思ってしまうマナであった。
「ブラックマジシャンガール?!」
 状況を把握できていないアテムは、マナを見るなり驚いた表情をみせた。丁寧に人に指まで差している。
「違いますー!僕マナです!ファラオ・・・いえ、アテムどうしてこんなところに?」
 互いに状況が把握できていない。アテムは腕を組んで思い返してみるが、一向にここに来た原因が見当たらない。
「ここはいつなんだ?俺は死んでいるのか?」
「そうです!一年前に見送ったよ!・・・蘇ったの?」
「それは違うと思うぜ・・・」
 こんな時代にアテムが生きていたら混乱を招いてしまう。とりあえず、アテムはマナのマントを借りて、城まで連れて行ってもらった。城には思った以上に人がおらずアテムは不思議に思った。
「どうして兵がいない?」
「みんな街の復興作業に出かけるの。最小人数で今は護衛しているのよ。ファラオが街の人たちのほうを優先しろって」
 心配して肩をすくめているマナを見て、セトはちゃんとやっているんだなと微笑んだ。連れてこられた場所は元アイシスの部屋だった。どうやら今はマナが使っているらしい。魔道書やその他の色々な道具が棚に収められている。
「それよりもファラオに報告してこないと!アテムが生きているって言ったら喜ぶもの!」
 にこにこと報告をしにいこうとしているところをアテムは遮った。
「どうしたの?」
 アテムの行動が理解できないマナは不思議そうな顔でアテムを見つめる。
「言わなくていい。俺が生きているって知ったら皆混乱するだろうし、セトだって困ると思うからな」
「そうかな〜?」
 納得できなさそうな声でマナは眉をひそめるが、部屋の中のほうへ戻っていった。それをみて安心したのもつかの間、フードを被っているとはいえ装飾品や顔を見ればバレてしまう。アテムはとりあえず装飾品をはずすとマナに預けた。
「今ならシルバーのほうがいいぜ・・・」
 そんな呟きを聞いてたのか聞いていなかったのか、マナは何処からとも無く服を探し出してきた。
「どうしたんだ、それ」
「お師匠様の。この服をとりあえず着ていて」
「・・・すまない」
 いわゆる形見なのだろう。それを貸してもらうことに罪悪感が生まれる。マナは「アテムが着てくれるならきっと大喜びよ」とにこやかにいうと部屋を出て行った。
「こういうところでは気が利くんだけどな」
 急いで服を着替えると、少し大きいのか足元がだぼっと余った形になってしまった。こうしていると何だか自分の身長が恨めしい。もう大丈夫だと伝えるとマナが入ってきた。
「あーやっぱり〜」
「・・・」
「あ、えーと、お師匠様の服まだあるからそれから選ぶ?」
 フォローのつもりで聞いたのだが、アテムはため息をついて「これでいい」と言った。どっちにしろマハードの衣装ではどれも裾が余るからだ。
「・・・ごめんなさい」
「いや、いいんだ。こっちこそすまない」
「じゃあ、上からこのフードで隠してね。僕は隠さなくても良いと思うけど」
「ありがとう」
 マントを羽織ってフードを被る。なんとか人目では誰か分からないくらいにはなった。しかし王宮の中でうろいろしていては不審に思われるだろう。アテムとマナは街の様子を見に行くため、王宮の外へと出て行った。


「・・・ということは、貴様は未来の千年パズルの所有者であり、前ファラオと肉体を共有していたと?」
 信じられない話に驚きを隠せないセト。遊戯はその反応に懐かしさを覚えていた。海馬も最初知った時同じ顔をしていたからだ。
「そう。もう一人のボクとは入れ替わったりしていたんだ。今はパズルも無いんだけど・・・」
 少し前まではあったんだけどね・・・と呟く遊戯。セトは自分の持っている千年パズルを見つめた。
「貴様の話が本当なら、ここに二つの千年パズルが存在できないのかもしれないな。もしかするとファラオもこちらに来ているのでは・・・」
 それを聞いて遊戯は驚いた。
「ボクの話信じてくれるの?」
「俄かには信じがたいが、目の前にいきなり現れ、前ファラオの過去の出来事などしっていて無下にするわけにはゆかぬだろう」
 それを聞いて遊戯はほっと安心した。実はこのまま「信じられるか!」などと言われて追い出されると思っていたのだ。
「ありがとう!セト」
 にっこりと笑顔で伝える。その笑顔にセトは一瞬胸の痛みのようなものを感じた。
(な、何だコレは・・・!?)
 自分の感情の出来事に戸惑っているセトとは別に、遊戯も戸惑っていた。
「あ、今はセトじゃなくてファラオって呼ぶのがいいん・・・ですよね」
「あ、ああ」
「これからボクはどうすればいいんだろう。もう一人のボクがここに来ていればいいんだけど・・・」
 住む場所もないので苦労しそうだなぁ、なんて間抜けたことを口にしながら遊戯は頭を傾げた。今来ている学ランもこの時代では不審に思われるだけだろう。とりあえず、王宮から出て街に行こうと考えた遊戯はセトにお辞儀をした。
「あ、ありがとうございました。ボクこのままだと迷惑だと思いますから街に行きますね」
「・・・」
 遊戯は部屋を出て行こうとしたが、一歩進んだところで動けなくなった。否、引き止められていた。
「あ、あのー・・・?」
「街に出てどうするのだ。貴様みたいな不審者を親切にするものなどおらん。それに出て行けといった覚えは無いはずだが?」
 その言葉を聞いて遊戯は苦笑した。
「何故笑う・・・?」
「ごめんなさい、その優しいところがある人に似ていたからね」
 そういう遊戯の表情はとても幸せそうだった。
(・・・想い人といったところか・・・)
 そう考えたところで、セトは頭を振った。
(何を考えているんだっ!)
「あのー・・・」
「な、なんだ!!!」
 動揺に対して大声を出してしまったセトは一瞬しまったと思ったが、遊戯は別段気にしてないようだった。
「腕、痛いかな・・・」
 気がつけばセトの手はしっかりと遊戯の腕を掴んでいた。
「すまないっ」
 パッと手を離すと遊戯は「ありがとう」と言った。お礼の言葉を述べられる立場ではないはずなのだが。そしてふと冷静に戻ったセトは自分のしていたことを思い出した。
「私は職務の途中だったのだ、すまないがしばらく待ってもらうが・・・」
「大丈夫、そういうの慣れてるからね」
 遊戯はそう言って適当に部屋の端の角ばった出っ張りに座った。セトは違う部屋に案内しようとしたのだが、そこにちょこんと座った遊戯をみてそのままにしておいた。セトはさっさと仕事を片付けるため机の前に座りペンを動かし始める。遊戯は遊戯で海馬邸のときのようだと思いながら、セトの後姿を見つめ待つことにした。




コメント
古代編の遊戯とセトって出会ってませんよね?あれって出会ってるんですか?!
まぁ出会ってない設定で続いていきます(ぇ